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市民Aの冒険  作者: 半田付け職人
冒険の始まり
24/86

理不尽な結末

 ワビスケの攻撃はすごい威力だった。

 でも、それでもキリアラプトルには傷を負わせられない。


 ワビスケは苦々しげな表情をしている。


「簡単に倒せるとは思ってなかったが、まさか無傷とはな」


「大丈夫なの?」


「正直さっきのが効かないとなると、かなり厳しいな。

 だが、まだ他にも武器はある。

 色々試してみるしかない」


「僕も行くよ」


 見てばかりではいられない。

 こんな小さなナイフでキリアラプトルとどこまで戦えるか分からないけれど、ちょっとくらいはダメージを与えられるかもしれない。


「いや、ちょっと待て。

 俺の攻撃は接近戦をしているやつを巻き込む可能性が高い。

 熊とマイコは俺が何をするか分かってるから避けられるが、エイシは巻き添えを食らいかねない。

 だから、俺が一通り攻撃してから行ってくれ」


「うん。

 分かった」


 確かにさっきみたいな攻撃をされたら、キリアラプトルには効かないのに僕だけ消し飛んでしまうなんていう嬉しくない事態になりそうだ。


 僕に声をかけた後、ワビスケは地面に置いたあった別の銃を手に取った。

 それもかなり大きい。

 ワビスケはそれを真っ直ぐキリアラプトルに向けた。


 その銃からはレーザーと言ったらいいんだろうか、光の束のようなものが出た。

 僕の体くらいの太さがある。

 近くにいるだけで、そのレーザーの熱が伝わってきた。

 こんな武器は初めて見たけど、すごい威力があるのはすぐに分かった。

 あれに当たったら、僕なんか一瞬で消されてしまいそうだ。


 でも、そんなレーザーを正面から受けているのに、キリアラプトルは平気そうな顔をしている。

 一応、表面が少し焦げているように見えるけど、ダメージがあるようには見えない。

 というか、レーザーのことなんてほとんど気にもしていないみたいだ。

 さっきと違って爆発するような武器ではないから、熊とマイコさんが接近して攻撃している。

 キリアラプトルは、その熊とマイコさんを適当にあしらっていて、ワビスケのことは完全に無視している。


「何なんだよアイツは。

 これも効かないのかよ」


 ワビスケは持っていた銃を捨てて、また別のを持った。

 今度は小さなタンクみたいのを背負って、そこから出た管につながった先を手に持っている。

 そして、キリアラプトルの方に走って行った。

 その場からではなく、近づいて攻撃するみたいだ。


「熊、マイコ、離れろ!!」


 ワビスケの声に合わせて、熊とマイコさんが離れた。

 それを確認したワビスケが攻撃する。

 

