第6話 聖女様と出会った日のことは、今でも覚えています
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聖女様と出会ったのは、このパーティを結成してすぐにだ。
最初のパーティメンバー、勇者様、俺。そのあとに3人目としてだ。
勇者様が俺を見出したときから決まっていた。同じ聖国内。すぐに聖女様が合流なさった。
聖国の教皇から呼び出しがあり、先に勇者様と聖女様は挨拶を済ませていた。その次に俺は聖女様と出会った。
「これからよろしくお願いしますね、騎士様」
清らかなオーラを出しながら、誰もが心安らぐような笑みを浮かべ、俺に挨拶してくれた。
その時は驚いてしまった。
あの俺がいた教会のシスターに少し似ていたのだ。同じ聖職者だからだろうか、どこか雰囲気も、容姿も似ていた。
その微笑み自体は違う。あの人は快活に笑うのに比べ、この方は華が咲くような笑みなのだが…だが、どこか重ねてみてしまっていた。
まだこれから過酷な旅が始ったばかりというのに、このようなか弱い女性が耐えられるのかが、傲慢ではあったが心配であった。
だから俺は、この方をできるだけ守りたいと思ってしまった。強く。
俺は聖女様の目の前でひざまずき、お手を拝借した。
「え…?」「きーくん!?」
「こちらこそよろしくお願い致します、聖女様。あなたを守るために、俺にできることがあれば全て。外敵からの攻撃も、雨風からも全て。あなたに指一本近づけさせません。この剣に誓って」
あの時、『騎士』の真似事をしてシスターの前に跪いた過去を思い出す。あの時と同じ、いや、いくらか洗練された姿勢をとった。シスターとどこか似ている、この聖女様の前で。
「あ、あぅ……」「ま、まぁ許容範囲かな? いやだめだよ、僕にもめったにこんなカッコイイのしてくれないのに! いや、きーくんはいつでも凛々しいけどさっ」
何故か顔を赤らめたご様子の聖女様であったが、俺は彼女の目を見つ続け、誓いを立てた。
それからパーティは旅を続けた。
失礼だが、彼女は運動が苦手なようだった。時々、何もない道で転びそうなときがあった。パーティの安全のために、俺は彼女から目を離さずにいたので助けることができた。
「大丈夫ですか、聖女様」
「は、はい…。ありがとうございます騎士様」
また、彼女は体力があまりないようで、時々疲れた様子を見せた時があった。
休憩の際。
「よろしければ、聖女様これを」
「これは…?」
「レモンの蜂蜜漬けです。あなたの疲れをとれる一助になれば」
「あ、ありがとうございます……。器用なのですね?」
「いえ、昔の間柄で」
「……騎士様は主夫でもなさっていたのですか?」
「いえ、剣を振る毎日でした」
「……騎士様は剣から料理を出す魔法を習得なさっているのですか? そんな魔法聞いた覚えが」
「いえ、そのような魔法を俺も見たことがありませんが」
「え?」「え?」
また、敵と交戦したある時。
敵はパーティの回復の要である聖女様を集中して狙っていた。彼女を倒さない限り、俺と勇者様が生き残りつづけ、敵としてはジリ貧となるからだ。
「きゃぁ!……あれ?」
「聖女様、お体に傷はないでしょうか?」
「はい、ありがとうございます騎士様……」
過去の誓いのように、俺は敵の攻撃から聖女様を守り、指一本触れさせなかった。
そうしていくと、どうやら彼女は俺に心を開いてくださっていたようだった。だが、時々疑惑の目を向けられることがあった。なぜかと当時は思っていたが、それはすぐに解消された。
それは、ある休憩中の時だ。二人きりになるときがたまにあったのだが、俺と勇者様が交代で見回りに行くときなど。その際だ。
「……騎士様。騎士様はなぜこうも私に良くしてくださるのでしょうか?」
疑惑の目を向けたのは、鈍い俺でもわかった。
だから、素直に俺は心の内を申し上げた。
「まず、俺はパーティの壁です。その役目を果たすべく、あなたをお守りしたのが理由の一つ。あなたはパーティの要です。あなたがいないとパーティが崩壊します。それを守ること以上に大事なことはありません。」
※備考する。『ぱーてぃ』という名は勇者様から俺らは教えてもらっていた。
「はい……。でも、それだけではないのですよね?」
聖女様の目が青く光る。
聖女様は集中なされる際、しばしば目を青くなされる時があった。神聖魔法を発動する条件なのだろうと俺は思っていたのだが、今その目をなされるということは違う。
……正直に話すべきだ。
どうやら表向きの理由だけではご納得いただけてない様子であった。ならばと思い、恥ずかしながら自身の思いを赤裸々に語った。俺程度の気持ちよりも、まずは聖女様の懐疑心を溶かすことが優先だと考えたからだ。
「……はっ。恐縮ですが……、それにあなたにとって気持ちの良いことではありませんが…。昔、世話になったシスターに似ているのです」
「シスター…?」
「はい。俺は孤児でした。教会でお世話になっていたのですが、その際に良くしてくださったシスターが居ました。聖女様のような、華やかでおしとやかな方とは程遠い方なのですが……生に満ち溢れていた。その方が私に生きる術と、信条を与えてくださった。『誠実』に生きろと。その方のおかげで今の俺がいます。」
