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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
変わる世界
36/86

15階層 中ボス【ウォームレクス】

「何がやっかいなん?」


 ワビスケの呟きにマイコさんが反応した。


「アイツ、名前はウォームレクスって言うらしいんだが、ステータス自体はそこそこって感じだ。

 そうだな。

 トロールレクスよりは強い。

 イベントで戦ったヤマタノオロチと同じくらいか。

 雑魚じゃないし一人で倒せるような相手でもないが、見た目の印象ほどの強さはないと思っていい。

 あくまでステータスの上では、だが。

 問題は、アイツもサンドウォームと同じ能力を持ってるってことだ」


「同じ?

 それってまさか……」


「ああ。

 陸上無敵だ」


「ほんまに?

 それってかなりヤバイやんな?」


「サンドウォームと違って、普通に地上にいるからな。

 さっき話してたようにこのままじゃ誰も倒せないだろうな」


 ワビスケの言う通り、ウォームレクスは地上で悠然としていて地中に潜りそうな素振りは見せない。


「どうするん?

 まだこっちに気づいてないみたいやから今やったら逃げられるやろうけど」


「それもありかもしれない。

 ただ、退却して出直しても状況は変わらないだろうからな。

 とりあえず、一度は戦っておいた方がいい。

 どんな敵かを確認しておくだけでも意味はある。

 次に生かせるからな」


「かと言って何の対策もなしに真っ直ぐ突っ込んでも、どうにもならんやろ?」


「ああ、だからできるだけの対策はする。 

 っていうか、今から考える」


「今からって……。

 はあ。

 ちなみにアイツの能力やねんけど陸上にいる間はどんな攻撃も効かへんのやんな?」


「ああ。

 多分物理だろうが魔法だろうがそれ以外だろうが、何をしても効かないと思う」


「そんなんどうしようもないやん。

 熊、どう思う?」


 マイコさんはお手上げとばかりに両手を上げて、熊に話を振った。


「そうだな。

 まず、陸上ってのは具体的にどの範囲なんだ?」


「範囲?

 単に陸の上ってことだろ。

 だから地中は当てはまらないんだろうしな」


「空中は?」


「空中?

 いや、分かんねえ。

 でも、多分陸上ではないと思うぜ」


「あと、攻撃が無効ってのはどういう意味だ?

 単にダメージが入らないだけで衝撃などは伝わるのか?

 それとも、攻撃自体が消されてしまうのか」


「それも確かなことは分からない。

 が、攻撃が消えるってことはないだろうな。

 アイツの陸上無敵は10階層のスライムレクスの物理無効と同種の効果のはずだ。

 スライムレクスを攻撃したとき、ダメージは通らなかったが衝撃は伝わってた。

 全部跳ね返されてはいたがアメノムラクモやハンマーの攻撃に対する反応でそれは分かる。

 だから、コイツも同じようなことになると思う」


「だったら、少々荒っぽいが方法はある。

 有効かどうかは分からんが」


「お、マジかよ?

