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ENDESTALE  作者: 中尾 奏治
Prelude:モノガタリの始まり
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9/21

Episode8:巨兵の蹂躙

この世界のTips8:コンコルディア王国

現実世界に置き換えて、東の一部を除くヨーロッパの全域を実効支配している巨大国家。

王政をとっており、建国からおよそ3600年の歴史を持つ非常に古い国家。王都、すなわち首都をベルリンにおき、その勢力圏は建国時点からほぼ変わっていない、非常に平和な国家である。

しかし最近は先進国に見られがちな少子高齢化などを始めとする様々な国内の問題に悩まされている他、機魂兵の襲撃でその軍事力を大きく削がれた結果、西は機魂兵をいつ飛ばすかわからないバルコール帝国、東は現実におけるソビエト連邦に匹敵する勢力を持つレドルム連邦に挟まれ、決して平和とは言い切れない状況となってしまっている。


時間は午後6時。空が若干赤く輝く頃合い。

場所はロンドン中央広場。街を襲撃した機魂兵が包囲網を築いた場所。

天気は晴れ。雨はやみ、炎にあぶられた煙まみれの空模様だ。


巨大な機魂兵が歩み寄る。エルヴァは再び稼働させた思考をフル回転させ、相手の分析を行った。

通常の機魂兵の三倍を超える体長、つまりおよそ30倍の質量を持つことになる。ジェットパックをつけている分、質量の多さを補って余りある機動力、つまりスピードを持ち合わせているかもしれない。まあ、要するに、自分は単純なスペックにおいて、何一つ確実に上回っている要素がないということだ。

機魂兵がエルヴァに向かって突進し、右腕のブレードを彼に向かって振り下ろす。エルヴァは自分に問いかける。自分はこの攻撃をうけとめられるか?

「(否!)」

すぐさまエルヴァは回避を行い、間一髪で敵の攻撃をかわす。ブレードの一撃は、先程まで彼が立っていた石畳の地面を粉々に打ち砕いた。続けざまに彼はその手の武器で一撃を繰り出し、その武器は相手の防御など存在しないかのように食い込むが、相手のサイズ故に浅い傷で終わる。そして攻撃を終えた隙をその機魂兵は逃さなかった。

「(速いっ!)」

気付いたときにはもう遅い。咄嗟にエルヴァは足をバネのように使い体の破壊に使われるエネルギーを最小限に抑えたものの、その分はそのまま運動エネルギーとして彼を吹き飛ばした。


「エルヴァさん!?こんなとこで何してんの!?」

包囲をしていた機魂兵の壁をも超えて大きく吹き飛ばされたエルヴァの顔を、思いも寄らない人物が覗き込んだ。

「クリスティーナさん?あなたこそ。」

エルヴァはすぐさま起き上がった。彼女の下半身の装備と自分の角度的に、このままではいらないものが見えかねない。

「何って……ジーク達を探しに…。」

「呼んだ!?」

叫び声と同時に、撤退したはずの少年の声が響く。

声の下方向へと振り返ると、ジークが無理矢理一体の機魂兵を押し倒し、じたばた抵抗するそれを地面へと押さえつけていた。

「悪いんだけど、さっさととどめをさしてもらえると助かるな!」


「(あの衰弱状態から?回復はっや。)」

エルヴァが機魂兵の首を斬り落とした直後、ジークを追いかけてきたのであろうオーディン、アレンの二人と、先程の巨大な機魂兵が同時に迫ってきた。ガイスターはおそらく残りの避難の指揮に向かったのであろう。

「皆さん!散らばって!」

エルヴァが叫ぶと同時に、全員が状況を察し素早く散開した。巨大な機魂兵は真っ先にエルヴァを狙った。

「こっち向け!このデカブツが!」

アレンが機魂兵に銃撃を仕掛ける。しかしその銃弾は、次の瞬間現れた、機魂兵の表面を覆う謎の半透明の膜状のなにかに遮られた。

「エネルギー装甲だぁ!?小賢しい真似してくれるじゃねぇかこの野郎!」

アレンが次の弾丸を装填し、再び放つ。だが機魂兵はそれを歯牙にもかけずにひたすらエルヴァを狙い続けた。

「みんな!こいつを仕留めるのは多分無理だ!先に周りの奴らから片付けよう!」

ジークがそう叫ぶと同時に、全員がその巨大な機魂兵の相手をエルヴァに任せ、周辺で包囲網を築いていた機魂兵たちに攻撃を仕掛け始める。エルヴァも素早くその意図を察知し、他の皆から巨大な機魂兵を遠ざけつつ障害物などを最大限活用してできるだけ戦闘を継続する方針に切り替えた。巨大な機魂兵はその意図を読み取ったものの、目の前にいる者が自分を仕留められる武器を持っていることを危惧してか、一刻も早くそっちを仕留めて時間を与えないようにと考えたのか、慎重さを捨てエルヴァを仕留めることに全力を注いだ。