「そうなのですか……。ちなみに、その方は今は?」
「……亡くなりました」
「……」
「俺の、せいなのです」
「騎士様……?」
「暮らしていた教会が魔物に襲撃されました。町から帰った俺は、その光景から逃げ出してしまった。剣を持っていたにも関わらず、です。ですから、俺のせいなのです。何の役にも立たず、恩を仇で返すような俺のせいなのです」
「騎士様……申し訳ありません。つらいことをお聞きしてしまったようで」
「いえ。……自分勝手な語り、お耳を汚しました。大変申し訳ありません。……話を戻してもよいでしょうか」
「失礼しました。はい、お願いします」
「気持ち悪いかと思いますが、俺は正直に言うと……あなたと、育てのシスターを重ねている部分があります。性格からして似ても似つかないと思います。ただ、同じ教会の方だからでしょうか、どこか似ているように感じたのです。だから、……何を言いたいかと言うと、……申し訳ありません、うまく言葉が出そうにありません。……あの時守れなかったあの方を、俺はあなたと重ねて、守りたいと思ってしまっている。勝手な罪悪感を抱いて、当時の自分を救おうとしている。……恥ずべきことだと思います」
「なるほど……」
「申し訳ありません。あなたにとっては何も関係ない話でした。気持ち悪いと思ったようでしたら、距離を取ります。……だが、それでもあなたを守ることをお許しください。あなたはパーティのメンバーだ。俺には守る役目があるのです。その役目を果たすことをお許しください。」
「……ふふっ」
「聖女様……?」
途中から俺は顔を伏せていたが、笑い声が聞こえて顔を上げた。聖女様は微笑んでいた。
「正直なお人なのですね……。それに、不器用。笑ってしまい申し訳ありません。……この場で私もあなたに一つ謝ることが一つあります。黙って私の『力』を使い、この場でうそをついたらわかるようにしていました。……ごめんなさい、あなたを裏切るような真似をしていました」
「いえ…、このような得体のしれない男に用心していて、何が悪いのでしょうか」
「ご、ご自分を卑下しすぎでは……?」
「いえ、あの時逃げた身。清らかなあなた様と比べるまでもありません」
「あ、ありがとうございます……。……そうですね、私も正直に申します。あなたが私を助けてくださるのはうれしかったのですが、どこか不安でした。なぜそのように良くしてくださるのか、わからなかったのですから…。ですが、本心を知れてよかったです。」
「あなたの不安を取り除くことができたのならよかったのですが、……よろしいのですか? 自分勝手な理由であなたを守りたいと思っていた俺を」
そうだ、こんな自分勝手な男。薄汚い下賤の生まれ。一度逃げた愚か者。誰が好んで近づきたいと思うか。俺のその心と裏腹に、聖女様は笑った。
「いいえ、気持ち悪くありませんよ? ただ、守りたいという気持ちがあるだけでしょう? まさしく、『騎士』の称号にふさわしい方だと。 それどころか……初めて会った時から、素敵な方だと思ってましたし……」
「申し訳ありません、最後の方が聞き取りにくかったので、もう一度よろしいでしょうか?」
「だ、大丈夫です! 聞かなかったことにしてください!」
「はっ。承知しました」
「き、聞き分けがいいのですね……」
「あなたが嫌がっていることを、進んでやるわけがありません。それこそ、あなたがおっしゃるように『騎士』の風上にもおけない。まだ、半人前の俺です。……正直、まだ『騎士』になれたとは実感していない。それでも、『騎士』になれるよう努めたい。そんな俺ですが……、これからもあなたを守らせてください」
「はい。もちろん。私も、あなたも、そして勇者様も、守らせてください。この神聖魔法は仲間を守るためにある神から授かった奇跡。あなたが傷ついたならば、癒しましょう。あなたが過去の悲しみに暮れていたら、それをやわらげましょう。お互い、これからも支えあいましょうね?」
「はっ。命に代えても」
「ふふっ。そんなかしこまらなくてもよろしいのに……」
「……すみません」
「本当に不器用なのですね。でも、それが愛嬌であって、あなたの長所でもある……。それに、不器用とは『真っ直ぐ』さを表すと、あなたを見て思います。こんな方とパーティを組めて、私は幸運です。神に感謝を……。」
こうして、聖女様とお互いの胸の内を明かすことができ、距離を縮めることができた。
勇者様以外でこうやって人間関係を構築できたことに、内心喜んだ。勇者様以外は、……ろくな人間関係を築くことができなかったから。
だから俺はこれを大事にしていこうと誓った。俺の勝手な思いを受け入れてくれた彼女を、俺は守りたいと……。
「聖女様」
「はい…?」
彼女の前に跪く俺。視線を地面に向ける。聖女様が驚かれたご様子が、頭越しに感じる。
「何か困ったことがあればすぐにお呼びください。助けが必要な時は大きな声を上げてください。私が何に代えても、あなたのもとへ参ります。あなたを悲しませようとする存在から、あなたをお守りしましょう。私はこのパーティーの、いや、あなたの盾であり、剣とお思いください。」
「……そこまで私のことを。……騎士様、一つ、よろしいでしょうか?」
「はっ」




