神話の生物
「キリアラプトル?
なんやそれ?」
マイコさんは知らないみたいだ
「ラプトル系の最上位種とされているやつだ。
と言っても神話に出てくるとかいう噂だけで、実在はしないって言われてた。
ただの裏設定に出てくる生物だってな」
「このイベントはそんなんが出てくる予定やったん?」
「少なくとも俺が調べた中にそんな情報はなかった。
でも、告知ではラプトルの上位種が現れるとしか書いてなかったから、そうだったのかもしれない」
「とにかくコイツを倒さなクリアってことにはならへんのやろか?」
「多分そうだと思う。
この時間に出てきたってことはコイツがこのイベントのボスってことなんだろうしな」
「じゃあ、やるしかないやんか」
「俺たちだけでやれるかどうかは何とも言えないがな。
まあ逃げる意味もないし、放置してもいいとは思えない。
やるか」
ワビスケのその言葉でマイコさんと熊が戦闘態勢を取った。
そうして、僕たちはキリアラプトルと思われるモンスターと戦うことにした。
「基本はヤマタノオロチと戦う時と同じでいこう。
熊とエイシが攻撃した箇所を俺とマイコが削る。
とりあえず熊、最初に酒をぶっかけてくれ」
「おう、分かった」
そう言って、熊は近くにあったお酒の入った樽をキリアラプトルに投げつける。
それは勢いよくキリアラプトルに当たって中身をぶちまけた。
こうしたらクワドラプトルやヤマタノオロチは少し動きが鈍くなる。
キリアラプトルに効いているのかどうかはよく分からないけれど、ラプトル種なんだったら全く無意味ってことはないと思う。
キリアラプトルは煩わしそうにお酒を振り払うと、こちらを見た。
僕たちはまだ攻撃せず、キリアラプトルの様子を観察していた。
と、何の前触れもなくいきなりキリアラプトルの首の一つがこちらに巨大な炎の塊を吐いてきた。
ヤマタノオロチの火とはスピードも大きさも全然違った。
あまりに突然の行動で、僕は全く反応できていない。
何が起きているのかに気づいたときには目の前まで炎が迫ってきていた。
「避けろっ!!」
ワビスケが間一髪のところで僕の手を引いて、炎から逃がしてくれた。
炎の塊はそのまま進んで、僕たちの後ろのゴミ山に当たった。
それは火柱を上げて大きく燃え上がる。
その勢いはキリアラプトルの炎が普通じゃないことを物語っていた。
「なんやねんアイツ。
いきなりめちゃくちゃな攻撃してきよったで」
「ああ、ヤマタノオロチの火とは比較にならない威力だ。
それも予備動作なしで。
これは、油断してたら一気にやられるぞ」
「とりあえずこっちから攻めた方がいいだろう。
まずはワシが行く。
ワビスケ、マイコ、サポートを頼む」
「おう」
「了解や」
熊が最後のヤマタノオロチ用に残していた爆発攻撃できるグローブを手にはめた。
そして、ものすごいスピードでキリアラプトルに突進する。
キリアラプトルは熊が迫ってくるのを見ているけど、避けるような素振りは見せない。
熊の拳がキリアラプトルの頭の一つに当たった。
ヤマタノオロチの時と同じように、触れた部分で爆発が起きる。
すごい音と衝撃が巻き起こった。
熊は続けて攻撃する体勢に入っている。
ヤマタノオロチの時と同じように連続攻撃するつもりみたいだ。
だけど、熊が次の拳を振るうよりも先に、キリアラプトルが頭の一つを鞭のように使って熊を攻撃した。
攻撃しようと拳を振り上げた体勢の熊には、キリアラプトルの一撃を避けることができなかった。
キリアラプトルの頭の一振りをモロに食らった熊は、大きく吹き飛んで近くのゴミ山に突っ込んでいった。
「熊っ!」
マイコさんが熊に呼びかけるが、倒れた熊は動かない。
「熊っ。
大丈夫なんか?」
マイコさんは熊に声をかけ続ける。
「マイコ、よそ見してる場合じゃないぞ!
