第2話 二股を疑われましたが、身に覚えがありません
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『騎士』。勇者様パーティの中の一人であり、それはこの国で最も誠実なものに与えられる称号であり、『理想たれ』と求められる名。
なぜこの思い出を少しだけ回想したのかというと…。
「二股……?」
「うん。二股だよ。……もしかして、きーくん。身に覚えがないの?」
誠実さとは程遠い言葉が目の前の勇者様から出てきて、一瞬何を言っているのかわからなかったからだ。
「本当にいつもの冗談ではないのでしょうか?」
「ううん、違うよ。それだったらどれだけよかったか…」
俺は固すぎる。だから冗談を言い合う機会を多く設けよう。そうやって目の前の勇者様は俺にコミュニケーション能力を鍛える機会を与えてくださっていた。(そのコミュニケーション?というのはあまり意味がわからなかったが…)
正直誠実さを求める俺にとって、その勇者様が言っている「ゆーもあ」?はどうかと思ったが、まあ、勇者様が言うことならば間違いないと思い、それをつづけていた。
それほど勇者様を俺は尊敬しているのだ。その人に、俺は追放宣言をされて、正直意気消沈している。いや、現実をうまく受け止め切れていないというのが正しい。
「……正直に言って、身に覚えが俺にはありません。パーティのメンバーとの関係は良好だと思っています。ただ、恋愛関係になっていたとは思わない。俺などに烏滸がましいほどの女性たちです。これからもそのような関係になるとは想像できない。分不相応です。」
「……本人たちの目の前でそれを言うのはやめようね? もっと事態がやばくなるからね? ね?」
「は、はい。勇者様が言うならば…。しかし、……なぜ『二股』という言葉が出てきたのでしょうか? 俺はその二人、『聖女』様と、『魔法使い』様とは付き合った覚えがないのです。もっと言うならば、性こu「これ以上はやめよう! 僕はそこまで恥ずかしいこと聞いてないよぅ!」 あ、はい…」
慌てた様子を見せて勇者様は俺の口を手でふさいだ。
そして、勇者様は元の態勢に戻り、深いため息をつきながら話をつづけた。
「最近二人の雰囲気が最悪なのは知っていた?」
「ええ、どこか二人の間が悪くなっていっているのは薄々感じてました」
「薄々なんだ……? 結構殺気が出ていたけど…。きーくん。これからもっと一緒に空気を読む練習、頑張ろうね? 真面目なところはきーくんの長所だけど、空気を読むことができたら、もっといいことがあるからね?」
「はい。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。ご期待にそえるよう努力します。」
「うん。頑張ろうね♪ じゃあパーティのところに戻ろうか。」
「はい」
男とは思えない柔らかい手で俺の頭を撫でてくる勇者様。そして手をつないで、元に戻ろうとする。
「って、違う!! 話がずれてた! 僕の馬鹿! それに今きーくんと手をつないで戻ったら、事態がよりややこしくなっちゃうじゃないか!」
「……何かご苦労をおかけしているようで申し訳ありません」
「そうそう。この銀髪もたまに『白髪増えた?』って時々いじられるし…。本当に白髪生えそうなくらい悩み事が……。って違う! きーくんも話をずらさないで!」
「は、はい…。」
この人に苦労をかけまいと内心で誓う俺だったが、……そうだった、追放されるんだったな。
「話を戻すよ? 空気が悪くなった理由…それは、きーくんが原因。きーくんを取り合って、二人は戦争状態なの。二人は自分がきーくんと付き合っていると思っている。今まではそのことは二人の内心でとどめておいた状態だったんだけれど、それが表面化しちゃったんだ。自分のきーくんに、他の女が色目をつかっているのが気に入らなくなって、怒りのボルテージが上がっていったの。」
「……なるほど。しかし、俺は本当に二人と付き合っているつもりはありません。」
「うーん、きーくんはいつも正直で良い子だから、本当なんだろうけど。でも、二人はもう付き合っている前提らしいからね。」
「勇者様はなぜ二人の内心を知ったのですか?」
「それはその二人を一人ずつ呼び出して、内心を明かしてもらったからだよ。」
「さすがです勇者様。いつもおっしゃっている『こみゅにけーしょん』能力が高い。勇者様が信頼されている証拠です」
「ありがとう。でも、聞きたくなかったなぁ、こんなドロドロしたこと……」
勇者様は頭を抱えだした。
でも、大体理屈はわかってきた。
「なるほど。勇者様のお心積もりはわかりました。俺を追放させて、元のパーティの状態に戻すということですね?」
「……うん。そうだね。そのつもりだった。本当に申し訳ないけれど。でも、ずっと追放するつもりはないよ? 一時的な処置なんだ。元の二人に戻った時に、またきーくんを呼ばせてもらおうと思っているから。関係が修復するまでの間、きーくんはちょっとだけ待っててほしいんだ。横暴だけど、それしかもう方法がないと思っている。ほとぼりが冷めるまで、辛抱してほしい」
「しかし、仮に俺が戻ったとしても、またギクシャクするのでは?」
「多少そうなっても仕方がない。だけど、今の状態にならないように僕も気を付けるよ。それに、ギクシャクなっても、本来の僕らの使命を忘れるようならば、また指導するさ。それが、『勇者』であり、パーティの長である僕の役目だから」
「感服いたします。」
「言わないで……そもそも、この事態になってまで問題を放置していたのは僕の責任だから。……本当にごめんね? きーくんにつらい思いをさせちゃうけど」
「いえ、元は俺の不注意な言動が導いた結果と推測いたします。こちらこそ申し訳ありません。」
「……本当に、付き合っていないんだよね? もし本当に付き合ってたら、僕許さないからね? 僕というものがありながら……」
「ええ、断じてありえません。……うん? どういうことですか?」
何か不穏なものが聞こえたようだったから聞き直した。今度は確かに聞こえていなかった。
「なんでもないよっ! ……わかったよ。それじゃ、二人のところに戻ろう。これからのこと、まずは話さないと。荒れると思うけど、きーくんもそれは承知しておいてね」
「はい。わかりました」
俺がそういうと、元のパーティの場所で大きな声が聞こえた。
叫び声というよりは、怒鳴り声。今いる位置は少し遠かったが、それでも聞こえた。
「走ろう、きーくん!」
「はい」
………
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