「『ポイントダウト』!」

「『三日月脚払(みかづきあしばらい))』!」

機魂兵の目につき技を食らわせるジークと、機械とはいえ物体として地面についた足をはらい転ばせるオーディン。ダメージは与えずとも、確実に相手の動きを止める。

そして、

「『バレットインジェクション』!」

「『πῦρ(ピュール)δ・φωτιά(フォティア) της(ティス) κόλασης(コラシス))』!」

銃口を機魂兵に突きつけゼロ距離で弾丸を打ち込むアレンと、残留する性質を持った魔法の炎を機魂兵に向けて放ちそれを焼き殺すクリスティーナ。二人の攻撃で、低速だが確実に機魂兵を仕留めていった。同様の手口で機魂兵を沈め続け、広場にいた約300の機魂兵のうち200が破壊される。


が、そこで残った機魂兵が突然全て撤収を開始した。

「何だと?」

目を見張るアレン。その意図はすぐに分かった。これ以上の一般兵の損失を防ぎ、あの巨大な機魂兵だけでこちらを仕留める気だ。

と、その時、巨大な機魂兵のいた方向から何かがものすごい勢いで飛んできて、近くにあった木造の屋台につっこみそれを粉々にした。

「エルヴァ!?」

広場に向かって吹き飛んできたのはエルヴァだった。受け身と防御態勢を取った彼は重傷を負わずには済んだが、それでももう全身の服はボロボロの汚れまみれ。見た所まだ血は出ていないが、怪我を負うまでそう時間はかからないだろう。

わざわざこちらに吹き飛ばした意図については考えるのはやめた。おおかたあの巨大な機魂兵は、ここにいる5人を同時に仕留める気なのだろう。

だが、エルヴァもエルヴァで活路を見つけたようだ。エルヴァは残りの四人に話しかける。

「今わかりました。」

エルヴァは頭の中で、先程の戦闘の情景を思い出した。


少し前。崩れる建物の瓦礫が降り注ぐ中、エルヴァと巨大な機魂兵の戦闘はもはや鬼ごっこと化していた。もちろん、エルヴァが逃げる側で、だ。エルヴァはどうにか相手を出し抜く方法がないかを模索するために相手にその目を据えつつ、ひたすら逃げ回っていた。

そして、目撃した。

ひときわ巨大な瓦礫がその機魂兵の頭に当たる直前、半透明な膜が再び出現した瞬間を。


「おそらく、やつのエネルギー装甲は物理攻撃に対しても反応します。放つことのできる魔法の数にもしも制限があるのなら、無駄な消耗を避けるために一度、あの装甲のエネルギーが尽きるまで物理攻撃で戦ってください。」

「わかった、やってみる!」

真っ先にジークが飛び出し、本来機魂兵には歯も立たないはずのその剣を振り下ろす。エルヴァの言った通り確かに半透明の膜が出現し、その攻撃を弾いた。すぐさま反撃に機魂兵が腕を振り下ろすが、一足先にジークは元いた場所へと帰っていた。

アレンの顔ににやりとあくどい笑顔が浮かぶ。

「どうやらそうみたいだな。25年前に気付けてたらどれほど良かったことやら。行くぞ、オーディン!」

「よっしゃあ!」

アレン、オーディンもそのあとに続き、エルヴァも一度武器をしまい徒手空拳で襲いかかった。この武器にも使用制限がないとは言い切れない。

もちろん、物理戦闘が許されたからと言って彼らがその巨大な機魂兵と互角に戦えるわけではない。一斉に挑めばまず数秒で蹴散らされるのがオチだろう。だから全員、ヒットアンドアウェイ戦法に徹した。

「『フォールスマッシャー』!」

「『面』!」

「『オーバースロッシャー』!」

ジークの下突き攻撃、オーディンの刺突攻撃、アレンの振り下ろし攻撃、そしてエルヴァの技名もない蹴りが、それぞれタイミングをずらして炸裂する。衝撃は全てエネルギー装甲に吸収されるが、つまりそれはその分バッテリーを削っているということだ。

