表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/81

遅れて重なる 第78話

第78話


「未定義存在」



《“未定義存在”》


その宣告は。

まるで宇宙そのものが、 人類へ新しい名前を与えたようだった。

瞬間。

全ての圧力が消える。

赤く染まっていた空が、 ゆっくりと本来の青へ戻っていく。

巨大な “指” は崩壊し、 光の粒子となって宇宙へ散っていった。

そして、上位観測者達の “眼” が、 一つずつ閉じていく。


《監視継続》

《直接排除停止》

《対象——経過観測へ移行》


最後の声。

それを残し、 暗黒の裂け目は閉じ始める。

世界に、 静寂が戻った。

誰も動かなかった。

いや。

動けなかった。

あまりにも、 色々なものが一気に終わり過ぎていた。

カレンが最初に口を開く。


「……生きてる?」


ギアが苦笑する。


「多分」


「雑」


イリスが吹き出した。

その笑い声につられて、 カレンまで小さく笑ってしまう。

緊張が切れた瞬間だった。

同時に。

ギアの身体が大きく揺れる。


「ギア!」


イリスが支える。

同期光が急激に弱まっていた。

全人類同期。

観測不能領域展開。

上位観測者との接触。

その全ての反動が、 一気に来ている。

ギアは視界の霞む中、 空を見上げる。

もう “眼” はない。

ただ、 夜明け前の空だけが広がっていた。

来訪者が静かに近づく。

その青い瞳から、 以前の警戒色は消えていた。


『……理解しました』


ギアがぼんやり聞き返す。


「何を」


来訪者は空を見る。

『貴文明は、“完成”を拒絶した』

『だから生き残った』


沈黙。

その言葉は、 どこか寂しそうでもあった。

ギアは笑う。


「完成したら終わりだろ」


来訪者は、 ほんの少しだけ目を細めた。

それが笑顔なのかは、 最後まで分からなかった。

黒い船が空へ浮上を始める。

カレンが眉をひそめる。


「帰るの?」


『はい』


来訪者は振り返る。


『我々は観測文明』

『未知へ深入りし過ぎれば、自壊する』


その言葉には、 長い歴史の重みがあった。

イリスが静かに聞く。


「また会える?」


来訪者は少しだけ考え。


『貴文明が滅びなければ』


そう答えた。

黒い船が上昇する。

空間ゲートが開き、 外宇宙の光景が見える。

無数の星。

巨大文明。

未知の世界。

だが今のギアには、 それより気になるものがあった。

地上。

街。

人々。

泣いている者。

笑っている者。

抱き合う者。

混乱しながらも、 確かに “生きている”。

ギアは小さく息を吐く。


「……終わったな」


カレンが横に立つ。


「終わってない」

「ここから地獄みたいに後処理」

「うわ」


イリスが笑う。


「でも、嫌じゃない」


朝日が昇り始める。

暖かな光が、 三人を照らした。

その時。

ギアの耳へ、 微かな声が届く。


『——聞こえるか』

ギアの目が僅かに見開く。

誰にも聞こえていない。

その声は、 もっと遠く。

もっと深い場所から届いていた。


『同期座標確認』

『“未定義存在”接触申請』


ギアがゆっくり空を見上げる。

朝焼けの彼方。

一瞬だけ。

巨大な影が、 星々の向こうを横切った。

そして、声は最後にこう告げた。


『ようこそ、外宇宙へ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