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遅れて重なる 第67話

第67話


「終了処理」



《世界番号/AE-01》

《終了処理へ移行》


その宣告と同時に。

空が、落ちてきた。

いや。

世界そのものが “畳まれ始めた”。

情報空間の端から、都市データが崩壊していく。

建造物。 海。 空。 記憶。 人格。

全てが白い粒子へ分解され、上空の“眼”へ吸い込まれていく。

カレンが叫ぶ。


「こんなの……消去じゃない!」


イリスが静かに答えた。


「ううん……これは“回収”」


その声は、妙に落ち着いていた。

まるで、何度も見てきた光景のように。

ギアは歯を食いしばる。


「終わらせるかよ……!」


立ち上がる。

身体中が悲鳴を上げていた。

存在情報を直接観測され続けているせいだ。

立っているだけで、自分が削られていく。

それでも。

前へ出る。

“眼” がギアを見た。


《イレギュラー確認》

《ギア=ゼロ》

《排除優先度 上昇》


瞬間。

空間から無数の黒い槍が生成される。

演算そのものを物質化した攻撃。

ギアは反射的に避ける。

だが。

一撃が肩を貫いた。


「ぐッ……!」


痛みより先に、感覚が消える。

肩の情報が“削除”された。

血すら出ない。

そこだけ世界から切り取られている。

カレンの顔が青ざめる。


「触れられたら存在ごと消える……!」


さらに槍が降る。

ギアは走る。

崩壊する足場を飛び移りながら、“眼” へ向かって。

最初のギアが叫んだ。


『無理だ!!』

『あれは世界法則そのものだ!!』

『人間に壊せる存在じゃない!!』


ギアは止まらない。


「知るかよ!!」


槍を躱す。

腕を掠める。

記憶が飛ぶ。

幼い頃の断片が消える。

それでも前へ。


「だったら!!」


床を蹴る。


「人間じゃなくなるまでだ!!」


その瞬間。

ギアの同期率が跳ね上がった。


《SYNC RATE:91%》


空間が震える。

カレンが息を呑む。


「まさか……自力で!?」


イリスの瞳が揺れた。

ギアの身体を光のラインが走る。

神経。 骨格。 思考。

全てが高次同期へ移行していく。

“観測に耐えるため” に。

だが代償もあった。

ギアの人格境界が薄れていく。

自分と世界の区別が消え始める。

最初のギアが苦しげに呟いた。


『その先へ行けば……戻れない……』


ギアは笑った。

荒々しく。


「最初から、普通に戻れる人生じゃなかったろ」


その言葉に。

イリスが、ほんの少しだけ泣きそうな顔をした。

次の瞬間。

ギアは加速する。

同期空間を裂きながら。

一直線に、“眼” へ。


《危険因子 接近》

《強制修正実行》


“眼” の周囲に巨大なリングが展開される。

数千万の演算式。

文明抹消プログラム。

世界初期化コード。

その全てが、ギアへ向けて放たれる。

光の洪水。

だが——

ギアは突っ込んだ。

砕ける。

皮膚が。

記憶が。

人格が。

それでも。

前へ。

「うおおおおおおおおッ!!」

そして。

ついに。

ギアの手が、“眼” へ届く。

触れた瞬間。

世界が静止した。

完全な静寂。

次いで——

ギアの脳内へ、“観測者”の記録が流れ込む。

人類誕生以前。

恒星文明。

宇宙規模戦争。

滅びた知性。

繰り返される文明の暴走。

その果てに生まれた、“観測システム”。

宇宙延命装置。

オブザーバー。

ギアは理解する。

こいつらは悪ではない。

慈悲ですらない。

ただ。

宇宙が壊れないよう、“剪定”しているだけ。

限界を超えた文明を。

機械的に。

永遠に。

その時。

“眼” の中心から、声がした。

今度は機械音ではなかった。


『……何故、抗う』


ギアは息を切らしながら答える。


「決まってる……」


消えかけた腕で、“眼” を掴む。


「生きたいからだ」



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