「(『月読命示』!)」

相手の攻撃はオーディンが前に出ている時に誘うようにした。連発こそ出来ないものの未来予知能力を持つオーディンなら、相手の攻撃を安全に捌ける。時々、並々ならぬ動体視力と反射神経を持つエルヴァや、25年前からの経験から機魂兵の挙動をある程度予測できるアレンと交代して休憩を挟みながら。

四人同時ではなく一人一人が交互に攻撃を当てては逃げるを繰り返し、確実に相手のエネルギー装甲の残存バッテリーを減らしてゆく。機魂兵も流石に厄介だと感じたのか、両腕で頭部をかばうなど防御的な姿勢を見せるようになった。

「いいぞ!おしてる!」

ジークがその顔に笑みを取り戻し、そのまま相手の封殺を続行した。このまま行けば、ひょっとすれば…。

しかし、そこで予想外の事態が起こった。

「きゃあああ!?」

近接戦を得意としないため戦闘には参加せず、魔法力を温存するために建物の残骸の影に隠れていたクリスティーナが悲鳴を上げる。彼女は、戻ってきた別の機魂兵に襲われていた。

「「「クリスティーナ!」」」

ジーク、オーディン、アレンの三人が叫ぶ。それによりヒットアンドアウェイ戦法のリズムが乱れ、その隙に乗じた機魂兵は両腕を大きく振るい、唯一意識こそ乱されていないがそれでも他の3人をかばうことを優先したエルヴァ含め全員が一斉に弾き飛ばされた。

巨大な機魂兵はすぐさまジェットパックを起動する。

「『サバイバルオブザフィッテスト』!」

機魂兵が飛び立つ直前、アレンがガンブレードの先端をその機魂兵の装甲の一箇所にぶつける。


アレンのオリジナルスキル『サバイバルオブザフィッテスト』は、相手に攻撃を当てることで発動することができる。効果は相手の位置の把握。攻撃を当て「補足」した相手の居場所を、相手が自分から10kmにいる限り四六時中補足し続けることだ。


「クリスティーナ!大丈夫?」

ジークがクリスティーナへと駆け寄る。彼女は安堵の笑みを浮かべる。

だが、現実は非情だった。

「っ!?来るぞ!」

アレンがそう叫ぶと同時に、そこそこの高さまで飛び上がった機魂兵が今度は自由落下の重力とジェットパックの加速で勢いをつけて着地する。すでに手遅れ、唐突な質量爆弾の投下にあたりに瓦礫と衝撃が撒き散らされ、全員が一斉に吹き飛ばされた。


「うう……。」

衝撃の後遺症で思考がおぼつかない頭を持ち上げ、ジークが顔を上げる。

アレン、エルヴァは巨大な機魂兵が落下した場所から近すぎた。両名は吹き飛ばされた勢いで周囲の家屋も破壊し、遠くの壊れた家屋の瓦礫に埋もれる形となっている。おそらく戦線復帰は絶望的だろう。

オーディンはジークのすぐそばで気絶していた。どうにか起こそうと思ったが、その前に巨大な足音が彼らに迫る。巨大な機魂兵はすでに目の前だ。

「……だめか…。」

ジークは自分の持っていた剣に目をやる。先程の衝撃の相殺がたたったようで、剣身の真ん中からぼっきりと折れていた。

だからなんだ?まだ刃は半分残っている。

ジークはまだ痙攣の起こる体を無理矢理立たせ、巨大な機魂兵に向かい合った。

しかし…


「『πῦρ(ピュール)ε・υπότιτλος(イポティトロス)』!」

必死に絞り出されたかのような叫び声とともに、巨大な機魂兵から見て左から大きな炎がそれに襲いかかる。

クリスティーナだ。彼女の放った魔法が、機魂兵に直撃した。

「(…エネルギー装甲が反応してない!)」

ジークは目を見張る。おそらく先程の落下攻撃の自分への衝撃の相殺にバッテリーの全てを使い切ったのだろう。反応しないエネルギー装甲は彼女の魔法の侵入を許し、彼女の魔法の炎は巨大な機魂兵を呑み込んだ。

だからなんだ?まるでそういうかのように巨大な機魂兵は足を踏み鳴らす。それによって発せられた風圧により、機魂兵を包む炎はあっという間にかき消された。機魂兵の装甲の表面は焦げているが、さしてダメージにはなっていない。

機魂兵は自身の焼け焦げた装甲を見て、目前の戦意こそあれど戦闘手段が死んでいる小僧よりもまだ魔法が使える小娘の方を脅威と判断したのか、踵を返してクリスティーナに歩み寄った。

