↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RED - DISK02  作者: awa
CHAPTER 07 * MIDDLE DAYS
44/119

* Reveal

 午後三時すぎ。

 ファミリーレストランで話を続けていると、ブルから電話があった。このメンバーで話すには、我慢を続けるには、もうどうにもならない状態だと。ニコラは喋るけど、リーズは黙りこくっているらしい。帰ると言うのを何度か止めたと。

 私は呼び出されたから帰ると言い、ルキアノスとアドニスと三人でナショナル・ハイウェイまで出てバスに乗った。彼らがケイネル・エイジで降りると、ひとりウェスト・キャッスルへと戻った。

 そして現在、マブ。

 窓側のソファにブル、マスティ、コーナー部分に朝から髪を染めたらしいアゼルが座っていて、私はキッチン側ソファに腰をおろした。ニコラとリーズはいつもどおり、赤い二人掛けソファに座っている。

 アゼルたちを追い出そうとしたものの拒否されたので、できるだけ口をはさまないでと言った。私がマブに着いた時、ニコラは複雑なのか、それでも愛想笑いはしてくれたけれど、リーズはしかめっつらのままだった。目を合わせようともしない。

 「とりあえず覚えてる限りで、最初からの流れを説明する」

 腕と脚をそれぞれに組んでソファに背をあずけたまま、私は切りだした。

 「最初に会った日の夜、ルキからメールがあった。ただの挨拶。次の週、高校の件でルキに電話。その次の週、アドニスから電話があった。それからはメールがきたり電話がきたり。私も気分で応えてただけだし、ちょっと話して終わる程度だけど。何人でもいいからって、何度かは遊びに誘われた」

 視線を落としていた彼女たちは同時に顔をあげてこちらを見た。ニコラはあからさまではないものの少し驚いたような表情、リーズは固い表情なものの、眉を寄せて。戸惑ったらしい。

 気にせず目を閉じて続ける。「でも断ってた。けど、特に深い意味はない。つきあってる男がいることは、エルミの話だか二人の話だかで知られてたし、友達でいいってのも言われてた。八月に入ってからは、それほどあからさまに誘われてない。センター街に来ないのか、くらいは言われてたけど。で、九日──私が同期と花火してた日、ルキから電話があった。二人を誘って遊ぼうかってアドニスと話してるけど、誘ったらくるのかって。そこも断ったけど」

 「ちょっと待って」ニコラが口をはさむ。「こっちを誘う前に、ベラが誘われてたってこと?」

 私は溜め息をついた。

 「そう──誘われたって言ってもたぶん、ルキたちは私が行かないっての、わかってたと思う。そしたら次の日、またルキから電話がきて──この三週間、電話とかメールとかしてるけど、実際会ったのは最初の十分程度だし、友達って言えるのかよくわかんない状態だから、もう一回会いたいって言われた。だから」

 一度言葉を切って顔を上げ、戸惑いの表情を浮かべたリーズの視線を受け止めた。

 「約束はできないけど、前日に言うくらいならできるって答えた。それで私は昨日ルキに、CDを買いにセンター街に行くとだけメールを送った。場所も時間も伝えてなかった。ルキは自力で見つけるとか言ってたけど、さすがにあの炎天下の中、センター街をアテもなくうろつくのはきついだろうから、ゼスト・エヴァンスを出たあと、ひとりでランチ食べるからおすすめのカフェ教えてってメールした。電話がきて、今から行っていいかって訊かれた。私は適当に選んだ店に入って、その店をメールで教えた。二人でランチを食べた」

 リーズはわけがわからないらしく、固まっている。

 「──で、アドニスは?」ニコラが訊いた。

 彼女に答える。「ランチのあと、ルキが電話しようかって言って、電話した。ルキが来る前にメールしたら、今からトースト作って食べるとこだって言われたから、まあいいかと思ったって。彼が来て、こっちはデザート頼んでたから、それ食べたあと、ウェスト・アーケードのファミレスに移った。そこでまた、三人で話してた」

 ニコラは一度押し黙り、ソファに背をあずけて視線を落とした。

 「──メール、したんだ。なにしてんのって。当然、普通の答え。ルキとベラと三人でファミレスで話してるって。なんも言えなかった。もしかしたら誘おうかって話になるかもって、思ったんだけど」

 知っている。「そうはならなかった」

 こちらもうつむいてまた、目を閉じる。

 「ルキも私も言わなかった。たぶんあっちは、二人が好きだっての、ぜんぜん気づいてないし。二人は一緒にいるもんだと思ってくれてるけど、私は私で別モノだと思ってるみたい。でも、もちろん口説かれたりはしてない。変なこともされてない。私の中の存在の大きさ的にはぜんぜん違うけど、ゲルトたちと同じ感じ。ただの男友達状態。完全に気兼ねなくってわけでもないけど、このまま友達してれば、そうなれるんじゃないかとは思ってる。でも」

