第7話 聖女様とのこの誓いは、今でも覚えています
「……そこまで私のことを。……騎士様、一つ、よろしいでしょうか?」
「はっ」
「私は『聖女』として選ばれました。選ばれたのは幸運であり、神からの祝福であり、名誉なことです。自分の人生の中の使命と思っていて、そしてこの命をささげる覚悟があります。ですが、聖女になってから……、以前よりも特異な目が増えたのです」
「特異な目とは…?」
聖女様はなにやら悩んでいるようだった。それは言うべきか、言うべきでないか。しかし、聖女様は決心なされたようで、少しの時間がたって言葉をつづけた。
「男性の……、欲にまみれた目です。」
「欲、ですか?」
欲…? 聖女様に対して?
聖女様はこの国の宝だ。その方にどんな欲を抱くというのだ? 恐れ多くて、俺には想像がつかない。
……あぁ。もしかして……。
「聖女様、推察しますがもしや、聖女様自身を手に入れたいという強欲なものがいるのでしょうか?」
「ご、強欲かどうかは何とも私の口からは言えませんが……はい、そのようなイメージで合います。」
恥ずかしそうに顔を赤らめる聖女様を見て俺は思う。
なるほど。
聖女様は、まさしく『聖女』の名を冠する程に見目麗しい。
その金の髪は、宝石のように輝いていて。そのお顔は、俺が生涯で見たことがないように美しく。外卑た感想だが、そのお姿は、彫刻以上に整っていて。
本当に天使が舞い降りたような、可憐な方であった。
「この『聖女』の名を冠する前より持っていた能力があるのですが……。そうです、先ほどあなたの前で使ったこの『眼』。欲望や悪意に対して敏感で、特に相手が抱いている欲望がよく見えるのです。そう、相手が『私に対して』抱いている欲望にも、です……。」
「……」
「私は、怖いのです…。私をどうにかしたい、しようとしている者が見える。脅威が目の前にある。それなのに、それを避けることができない。信じていた神父様の一部も、この目で、その心がわかるようになりました。それがつらくて、そして、今も本当に、どうにかなってしまいそうで……。あの頃から神以外に、私はすがるものがなくて……」
この小さく、触れてしまうと折れてしまいそうな女性が、こんなにも悩みを抱えてしまっているとは思わなかった。俺程度では計り知れない程の負担。
「……その男性の一人である俺が、お傍に居てもよろしいのでしょうか?」
「いえ、あなたからはそのような欲が見えないのです。だから気になってしまいました。なぜ、こうも私に尽くしてくれるのかと……」
……なるほど。
俺は、一つの考えが思い浮かんだ。考え、……いや、これは『願い』だ。
この方が、信じていた周りからも裏切られ、今も欲望という黒い感情にむき出しのままさらされている聖女様が、少しでも、ご安心いただければ……。
「聖女様、一つ俺から言いたいことがあるのでしょうかよろしいでしょうか?」
「……はい」
「あなたの、理想の『騎士』になりましょう」
「……え?」
俺は聖女様のお手をとった。
「あなたにとって不幸であったこと……、それは周りから黒い感情を抱かれることがわかり、それが心の負担になっていること。あなたはお一人で戦ってきた。それがどれほどつらいことであったか、矮小な自分では計り知れない程の辛苦。ですが……これからはお一人ではない。俺が、あなたの真の盾と、そして剣となりましょう。あなたを脅かそうとする者から守りましょう。あなたに欲望を向け、どうにかしようとしたものから防ぎましょう。そして、あなたが嫌がる、怖がるものから、私が切り払い、そしてあなたが守りたいと思ったものを救いましょう。この剣に誓って……」
「……いいのですか? 私なんかのために」
「ええ。ですからどうか……泣かないでほしい。あなたの清らかなる顔に、御心に、涙など似合うはずがありません」
彼女は泣いていた。それは、これまでの苦労を物語っていた。
「は、はい……。で、でも……今は少しだけ、胸をお貸しください、……私の、騎士様」
………
……
…




