そして聖人へ
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微子の憂鬱 第40話 ――勝てば官軍、歴史は勝者が作る。 ならば、この私が自画自賛したところで、一体誰に罰が当たるというのだ。「ああ……本当に、長く苦しい戦いだったな」 私は豪華な宮廷の玉座に深く腰掛け、しみじみと自らのこれまでの歩みを振り返っていた。 すべては、私の完璧な計画通りであった。 あの日、武庚の小童に盗まれた我が商の国を取り戻すため、私はあえて身を低くし、じわじわと周公旦へと近づいた。 彼の耳元へ絶妙な疑義を差し込み、その過剰な責任感を刺激し、前線の兄弟たちとの不信感をこれでもかと煽り立てる。そうして引き起こしたのが、あの天下を揺るがした大内戦「三監の乱」だ。 乱の鎮圧に際しては、優秀な私が的確な軌道修正を周公旦へ与えてやった。その結果、目障りだった武庚ら反乱分子を、周の手を借りて一人残らず合法的に処刑に追い込むことに成功したのである。 商の領土はさらに細かく分割されることとなったが、周公旦も馬鹿ではない。 反発する大勢の遺民たちを慰撫するためには、商の正統なる血統であり、なおかつ周へ多大な「献身」をして見せた、この私を君主に据えるほかなかったのだ。 こうして私は、新たな国――「宋」の初代君主となった。 かつて奪われていた王位、そして商の正統なる血脈の証である聖なる「祭器」も、ついにこの手の中に帰ってきたのだ。「フフッ、あははは! 振り返れば、本当によく生き残り、ここまでの大逆転劇を演じきったものだ。我ながら、自分の優秀さが恐ろしいよ!」 いずれこの国は、従順な弟の微仲に継がせることになるだろう。 今のうちにあいつには、しっかりと口裏を合わせ、言い聞かせておかねばならん。「おい微仲、よく聞きなさい。私が周に協力したのも、すべては商の民を、そして偉大なる祖霊の祭祀を守るための、涙ぐましい崇高な大義ゆえだったのだからな」 ……あ、それと。 牧野の戦いの直前に、私が全軍の前で商の悪口を並べ立てて弟(帝辛)を裏切った、あの無様な演説の件だが……さすがにそのまま歴史に残すのは体裁が悪い。 よし、記録は書き換えておこう。「牧野の戦いが終わった後、微子と微仲の二人は、民の命を救うために無念の降伏を選び、涙ながらに演説をした」という美談にしておけば問題ない。歴史を作るのは、いつだって生き残った勝者なのだからな。 後世の民草は何も知らず、私を「国を救った高潔な聖人」として、末永く称え、崇めることになるだろう。 終わり良ければすべて良し、だ。実に、素晴らしい最高の人生であった。 ――ま、完璧な私の人生において、たった一つだけ心残り(・・・)があるとすれば。 かつて私を影から操って商を混乱させ、牧野の戦いの後に冷酷に使い捨てやがった、あの忌々しい呂望――姜子牙の化け物に、直接復讐ができなかったことくらいか。 だが、まぁ良い。あんな恐ろしい化け物には、これ以上関わらないのが一番だ。下手に触れれば、こちらが痛い目を見るだけだからな。 この件も、微仲には遺言としてしっかりと伝えておかねば。「微仲よ、東方の『斉』だけは絶対に信用するな。あそこには関わるな。……その代わり、今回の宋の建国や祭器の件で色々と融通してくれた周公旦の国――『魯』のことは、まぁ、何かと気にかけてやるが良い」 これくらい遺しておけば、我が宋国の未来も安泰だろう。 窓の外に広がる、豊かに実った宋の街並みを眺めながら、私は満足げにワインの杯を傾けた。 さあ、後世の歴史家どもよ。私の美しき大義名分を、その筆で盛大に飾り立てるが良い――!(――『微子の憂鬱』 完――)
次回はメジャーな後漢末期辺りかな?要望が有れば喜んで。