 私は再び顔を上げた。

 「連絡をとることがイヤだって言うなら、私はもうやめる。会ったりもしない。最初に会った日の夜、ルキからメールが届いてから、二人がどう思うかってのが、ずっと気になってた。リーズは特に、好きになったって言ってたし。私はどうでもよかったし、連絡とる気はなかった。でも結果的にこうなってるから、そこは言い訳しないけど。

 連絡とってるとか誘われてるとか、自分からは言えなかった。むこうが言ってないなんてのは知らなかったけど、とにかく、イヤな思いするんじゃないかって思ったから。嫉妬には慣れてるし、そのまま彼らを切ることもできたけど──そういうのを気にしてるうちに、どんどんムカついてきた。

 私はどうしても、自分の筋を通して考えようとする。最初に知り合ったのは私。番号を交換したのも私が先。何度かを除いてほとんど、連絡してくるのはむこう。嫉妬されても怒られても、私がなにしたんだって話になる。そのうえ二人は嫉妬したとしても、私にそれを言うなんてこと、絶対にしないじゃない。今日でそれが証明された」

 ふたりはなにも言わない。ただこちらを見たまま戸惑いの表情を浮かべている。

 私はさらに言った。「今日のことはぜんぶ、わざとよ。アドニスとルキはなにも知らないけど、あっちが誘ってくるのを利用して、私の独断で私が仕組んだ。二人にメールを送って、その反応を見た。せめて、来たいなら来たいって言ってくれればよかったのに、二人はそれすらしてくれなかった。ここで三人に愚痴るだけ。私がまったく気にかけてない同期の奴らですら、うざいくらいに協力しろって言ってくるのに、それ以上の存在なはずの二人は、そうはしてくれなかった。嫉妬をくだらないって思ってるのを知ってるからかもしれないけど、そうだとしても、言ってくれればよかったのに。

 確かに私は、二人と彼らと私なんていう面倒な状況は避けたいけど、二人が来たらそのうち、適当な理由をつけて帰るつもりだった。考えが変なのはじゅうぶん承知だけど、自分への詮索を除いて、恋愛や人間関係だけでいえば、嫉妬されることより遠慮されることのほうがイヤ。面倒なのはイヤだけど、無神経なほうがまだマシなの。頼られたくはないけど、協力しろって言うならどうにかする。嫉妬するなとは言わないけど、お願いだから、嫉妬で周り巻き込んでくだらないことを言ったりしたりするっていう、そこらのアホ共と同レベルにならないでよ」

 眉を寄せて目に涙を浮かべていたリーズは、ソファに立てた両脚を抱え、顔を伏せて泣いた。ニコラも彼女の肩に手を腕をまわして慰め抱きしめるように、だけどリーズの髪に額をあてて顔を隠すようにし、一緒になって泣いた。

 方法や程度が違うだけで、二人はエデやカーリナやサビナと同じことをしていた。嫉妬でアゼルとマスティとブルに愚痴って、空気を悪くした。

 そのまま放置していればきっと、私を避けるか妙な視線を送ってくるか、もしくは葛藤を繰り返しながらうやむやにするか、そのまま離れていくという、そんな状況が出来上がっていただろう。

 なによりも私が避けたかったのは、それだった。

 去年──私とアゼルがつきあいはじめた時、かつてこのグループにいたインミが、私がアゼルの部屋にいることに気づかないまま、このリビングでアゼルに、“ニュー・キャッスルの人間”としての私や、“アゼルのキライな赤毛”としての私の悪口を言う、という行動をとった。はっきりとはわからなかったけれど、おそらく嫉妬からだ。自分ではどうしようもないことを言われ、私は、わけもわからないままキレた。彼女はここからいなくなった。

 エルミは私とブルが一緒に遊んでいるのを知っていたから、そこにはなにも言わなかった。一応筋は通っている。

 アゼルに惚れていたらしいエデと、イトコのリーズをとられたような気がしていたサビナ、自分よりも先にカルロにバレンタインのお菓子をあげたことに腹を立てたらしいカーリナからの私への嫌がらせは、小さな嫌味をぶつけてくるというものだった。私は特に気にしなかった。どうでもよかった。むこうからすれば、私があとからしゃしゃり出た感じだ。くだらないとは思ったけど、怒るほどのことではなかった。

 だけどそのあと彼女たちは、アニタがつきあっていた男にアニタの悪口を吹き込むという、最低なことをしてくれた。私はそれにキレた。そして潰した。私の言う“そこらのアホ共”というのは、主にこの三人のことだ。

 ヤーゴを好きらしいアウニは、私と特に仲がいいというわけでもないのに、カルメーラとアニタ経由で私に協力を仰いだ。これは無神経側。自分のことしか考えていない女だ。なぜなのかは知らないが、押しつければ私が断らないと知っているらしい。

 押しつけて、私にヤーゴとトルベンを誘わせたわけだから、彼らが来ればもう、ある意味あいつの天下だった。不満そうな態度を見せて私に気づかせ、返しを訴える。同等か、それ以上の返しを期待しているのだろう。多少なら空気を悪くしても、アニタやペトラがいればどうにかなると思ってるらしい。とんでもない自己中女だ。