 ワビスケの武器は火炎放射器だったみたいだ。

 それはタンクの小ささからは考えられないほど大きな炎を放っている。

 山のように大きなキリアラプトルを包み込むくらいの炎だ。

 それは全てを焼き尽くそうとするかのような勢いで炎を出し続ける。



 しばらくワビスケの攻撃は続いた。

 普通に考えたら、あれだけの炎にさらされて平気な生き物なんていないと思う。

 でも、キリアラプトルのプレッシャーはなくなっていない。

 激しい炎に包まれていてキリアラプトルがどういう状態なのかほとんど見えないけど、気配からして倒せてはいないと思う。


 タンクの中身がなくなってきたのか、少しずつ炎の勢いが衰えてきた。

 と、突然、ワビスケが火炎放射器をその場に捨てて、大きく横に飛んだ。


 直後、それまでワビスケがいた場所を炎の塊が通り過ぎた。

 キリアラプトルの攻撃だ。

 ワビスケはその攻撃に気づいて、咄嗟に逃げたみたいだ。

 間一髪だった。


「ワビスケ、大丈夫なんか?」


 マイコさんが駆け寄ってきた。


「ああ、なんとかな。

 だけど、危なかった。

 もう少しでやられるとこだったぜ」


「それにしても、あんたの攻撃がここまで効かへんってのはちょっとおかしいで。

 イベントボスやとしても強すぎるわ。

 こんなん、どうしようもないやん」


「ああ、今やってる攻撃はどれも最高に近い威力があるはずなんだけどな」


「これってほんまに倒せるんかな」


「分からねえ。

 今までは一度もそんなのなかったけど、負け確定のイベントなのかもしれない。

 でも、何かの条件を満たしたら攻撃が通るようになる、なんて可能性もある。

 だから、やれることはやっといた方がいい。

 熊、爆弾は持ってるか?」


「何個かは持ってるが、アイツに効くとは思えんぞ」


「でも、それなりの威力はあるだろ。

 俺の攻撃に合わせて攻撃してみてくれ」


「おう、分かった」


「かなりの衝撃になるはずだから、エイシとマイコは伏せとけよ」


「分かった」

「うん」


 ワビスケは地面に並べた銃の所に戻って、最初に攻撃した時と同じのを肩にかける。

 

 キリアラプトルはまだ炎に包まれていて攻撃をしてこない。

 多分、僕たちがどこにいるのか分からなくなったからだと思う。


「炎が消える前にやるぞ、熊!」

「おう!」


 ワビスケは熊に声をかけた後、すぐに攻撃を開始した。

 さっきと同じように、ワビスケが放ったミサイルは一直線にキリアラプトルの方に飛んで行く。

 そして、物凄い爆発が起きた。

 さらに、そこへ熊が爆弾を投げつける。

 ワビスケの攻撃でかなり強い風が吹き荒れているけど、熊が投げた爆弾はその風をものともせずに、すごい勢いでキリアラプトルに飛んで行った。

 ワビスケが撃ったミサイルの爆発と合わさって、それはすごい威力の爆発になった。

 ワビスケはさらに連続してミサイルを撃つ。

 熊もどこから出したのか、爆弾を2発、3発と投げる。

 爆発の規模はどんどん大きくなっていき、そのあたり一帯を吹き飛ばしていく。

 もう、そこにはゴミ山も何もなくなっていた。

 

