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遅れて重なる 第76話

第76話


「人類同期」



《SYNC RATE:測定不能》


その表示と同時に。

世界中で、“光”が立ち上がった。

都市。

海上。

地下シェルター。

戦場。

病室。

無数の人間達の身体から、 淡い同期光が空へ伸びていく。

誰も命令していない。

誰も理解していない。

それでも。

人々は “繋がっていた”。

カレンが震える声を漏らす。


「これ……全人類同期……?」


端末は既に機能していない。

数値も、 演算も、 未来予測も意味を失っていた。

人間一人一人の意志が、 リアルタイムで接続されている。

それは、 かつてオブザーバーが作った “同期” とは違う。

強制ではない。

支配でもない。

恐怖すら共有したまま、 それでも前へ進むための接続。

イリスが空を見上げる。

赤く染まる空。

星系サイズの “指”。

宇宙法則そのもののような存在。

普通なら、 見ただけで心が壊れる。

だが今は違った。

誰かの恐怖を、 誰かが支えている。

絶望が、 連結によって分散されていく。

来訪者が呆然と呟く。


『あり得ない……』

『個を維持したまま文明同期を……?』


ギアは笑う。


「お前ら、“効率”ばっか見過ぎなんだよ」


同期光がさらに拡大する。

地球だけじゃない。

月軌道。

崩壊しかけた旧観測衛星。

停止していたネットワーク残骸。

全てが、 新しい接続構造へ組み込まれていく。

“指” が動いた。

ゆっくり。

地球を、 押し潰すように。


《排除処理 実行》


その瞬間。

世界中の人々の感情が、 ギアへ流れ込む。

恐怖。

怒り。

祈り。

後悔。

生きたいという願い。

膨大すぎる感情奔流。

普通なら人格が崩壊する。

だがギアは耐える。

いや。

一人じゃないから、 耐えられる。

カレンが叫ぶ。


「ギア!!」


ギアの身体に亀裂が走る。

同期限界。

情報密度超過。

存在そのものが光へ変わり始める。

イリスが彼の腕を掴んだ。


「無茶しすぎ!」


ギアは苦笑する。


「今さらだろ」


その時。

空の “指” が、 ついに地球へ触れた。

世界が停止する。

重力消失。

時間凍結。

空間圧縮。

全人類が、 死を理解した。

——次の瞬間。

止まらなかった。

“指” が、 それ以上進めない。

来訪者が目を見開く。


『防いだ……!?』


違う。

防いだのではない。

“押し返していた”。

人類全体の同期場が、 宇宙法則へ干渉している。


《観測異常》

《演算不能》

《未来分岐数 暴走》


空間が裂ける。

無数の未来が同時発生していた。

滅ぶ未来。

勝つ未来。

逃げる未来。

共存する未来。

ありとあらゆる可能性が、 爆発的に増殖する。

上位観測者は、 それを処理しきれない。

なぜなら。


“人類が自由意思を持ったまま一つに繋がる”


そんな現象は、 過去に存在しなかったから。

ギアは空へ向かって叫ぶ。


「聞こえてるか!!」


同期光が宇宙へ伸びる。


「俺たちは、お前らの部品じゃない!!」


“指” が軋む。

初めて。

上位観測者側が、 後退した。


《危険》

《危険》

《危険》


巨大な声に、 明確な“動揺”が混じる。

ギアは笑った。

ボロボロのまま。

それでも、 確かに。

「これが、人間だ」


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