やがて機魂兵が彼女の目の前にまで迫る。

「あ……あ……。」

彼女は恐怖に立ちすくむ。恐怖のあまり思考が麻痺したのか、彼女は逃げようとすらしなかった。つまり今の彼女は、なすがまま、というわけだ。ジークは青ざめ、煙まみれの喉を酷使して叫ぶ。

「逃げろ!逃げるんだ!クリスティーナ!!」

ジークが絞り出した叫びにクリスティーナがはっとする。だが文字通り一足先に、巨大な機魂兵は彼女を蹴り飛ばした。まるで人間が、路傍の石ころを蹴飛ばすような具合で。


「あぅぅ…ゲホッ、ゲホッ……。」

魔法使い型、身体能力は発展途上、大して打たれ強いわけでもないか弱い女子の体、それも腹という防御しようのない場所。徹底的なディスアドバンテージの上に超重量のキックが当たったのだ。崩れた家にめり込む形となったクリスティーナが咳き込みながら血を吐く。いや、おそらく肋骨も数本は折られている可能性が高い。

巨大な機魂兵は余裕綽々で彼女に歩み寄った。

もし仮に、機魂兵に人格があるとするなら、少なくともこの巨大な機魂兵は特にかわいい女の子をいたぶるような趣味はなかったようだ。一度宙に飛ばされてから家の瓦礫に埋もれた結果、ちょうどその機魂兵の胸辺りの高さにいるクリスティーナを見つめ、その機魂兵は淡々と右腕のブレードを構える。

クリスティーナの目に涙が浮かんだ。

「やめろ……。」

ジークがつぶやき、前向きに倒れ込んだ状態のまま這いずりながら手を伸ばす。しかしその距離は遠く、決して間に合うことはない。

「いや……。」

クリスティーナは弱々しく首を振る。たが残念なことに目の前の人型の機械には人の心などなく、冷酷にブレードを振るう準備を行う。

「やめろおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!」


彼女のか細い胴体、その腹部にかけて、巨大な機魂兵はブレードを横に薙ぎ払った。

周囲の瓦礫ごと切られ、完全に崩落した瓦礫に埋もれた彼女の姿は見えなかった。だがしかし、ブレードの長さと彼女の胴体の太さ、ブレードの真ん中あたりにべっとりとついた僅かな血、そして彼女が一声も発さないという情報は、彼女がどうなったかを示すのには十分だった。

巨大な機魂兵はその哀れな少女を見下ろしたあと、ジークを一瞥した。だがその直後、空を見上げた。

日が沈みかけ、空の紅く光はだんだんと薄まってくる。もうすぐ夜の帳がおりるところだ。

夜間戦闘を避けたかったのか、それとも目の前の少年二人には殺す価値もないと判断したのか、その両方か。巨大な機魂兵はおもむろに瓦礫に腕を突っ込んで何かをその手の内に包み込み、そして背中のジェットパックを起動し、そのままはるか彼方へと飛び去っていった。それに伴い、機魂兵たちも迎えにやってきた飛行船や飛行機のような機魂兵に背中と足のジェットを駆使しつつ飛び乗り、夜の帷がちょうど降りた空に幻想的な赤と青緑の光を放ちながら飛び去った。


そうしてから約数分もしない内に、遠くに吹き飛ばされたアレンとエルヴァが戻って来る。オーディンは未だ目を覚まさず。ジークは目の前の現実を受け入れられず固まったまま、クリスティーナが埋まっていた瓦礫を見つめていた。

アレンとエルヴァはジークの精神状態をおおよそに把握し、彼を気遣って何も聞かずに彼の見つめていた先にある家の瓦礫を掘り起こし、そこに埋まっていたものを見て、何が起こったのかを遅れて理解した。

戦闘は終わり。ここにいる生者は自分で動ける者が三人、思考を失った者が一人。

アレンはゆっくりと近くの壁によりかかり、ポケットからキセルを取り出し、火をつけた。明後日の方向を向きながら、彼はその場でタバコを吸い続け、それ以外を一切考えようとしなかった。

エルヴァは十字架を切るような動作だけを行い、淡々と近くの家屋から白色の布を持ち出し、彼女の生きていた証の数々を包んで抱え、避難者の集まる東門へと歩き出した。

やがて夜の帳が下り切り、夜空の星空の代理品となっていた機魂兵は去り、あたりは暗闇と静寂に包まれる。三人はその場から約半日動かなかった。


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