 しかもそんなことをしても、私がヤーゴにアウニの悪口を吹き込んだりはしないと思いこんでいるらしい。“思っている”だけでなく“知っている”のだとすればこちらも、相当な計算女なのだが。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「ホントにいいの? カラオケ嫌いなのに」

 夜八時すぎ──マブの玄関ポーチ。リーズが私に訊き返した。彼女の隣にはニコラが立っている。さらにその後方では、マスティとブルが自転車に乗り、彼女たちを待っている。

 あのあと、彼女たちはどうにか泣きやみ──嫉妬はするかもしれないけど、してもちゃんと言うと約束してくれた。私がルキとアドニスと連絡をとることはなにも言わない。そこに協力を求めることもしない。情報を欲しがったりもしないし、三人で遊ぶことにもなにも言わない。でも誘えそうなら誘ってほしい、と。私さえいいなら、途中で帰ったりもせず、普通に友達として遊びたい、と。自分たちは自分たちでがんばるからと、そう言った。

 「うん」と、私は答えた。「あからさまに二人もとは言ってないけど、そのうち気が向いたらカラオケ行こうとは言われたから、とりあえず了承はしといた。条件つきで」

 二人が声を揃えて訊き返す。「条件?」

 「そう。デュエットするの。今日私が買ったCDの中の曲ふたつを、一曲ずつ。男女ツインボーカルのでね。明日から一週間のあいだに、それを二人がうたう気で覚えてこられたら、私はカラオケに行くって。カントリーだし内容が内容だから、二人が拒否する可能性はじゅうぶんあるけど、そこは気にせず」

 彼女たちは顔を見合わせた。ニコラが訊く。

 「もしかしなくても、ラブソング?」

 「そう。ひとつはつっこみどころ満載の一目惚れソング。リーズにはぴったりかもだけど、二人が覚えてくるとして、そこはとりあえず一回だけ、私に譲って。カラオケでちゃんと男とハモるってしたことないから、してみたい。もうひとつは別れたあとの曲。まあ未練はあるみたいだけど、よくわかんない。けどこっちもハモりたい。まあ、彼らしだいなんだけど」

 彼女たちはまた顔を見合わせて苦笑い、「覚悟しとく」と言って帰っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 数分後、マブの奥のアゼルの部屋のベッドの上。

 「つまんねえ」寝転んだ私に腕枕をしたアゼルがつぶやく。「なにまるく収めてんだ」髪がマダーレッドになっている。

 「最初から啖呵切る気なんてなかった」と、私。

 「そうじゃねえよ。なんで自分もどっちかに惚れたとか口説かれたとかいう話を持ってこねえんだって言ってんの」

 私は唖然とした。

 「あんた、そっちが目的なの? 私を他の男と会わせて、惚れるかどうか確かめたかっただけ?」

 「とりあえず、おもしろおかしくなればいいなと」

 「私が誰かに惚れたとして、あんたはそれを喜ぶわけ?」

 「っていうよりは、やっぱり物足りねえって戻ってくるお前を見たいというか」

 このアホ男はなにをほざいているのだろう。「戻るとは限りませんけど」

 「戻んないとも限らねえだろ」

 そうだけど。

 「ちなみに」アゼルが続ける。「リーズが、お前が他の男好きになってもいいのかって言ってきたから、どうでもいいって言っといた」

 「あっそ」なんだかムカついてきた。いろんな意味で。

 「お前らみたいな生ぬるいつきあいしてねえよって言ってやろうかと思ったけど、やめた」

 「そうね。浮気にムカつきながらけっきょく一緒にいるとか、相当バカだし」

 「お前のほうが俺にベタ惚れだもんな、可哀想に」

 なんかムカつくんですけどこいつ。

 身体を起こして彼の上にまたがると、彼の顔の両側に手をついて目を合わせた。

 「ムカついてきた」

 支配嫌いなくせに、彼は動じない。「ベッドの上だぞ。お前は俺を支配できねえ」

 それはわかっている。わかっているから、よけいムカつく。怒るのは逆効果だ。アゼルは怒った私も好きだから。

 アゼルは悪戯に微笑んだ。「けどせっかくその気になったんだから、ちょっとくらいつきあってやる。お前が足りなくてもっとって言うか、俺が物足りなくて動いた時点でお前の負け。お前が自分で動くだけでイクか、俺がまずくなってお前の動きを止めたらお前の勝ち」

 勝てる気がしない。「ごまかすために動くんじゃないの?」

 「んなことしねえ。ごまかすためっつっても、動いたらよけいまずいことになるだろ」

 納得した。「──考えたら、このまま帰るのがいちばんのような気がしてきた」

 「自分で言いだしといて勝負投げんなよ」

 というか、そんなことを許してくれる男ではない。言いだした以上、私が帰るわけにもいかない。自業自得だ。失敗だ。ムカつく。

 アゼルにキスをした。三度目で深いキスに変わり、絶対に勝てないという思いが確信に変わった。

 けっきょく私は、五分も経っていないだろううちに負けを認めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。