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R E D - D I S K 0 2  作者: awa
CHAPTER 07 * MIDDLE DAYS
45/119

* Need You Now

 翌日十八日は、アニタと一緒にペトラの家に行った。約一年半ぶりに彼女の母親に会った。なぜかは知らないけれど、ものすごく歓迎された。夕食までご馳走になって。

 アドニスとルキアノスからはメールが届いた。二人は別々にアルバムをレンタルして聴いたという報告だった。嫌がらせだろと怒られた。特にアドニスに。カントリーなんて普段ほとんど聴かないうえ、一曲はベタすぎるラブソング。しかもコーラスのハモリが難しい。彼らはいろいろと不満を口にしていたけれど、私が挑発すると、絶対覚えてやると言い張った。ベタなほうはアドニスがうたうらしい。

 そして日曜の夜。ケイから電話があった。

 ミッド・オーガストの十四日、家に帰ったあと、両親とイヤというほど話をし、何度もあやまられたらしい。

 十五日には再び、できる限りの親戚を集め、今度マルコのことを悪く言ったら、お前らの家と車をめちゃくちゃにしてやると脅しをかけたとも。

 さすがにちょっと違うだろと両親につっこまれたものの、両親は、確かにマルコは悪いことをしたけれど、それは許されないし、自分たちも一緒に償わなきゃいけないけれど──自分たちは三人でマルコの帰りを待つと、きっぱり言いきったという。親戚の反応は様々で、やっぱりすぐには変わらないだろうけど、わかるまで何度でも言ってやると息巻いていた。

 そのあと土日のあいだに、三人でマルコの荷物を部屋に戻した。なんでも十四日の夜は、空っぽのマルコの部屋の床で、三人並んで寝たらしい。母親であるシモーナの提案で、父親も賛成し、ケイは無理やりだったという。私はそこは、実はまんざらでもないのではと思っているけれど。

 電話をすることも手紙を書くことも許され、九月には、ラージ・ヒルの少年院にいるマルコに面会に行くとも言っていた。入院から一年、一度も面会に行っていなかったこともあり、あっさりと許可がおりたらしい。更生には家族の協力が不可欠だ、と。

 そして二十一日の火曜、また電話があった。ケイは約一年振りにマルコと電話で話したという。マルコは電話に驚きつつも、自分と話すことには喜んでくれて、時間制限があったから長くは話せなかったものの、面会のことも楽しみにしてると言ってくれたらしい。ケイのブラコン度がますます加速したようだ。マルコは両親と話すことには抵抗があるらしいものの、それは自分がどうにかすると言っていた。

 二十二日の水曜は、エルミに呼び出されてジョンアも一緒に、ナンネの家に行った。くだらないことだった。インゴ──アドニスとルキアノスの友達に、ぜんぜん相手にされていない気がするという話だった。遊びにも誘われないし、メールはたまに来たり、送れば返事が届いたりだが、まったくもって相手にされていないと。なぜ男をそういう眼でしか見られないのかがわからなかった。

 さすがに二人で会うのは勘違いされる気がするから、アドニスかルキと四人で遊べないかと注文してきた。リーズやニコラと違ってなぜか、当然のように私が彼らと連絡をとっていると思いこんでいた。とっているのは確かなので、否定はしないが。くだらなさすぎて、とりあえず考えとくとだけ答えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 八月二十四日、金曜日。

 ニコラとリーズの三人でランチをとったあと、アドニスとルキアノスと待ち合わせ、センター街のグランド・フラックスにあるカラオケボックスに行った。前日の夜、二人とも完璧だと、アドニスからメールが入ったのだ。明日暇ならさっそく行くぞ、と。

 けっきょく電話になり、歌はうまいのかと訊いたら、ルキほどじゃないと言われた。詞はともかくノリはそっちのほうが好きだから完璧じゃないとキレると言うと、彼はまた歌を聴きはじめた。

 リーズとニコラが選んだのは、ブラウンを基調とした横長の落ち着いた部屋だった。オレンジの間接照明で照らされた室内、壁の一部にアンティーク模様の壁紙が貼られていて、ダークブラウンの腰壁がついている。座面がチョコレート色、背部分がオフホワイトというツートンカラーのソファが逆J字になるよう置かれ、ダークブラウンの正方形テーブルがふたつにチョコレート色のスツールがふたつ。ディスプレイは大きめで、しかも壁掛けだった。タンバリンだのマラカスだのという小道具までついている。

 人数は多めに座れるけれど、狭い。ソファとテーブルのあいだが狭い。カラオケボックスの少人数ルームは、どこもこうだ。だから私とアニタは二人でカラオケに行くと、たいていディスプレイを正面にテーブルに座る。調子に乗ると、ソファやテーブルの上に立つ。かなりタチが悪い。

 彼女たちは迷わず、奥の長ソファに座った。私はとりあえず、リーズの隣に。ドアの真正面でディスプレイに近く、目の前にテーブルがないからと、スツールに伸ばした脚を置いた。

 一曲目は、リーズとニコラと三人でうたった。次をニコラと私が、その次はリーズとニコラが二人で。以前もこんな感じだったらしい。誰も、あまりひとりではうたわなかったと。