 どうするんだ?」


「ありったけの爆発系統の攻撃をアイツの体の下にぶち込む。

 ワシの爆弾やバズーカ、ワビスケのロケットランチャー、使えるなら小僧の剣の斬撃もだ」


「それでどうするんだ?」


「アイツは陸上では攻撃が効かないんだろう。

 だったら、陸上以外の場所に連れて行くしかない。

 だが、あの巨体だ。

 運ぶことなど不可能だろう。

 それなら、吹っ飛ばして空中に浮かせるか、地中に叩き込むか、どちらかだ」


「なるほどな。

 それでアイツの真下に爆発系、か。

 確かにそれでアイツの体が多少なりとも浮けば、その間は攻撃が通るだろうな。

 もしアイツ自身が浮かなくても、土が吹っ飛んで結果としてアイツの下に空間ができれば、判定だけは空中ってことになって攻撃が通るってことか」


「ああ。

 この辺りの階層の地面はサンドウォームが移動しやすくするためか、比較的柔らかいようだ。

 激しく爆発させれば、かなりの規模で土を吹き飛ばすことができるだろう。

 というか、連続して地面を攻撃すればそれなりの穴くらいできるかもしれない。

 アイツがその穴に落ちれば、地中に埋めたってことになるだろう。

 どちらにしろ、陸上という判定さえなくせばいいわけだからな」


「確かにな。

 流石は熊だぜ。

 それは試す価値アリ、どころか現状それがベストの選択肢だろ。

 早速やってみよう。

 ああ、もし予想と違って攻撃が消されたり、全く意味がなかったりしたら一旦退却だ。

 そん時は対策を練り直そう」


 僕たちは熊が提案した方法で攻撃することにした。

 熊は爆弾、マイコさんはバズーカ、ワビスケはロケットランチャー、僕はビーム砲だ。

 僕はスライムレクスを倒した時の剣から出たやつでもいいって言われたけど。

 残念ながらできる気がしない。

 大体、あの時はスライムレクスの攻撃が飛んできて本当に必死だったから、自分でもどうやったのかなんて覚えていない。

 とりあえず剣を振っていたら出たんだ。

 だから、今回は確実な熊のビーム砲を使わせてもらうことにした。

 ビームは爆発したりはしないけど、今回は地面に衝撃を与えるのが目的だから使えるはずだ。


「もう少し近づいてから攻撃しよう。

 ただ、できたら俺たちに気づかれる前に攻撃したいから、近づくのは慎重にな」


 ワビスケを先頭にして、静かに進む。

 この辺りの階層は見晴らしがいいから、隠れて進むことはできない。

 というか、もういつ見つかってもおかしくない状態だと思う。

 向うからもこっちは見える位置だし。

 今は運よくウォームレクスが僕たちとは逆方向を向いているから気づかれていないだけだ。


「よし、この辺でいいだろ。

 これ以上近づいたら、巻き込まれかねないからな」


 ワビスケの言葉にみんな武器を構えた。


「じゃあ、タイミングを合わせてアイツの真下に攻撃だ。

 それから、少しでもアイツが浮くか、地面に穴が開いたら間髪を入れずにアイツ本体に攻撃する。

 いいか?」


 みんな頷いた。


 そして、ワビスケの合図で一斉に攻撃した。


 全員の攻撃がウォームレクスに降り注いだ。

 正確にはウォームレクスの下の地面に、だけど。


 それは物凄い威力だった。

 キリアラプトルに攻撃した時と同じか、それ以上だ

 全員で攻撃しているから当然なんだけど、あまりの爆発に激しく砂が舞っている。

 視界が遮られてウォームレクスの姿が見えない。


「これじゃ浮いたかどうかなんて分からへんやん!」


 マイコさんの言う通りだと思う。


「大丈夫だ。

 俺のレンズでアイツの状態は見えてる。

 それで確認できる。

 とりあえず、撃ちまくれ!」


 そう言いながら、ワビスケは攻撃を続けている。

 目の前はもうほとんど砂の壁みたいになっていて、何も見えない。

 本当にこれを続けていていいのか不安になってきた。



「来たぞ!

 浮いてるのか、埋まってるのか分からないが、無敵じゃなくなった。

 撃ちまくれ!」


 成功したみたいだった。

 僕たちはその声に反応して一層激しく攻撃した。




 しばらく攻撃を続けた後、みんな弾を撃ち尽くしてしまった。


「どうだ?

 無敵じゃなくなったのは確かだが、どの程度ダメージを与えられたか……」


 ワビスケはモンスターの状態は分かっても、細かいダメージまでは分からないらしい。

 僕は気配を探った。


「まだモンスターの気配はあるから、倒してはいないと思うよ」


「そうだろうな。

 その気配はどの辺からしてるんだ?」


「それが、ちょっと分からないんだよ。

 大きすぎて、見えない部分いっぱいにモンスターが広がってるみたいに感じるんだ。

 でも、最初よりは弱々しい気がする」


 話している間に、視界が回復してきた。


「あれ?

 おらんやん」


 ウォームレクスの姿は見えなかった。


「ていうか、ゴッツイ穴ができてるな。

 熊の予想通りやん」


 僕たちが攻撃していた辺りに大きな穴が開いている。

 正確には、窪みって感じだけど。


「あんだけ攻撃したからな。

 それで、ウォームレクスはどこ行ったんだ?

 埋まったのか?

 エイシ、分かるか?」


 ワビスケに言われて気配を探ろうとして気づいた。

 窪みの位置と僕たちの間くらいの部分の土が少し盛り上がっている。

 そして、その盛り上がりはこちらへ向かってきている。

 同時に、巨大なモンスターの気配もこちらに移動している。


「うわわわわ。

 すごいデカいのが地面の下を移動しているよ。

 こっちに近づいてくる。

 あれだよ」


 僕は土の盛り上がりを指さした。


「なるほど。

 自分から地中に逃げたか、俺たちの攻撃で埋もれたか、それは分からないが、これはチャンスだ。

 地中にいるってことは今アイツは無敵じゃないはずだ。

 また陸上に出てくる前に倒すぞ」


「分かった。

 とりあえず、あの土が盛り上がってるとこ攻撃したらええんやな」


 マイコさんは持っていたバズーカを放り投げて、いつものハンマーを取り出した。


 そして、まだ少し距離があるウォームレクスの移動地点に向けて大きく飛んだ。

 空中でハンマーを振りかぶる。

 いつも思うけど、マイコさんの身体能力は異常だ。

 めちゃくちゃ身軽そうなのに、やたらパワーがある。

 どこからあんな力が湧いてきてるのか不思議だ。


 マイコさんは大ジャンプから着地する勢いも乗せて、ハンマーを地面に叩き付けた。


 ボフン!!!