熊はそれくらいなら大丈夫だ」
ワビスケが熊の方を向いているマイコさんに言った。
その言い方は冷たいような気がしたけど、ワビスケの顔には一切余裕がない。
それだけ、本当に緊迫した状況だということなんだ。
僕もキリアラプトルのプレッシャーを感じていたから、大変な相手だってことは分かっていた。
ワビスケは緊張したまま、熊が攻撃した部分をじっと見ていた。
僕もその部分をよく見てみた。
そこは大したダメージを負った様子はなく、ほとんど無傷と言っていいような状態だった。
「分かってる。
そやけど……」
マイコさんはワビスケの言葉に何か言いかけたけど、キリアラプトルを見て熊の攻撃が通じていなかったことに気づいたみたいだ。
それで、マイコさんの雰囲気も変わった。
「そやな。
コイツ相手に隙見せたら、ほんまに一瞬でやられそうや」
真剣な表情でキリアラプトルの方を向く。
ここまで、どこかちょっと余裕があったマイコさんから余裕がなくなった。
それだけ、熊の攻撃が効いていないというのは大きなことだったんだと思う。
「エイシ、熊に回復薬を使ってやってくれ。
その間、コイツは俺が抑えとくから」
「うん。
分かった」
「マイコ、お前も手伝ってくれ。
俺一人でアイツの相手はキツそうだ」
「分かった。
エイシ君、頼むで」
「はい、二人とも気をつけて」
僕はすぐにかばんから回復薬を取り出す。
ゴミ屋敷で見つけたやつだ。
倒れている熊に駆け寄って、それをかける。
回復薬は飲んでも効果があるけど、かけても同じ効果があるらしい。
熊の体が小さく光った。
ちゃんと効いているみたいだ。
光が納まった後、熊がゆっくり起き上がる。
「小僧、すまんな。
助かった」
大丈夫みたいだ。
「アイツをヤマタノオロチと同種と考えると痛い目に遭いそうだ。
ありゃあ、もう完全に別モンだ。
おい、ワビスケ、マイコ、戦い方を変えた方がいい!」
ワビスケとマイコさんはキリアラプトルに向かっていたけど、ほとんど攻撃はできていないようだった。
むしろ、必死に攻撃を避けているだけになっている。
「変えるっつってもどうすりゃいいんだ、よっ」
ワビスケがキリアラプトルの頭の攻撃を避けながら熊に聞いた。
「加減してる場合じゃない。
思い切りやらないとマズイ」
「何言ってんだよ。
今も本気でやってるよ!」
「ああ、分かっとる。
だがお前の本来のメイン武器はその鎌じゃないだろう」
「そりゃ違うけど。
ほっ。
あれを使ったらこの辺一帯めちゃくちゃになるぜ!
はっ」
ワビスケは器用にキリアラプトルの攻撃を避けながら話し続ける。
「それくらいせんと、コイツの相手は無理だろう。
接近戦はワシが受け持つから、変われ」
そう言って、熊が再びキリアラプトルに向かう。
「マイコ、ワビスケに思い切りやらせるから、注意しろよ!」
「聞こえてたわ。
ホンマは嫌やねんけど、これの相手やったらしょうがないか」
マイコさんも何をするのか分かっているみたいだけど、僕には何の話をしているのか分からない。
ワビスケがこっちに走ってきた。
「エイシ、今からちょっと派手な攻撃をするから、自分の身を守ることだけ考えとけよ。
ていうか、そこで寝とけ」
「え?
う、うん」
ワビスケは僕に注意だけすると、すぐにかばんの中を漁り始めた。
僕はワビスケの言葉の意味が分からなかったけれど、とりあえずしゃがむ。
ワビスケはかばんから大きな銃を取り出した。
銃と言うより、大砲と言った方がいいかもしれないくらい大きい。
ロケットランチャーとかそんな名前の武器だと思う。
それは、一つだけじゃなかった。
形の違うものをいくつか取り出している。
ワビスケのかばんは確かに大きいけど、どこにそんなに納まっていたのか首を傾げるくらいの大きさだった。
ワビスケは取り出した武器を地面に並べると一つを手に取って肩に担いだ。
「熊!マイコ!
行くぞ!」
「おう」
「ウチに当てたら後でどつくからな!」
「当てはしないが、衝撃は自分でなんとかしろよ!」
そう言って、ワビスケはそれを撃った。
シュッ、みたいな音を立てて、弾、というかミサイル?が発射される。
それは発射されてから轟音を立てて加速した。
そして、一直線にキリアラプトルの方に飛んでいく。
ワビスケが攻撃したのを確認して熊とマイコさんはキリアラプトルから一気に距離を取った。
そして、弾がキリアラプトルに着弾した。
瞬間、すさまじい爆発が起きた。
一体を物凄い衝撃と爆音が包み込む。
熊の攻撃も爆発していたけど、これはそれとは次元が違った。
「うわっ」
あまりの衝撃に僕は後ろへ吹っ飛ばされそうになる。
急いでその場にうつ伏せになって、衝撃をしのいだ。
「どんどん行くぞ!」
ワビスケの声が聞こえた後、
シュッ、ゴオオオオオオオオ
と、さっきと同じ音がなった。
そして、また激しい爆発が起きる。
それがそこから何回か続いた。
あまりの衝撃と爆音に何が起こっているのか分からなくなる。
「こんなもんか」
ワビスケの声が聞こえた時、辺りは静かになっていた。
ただ、砂煙で視界がはっきりしない。
でも、これだけの衝撃があったにも関わらず、キリアラプトルの気配とプレッシャーはなくなっていない。
「ワビスケ、まだ終わってないっぽいよ」
僕はワビスケに伝える。
「そうみたいだな」
ちょうど砂煙が少し晴れてキリアラプトルの姿が見え始めたところだった。
そして、徐々に視界が回復していく。
キリアラプトルは無傷のまま、元の位置から動かずにたたずんでいた。
「クソがっ」
ワビスケが忌々しそうに吐き捨てた。