 「やばい。なんかすげえプレッシャーなんだけど」

 リーズが私とうたう曲を探しているらしい時、アドニスがつぶやいた。彼は奥の席に座っている。リーズとニコラは場所を間違えたらしい。

 私は訊き返した。「なんで?」

 「さっきの曲持ってるけど、お前、CDどおりだもん。なにその完成度」

 ニコラが笑う。「だから、ベラは歌うまいって言ったじゃん」

 「いや、上手いどころじゃないって。うまいって、音痴じゃなきゃたいていの奴に言うだろ? そうじゃなくてこいつ、CDどおりなんだって、音程やうたい方が」

 リーズは苦笑った。

 「そういう意味で言ったつもりだったんだけどね。気に入れば、曲覚えるのもすごく早い。もうちょっと聴けば、ぜんぶ完璧に覚えちゃう。恐ろしいよ」

 ルキがつぶやく。「そんな記憶力があるのに、なんでテストは──」

 「笑えるけど黙ってくれる?」

 私が言うと、彼らは笑った。

 「ルキ、無理っぽかったら代わる」アドニスが彼に言う。「覚えてるだろ。完璧じゃなかったらオレ、殺される」

 「俺が殺されてもいいの!?」

 ルキの言葉にまた笑いが溢れた。

 「声のトーンが違うんだから、普通にうたうだけでそれなりにハモれるわよ」私は言った。「完璧じゃなくてもかまわない」

 疑わしげな表情のアドニスに向かってリーズが提案する。

 「んじゃ先、アドニスとの入れる? 早く終わらせたほうがいいかも」

 「んじゃそうする」と答え、彼はテーブルの上にあったもうひとつのリモコンに手を伸ばし、曲を探した。

 「ちなみに哀しい話、していいかな」マイクのスイッチを入れた私は切りだした。「小学校六年になる前の春休み、女子八名でカラオケに行きました。行きたくなかったけど、ほぼ無理やりです。行ったはいいものの、うたったのはいいものの、自分のヘタさを実感するからと、そのうちの四人は私と一緒にうたうことを拒否するようになりましたとさ」マジで。

 ルキと彼女たちは天を仰いで笑ったものの、アドニスは怒った。

 「プレッシャーかけんな!」

 アドニスと私がうたうのは、“Need You Now”という曲だ。女性パートからはじまって、三行目で男女がハモり、また女性だけに戻ってコーラスをハモる。二番は逆で、男性パートではじまって、三行目のみをハモる。一行のみのCメロはハモりで、締めのコーラスは女性と男性が一行ずつうたい、残りをハモる。どううたうかでせつなさは表現できるのだろうけれど、どちらかといえば明るいテンポだし、とにかく詞がベタベタだ。

 アドニスは空いているスツールをひとつ引き寄せ、ディスプレイ前に座った。本気らしい。私はテーブルに腰かけた。アドニスがセットしたその曲が流れはじめ、私はうたいはじめた。



  私がこんな風に感じてることを知ったら あなたはどう思うかしら

  あなたと出会った場所を描き こんな風に恋しがっている

  たった一度会っただけ 少し話しただけ

  だけど私はまだ あなたの笑顔が忘れられない


  毎晩午前一時半 眠れなくてまたあなたを必要としている

  今すぐ家を飛び出して 出会った場所まで行ってしまいたくなる

  電話を待ってるの 言ってくれるのを待ってるの

  今君が必要だって


  よく晴れた日もどしゃ降りの日も 君のことを思い出してる

  君と出会った時刻が近づくたび 心が浮き立つ

  じっとしていられない 君がくるかもって期待してしまう

  なぜこんなふうに感じるのかわからない


  毎晩午前一時半 眠れなくてまた君を必要としている

  今すぐ家を飛び出して 出会った場所まで行ってしまいたくなる

  電話を待っている 言ってくれるのを待っている

  今あなたが必要だって


  これが恋かはわからない だけどたった一言伝えられたなら


  毎晩午前一時半 眠れなくてまたあなたを必要としている

  今すぐ家を飛び出して 出会った場所まで行ってしまいたくなる

  電話を待っている 言ってくれるのを待っている

  今君が必要だって


  今あなたのことが必要だから



 アドニスは完璧とまではいかないものの、ところどころ私につられそうになったものの、うたいあげ、私たちは笑いながらハイタッチした。

 「たまにはこういうのもアリ」と彼が言う。「女と一緒にうたったことはあるけど、こういう本物のデュエット的な感じははじめてだわ。なんか変な達成感が」

 こちらも笑って同意した。「あるね。すごいある。コーラスの絶妙なバランスがたまらない」

 ニコラが口をはさむ。「でもこういうの、あんまないよね。カントリーには時々男女ツインがあるけど、あんま聴かないからわかんないし」

 「普通のでもやればいいじゃない」私は言った。「男の歌でも女の歌でもどっちでもいいけど、バラードならやりやすいかも。アドニスがちょっと低めを意識してうたうか、ニコラがちょっと高めを意識すればいい。コーラスだけでもやってみれば?」

 彼が笑ってニコラに言った。「できるかわかんねえけど、やってみるか」

 彼女も口元をゆるめる。「やる。なんか探す」

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