 柔らかい砂の上に攻撃したから、音は少し間の抜けた感じだった。

 だけど、その威力は計り知れない。

 なにせ、地面が小さく凹んでクレーターができている。

 隕石でも落ちたみたいだ。


「ウォームレクスの動きが止まったみたい。

 効いてるよ」


 気配を探りながらマイコさんに言った。

 まあ、土の盛り上がりが止まったから、言われなくても分かってるかもしれないけど。


「そうみたいやな。

 どんどんいくで!」


 マイコさんは続けてハンマーを振りかぶる。


「ありゃ俺たちが加勢するのは無理だな。

 近づいたら邪魔だ」


 ワビスケがマイコさんを見ながら言った。

 僕も同感だ。


「まあ、何が起こるか分からないから武器だけは持っとけ」


「うん」


 僕とワビスケはアメノムラクモを、熊はいつものグローブを手にはめて、戦える準備だけはした。


 再びマイコさんの一撃が振るわれた。

 地面の凹みがさらに大きくなる。


「エイシ君。

 ウォームレクスはまだこの下におるんやんな?」


 もう土は盛り上がっていないから、マイコさんにはどこにウォームレクスがいるのか分からなくなったらしい。


「うん。

 マイコさんの攻撃を受けてから、止まってるよ。

 あ、ちょっと待って。

 動き出したみたい」


「まだ動く元気があるんか。

 しぶといやっちゃな。

 どっちに動いてるん?」


「え?」


 もう虫の息かと思っていたウォームレクスがものすごいスピードで動き出した。


「どうしたエイシ?」


「さっきよりもずっと早いスピードでこっちに向かってるよ!

 それも深い場所を移動してる!」


 そのせいで土が盛り上がっていない。

 かなり深い位置にいるみたいだ。


「あの野郎。

 俺たちが土の盛り上がりで移動を確認してるのに気付いたのか。

 小賢しい。

 今、どの辺だ?」


「もうこの下だ!

 出てくるよ!」


 陸上に出てこられたらまた無敵になる。

 その前にどうにかしないと。


「させるかっ!

 おらぁああ!」


 熊が地面を思い切り殴りつけた。

 同時に熊の手の先で爆発が起きる。

 ヤマタノオロチに使っていた爆発するグローブだ。

 地中で爆発が起きて、それに合わせて砂が吹き飛ぶ。

 砂の下にウォームレクスがいるのが見えた。

 巨大な顔がこちらを向いている。

 本当にもうすぐ出てくるところだったみたいだ。

 今は爆発の衝撃のおかげで動きを止めている。

 その顔を熊が連続して殴りつけた。


 その度に爆発が起きる。

 ウォームレクスの顔は少しだけ地中から出ているけど、まだ攻撃は無効にはなっていないみたいだ。

 熊の攻撃で明らかにダメージを負っている。

 ウォームレクスの体の大部分が地中にあるからだろう。


「加勢するぜ!」


 ワビスケがアメノムラクモで熊の横からウォームレクスに切り付けた。

 ウォームレクスの外皮が切り裂かれる。

 ちゃんと攻撃は効いている。


 僕もぼさっとしてないで手伝おう。

 そう考えてワビスケと熊の攻撃の輪に近づこうとした、その僕の目の前でウォームレクスが大きくもがいて首を振り乱した。

 それは、攻撃ではなかったのかもしれない。

 単に、繰り返されるワビスケと熊の攻撃を嫌がったような、そんな動きだった。

 でも、その巨体で暴れるということは十分に驚異的な攻撃になった。

 すぐ近くにいたワビスケと熊は突然のことに避けようがなかった。

 その動きをまともに受けて吹き飛ばされてしまった。


 僕も近くにはいたけど、まだ攻撃する前だったし二人よりは距離があったから、なんとか避けることができた。


 でも、ワビスケたちがいなくなった今、僕はウォームレクスと一対一のような形になってしまった。

 まだウォームレクスはほとんど土の中にいる。

 首から上の一部が出てきているだけだ。

 だから、攻撃は通ると思う。

 でも、目の前で大きな口を開けたモンスターが迫ってくる様子は恐怖以外の何ものでもなかった。


「う、うわわわわ」


 視界の端にこちらへ走ってくるマイコさんが見える。

 だけど、ウォームレクスの攻撃が僕に届く方が早いだろう。


 僕は大きな恐怖を感じて足がすくみそうになっていた。

 最初にファスタルで狼に襲われた時と同じような状況だ。

 全ての動きがやたらと遅く見えている。

 スローモーションの世界に迷い込んだみたいだ。


 そんな世界で僕は思う。

 嫌だ。

 こんな所で死にたくない。

 こんな形で終わりたくない。

 せっかく楽しくなってきたところなのに。

 自分にもできることがあると分かってきたのに。

 ようやく始まりそうだったのに。

 こんなヤツにやられるはずじゃなかったのに。


 そんなことを考えた時、ふと、握っているアメノムラクモに気づいた。


 そうだ。

 狼の時とは違う。

 あの時は対抗する術がなかった。

 だから、死を覚悟するしかなかった。

 でも、今は違う。

 今は倒す術を持っているじゃないか。


 自然な動きで、迫ってくるウォームレクスに向けてアメノムラクモを振った。

 刃先から巨大な刃上の何かが飛び出る。


 それは、ウォームレクスを簡単に分割して、そのまま砂漠を大きく割りながら飛んで行った。






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