 僕たちがいる辺りも危ない状況だった。

 さっきから瓦礫なんかがめちゃくちゃ飛んできている。

 僕とマイコさんは伏せているからマシだけど、そんな中を普通に立って攻撃を続けているワビスケと熊はすごい。

 あの二人は一体どうなってるんだろう。



 不意に攻撃が終わった。


「弾切れだ」

「ワシも手持ちの爆弾は使い切った」

「こんだけやって無傷だったらもう俺にはどうしようもない。

 エイシ、気配はどうだ?」


 普通に考えたらあの状況で生きていられるはずはないんだけど、残念ながらキリアラプトルは普通じゃなかった。


「……プレッシャーはまだあるよ。

 だから、多分まだ倒せてはいないと思う……」


 僕の言葉にみんなため息をついた。


「でも、さっきまでとはちょっと雰囲気が変わった気がする。

 だから、無傷ってことはないと思うんだけど……」


「そうか。

 瀕死とは言わないが、それなりにダメージを負ってくれてたらいいんだが」


 僕たちは一帯の砂煙が納まるのを待つ。

 この状態でキリアラプトルに突っ込んでも仕方ないからだ。

 さっきのより強い攻撃なんてできない以上、今むやみに突っ込む意味はない。



 視界が回復してきた。

 それとともにキリアラプトルらしき影がそこにいるのが見え始める。

 その影は微妙に動いていた。


「エイシの言う通り、倒せてはいないみたいだな。

 それは仕方ない。

 問題は攻撃が通ってるかどうかだ」


 パキッ

 ギシギシギシギシッ


 いきなりおかしな音が辺りに響き始める。

 そして、その音に合わせてキリアラプトルの影が動いている。


「おいおい、まだなんか変わるのかよ」


 ワビスケがうんざりしたような声を上げた。

 それは僕たちみんな同じ思いだった。


 不意に砂煙が晴れた。

 というか、内部から発生した風で吹き飛ばされた。


 そこには、大きく翼を広げたキリアラプトルがいた。


「さっきの音は翼が生えた音かよ。

 もうこれ以上変わらないだろうな」


 ワビスケはそう言いながら、キリアラプトルを凝視している。


「今さら翼が生えた程度では驚かねえよ。

 それよりも今はさっきの攻撃が効いたのかどうかだ」


 目の前のキリアラプトルは、今にも死にそうという感じではない。

 でも、よく見るといくつかの頭は潰れているし、体も所々焦げたり溶けたりしている。


「はっ。

 まあ、無傷じゃないだけマシってとこか。

 気休め程度かもしれないが、ダメージは通っているみたいだな」


「けど、実際ここからどうする?

 あの攻撃でこれくらいのダメージしかないんやったらどうしようもないで」


「いや、一応傷はできたんだ。

 そこを攻めて、削ろう。

 硬いのは外側の鱗部分だけのはずだから、なんとかなるだろう。

 でも、それでダメなら仕方ない。

 最後の手段だ」


「どうするん?」


「逃げる」


「は?」


「いや、だって倒せないなら逃げるしかないだろう。

 幸い、アイツあんまり積極的に攻撃してこないし、逃げることはできると思う。

 アイツが現れてから今まででけっこう時間は使えてるから、もうすぐイベントは終わる。

 逃げて、隠れて、終了時刻まで様子を見る。

 イベントクリアにはならないかもしれないが、やられるよりはいい」


「分かった。

 しょうがないやんな。

 それでいこ」


 僕たちは少し投げやりにキリアラプトルに突っ込んだ。

 ワビスケは最初に使っていた鎌、マイコさんはハンマー、熊はグローブ、僕はナイフだ。


 近づこうとすると、キリアラプトルは翼で風を起こしてけん制してきた。

 すごい風だ。


「小僧、ワシの後ろに来い」


 僕は熊の言葉に従って、すぐに熊の後ろに移動した。

 そこだと、風の影響はほとんどなかった。

 熊はそのままキリアラプトルの方に進んで行く。

 僕も置いていかれないようにしっかりとついて行った。


 僕たちがすぐ近くまで接近すると、キリアラプトルは翼を使うのをやめた。

 意味がないと判断したんだろう。


 ワビスケとマイコさんはすぐに潰れた頭を鎌とハンマーで攻撃した。

 その攻撃はさっきまでとは違って、確実にキリアラプトルの傷を大きくしている。


「よし、これならいけるかもしれへんで」

「ああ、どんどん攻撃しろ。

 おっと」


 攻撃しているワビスケに、キリアラプトルが別の頭で噛みついてきた。


「接近しすぎて攻撃を食らわないようにしろよ」

「分かってるわ」


 ワビスケとマイコさんは二人で連携して攻撃を加えていく。


「小僧、ワシらも行くぞ!」

「はい!」


 僕と熊はワビスケたちの連携には入らず、単体で攻撃する。

 熊はキリアラプトルの溶けた皮膚を思い切り殴った。

 そして、そこが爆発する。

 それはかなり効いているように見えた。

 キリアラプトルの皮膚が破けて血が飛び散っている。


 僕は熊の爆発の衝撃に巻き込まれないように、少し離れた部分を攻撃することにした。

 そこはそれほど目立った傷はないけれど、少し焦げていた部分だ。

 ナイフで切り付ける。

 その攻撃によって、キリアラプトルの皮膚が裂けた。


 信じられないことに、このナイフはキリアラプトルにも有効みたいだ。

 もちろん、無傷な所に効くかどうかは分からないけど、今の感じからすると効きそうな気がした。

 すぐに試すことにする。

 近くの無傷に見える場所を攻撃した。

 そこも切り裂くことができた。


「ワビスケ!

 僕のナイフ、コイツにも効くみたいだよ!」


 離れた場所で戦っているワビスケに向かって呼びかける。

 ワビスケとマイコさんはキリアラプトルの首の攻撃を避けながら、こちらを驚いた顔で見ている。

 二人のいる位置から僕の攻撃した箇所は見えないはずだけど、僕の言っていることを疑ってはいないみたいだ。


「マジか!

 分かった。

 じゃあ、俺はエイシがつけた傷を攻撃する。

 マイコはこのままここで戦ってくれ」


「了解や。

 任せといて。

 あんたらもしっかり頼むで!」


「おう、任せろ!」


 ワビスケがこちらにやってきた。


「おお、マジで効いてるな。

 ホント、お前はめちゃくちゃなやつだな」


「だから、僕じゃなくてナイフだって。

 ってそんなこと言ってる場合じゃないよ」


 僕はギリギリでキリアラプトルの攻撃を避ける。


「ああ、キリアラプトルの攻撃はできるだけ俺が引き付けるから、エイシはそのまま攻撃を続けてくれ」


「うん。

 分かった」


 僕たち四人はそのまま攻撃を続けた。

 キリアラプトルも攻撃を仕掛けてくるけど、なんとか避けることができている。

 まあ、僕はワビスケが攻撃を引き付けてくれているおかげなんだけど。


 ちょっとずつ、本当にちょっとずつだけど、ダメージを重ねていく。

 山のような大きさのキリアラプトルに対して、あまりにも小さな攻撃かもしれないけど確実に削っている。


「よし、このまま行くぞ!」


 鼓舞するようなワビスケの声を受けてみんなが頷いた、その時だった。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』


 いきなりキリアラプトルが大きく声を上げたかと思うと、体が光りだした。

 そして、ものすごい風が巻き起こって、僕たちは全員吹き飛ばされた。


 かなりの距離を飛ばされて、ようやく止まった。

 僕はなんとか起き上がって、みんなを確認する。

 みんな、かなり吹き飛ばされたけど無事みたいだ。

 良かった。

 キリアラプトルはまだ光っている。

 どころか、その光はますます強くなっている。

 そして、一瞬、目を開けていられないくらいの眩しい光を放った後、一気にそれが収まった。


 目が眩しいのに慣らされてしまって、周りが良く見えなくなった。

 何が起きたのかは分からないけれど、良くない雰囲気を感じる。


「なん……だと……」


 ワビスケの声が聞こえた。

 僕はそちらを見る。

 徐々に戻ってきた視界の中に、愕然とした表情のワビスケが見える。


「そんな……嘘やろ……」


 少し遠くでマイコさんが呟く声も聞こえた。

 そんな二人の様子に大きな不安感を煽られる。

 僕はその不安に急かされて、すぐにワビスケの視線を追った。


 そこには、無傷な状態のキリアラプトルがいた。



「ははは、さすがに参ったな」


 ワビスケは力なく笑っている。

 同感だ。

 こんなのどうすればいいんだろう。


 呆然としている僕たちを無視して、キリアラプトルは翼を広げる。

 僕たちは身構えはしたけど、ちょっと戦う気にはなれない。


 キリアラプトルはそのまま羽ばたき始めた。

 そして、宙に浮く。


「今度は何をするつもりや」


 僕たちの視線を受けたまま、キリアラプトルはどんどん上空に上がっていく。

 気づけば、その姿は小さな豆くらいにしか見えなくなった。


 そして、そのままどこかへ飛んで行ってしまった。


「は?」


 何が起こったのか分からない。

 多分、仲間の誰も理解できていない。


 辺りに静寂が訪れた。


「なんだと?」

「なんでやねん?」

「どういうことだ?」


 その時、ほぼ同時に僕以外の三人が疑問の言葉を呟いた。


「どうしたの?」


「それが、どうやらイベントクリア、らしい」


 僕たちは、全く流れについて行けなかった。





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