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第14話 村娘に感謝されましたが、聖女様が黙っています

………

……


「ここは問題ありませんね」


「ありありだよ!」


過去の回想を俺が一通り話すと、勇者様は俺の言葉は否定した。


「そういえばそういうこともあったね! あの後僕は疲れて寝ちゃってて、忘れようとしてたよ。あのうさんくさい領主との交渉がやっと終わったと思ったら、あんなこと起きてて……。そうだよ、あの時何できーくん否定しなかったの!?」


「否定していたつもりですが……。正確には、しっかりと関係を述べたつもりですが?」


「うぅ、間違ってはいないけど……。でも、多分これでルート確定したよね? せーちゃんもその気になってたよね? それからは? それからきーくんは、ちゃんと好感度落としにいったんだよね? そうだよね?」


「お任せください」



………

……


俺、勇者様、聖女様は休憩としてある村で停留していた。

魔王退治を四六時中行っていては体がもたない。あのドラゴン退治から勇者様は自省なされたようで、こうして休憩をたびたび挟むようにしていたのだ。


村の外れにある畑で、俺は鍬を振るっていた。

正確には、振るう必要はなかったのだが、何かをしていないと手持ち無沙汰だったため、こうして村人の手伝いをしていた。


「本当に、ありがとうございました!」


声をかけてきたのは、昼間に魔物から助けた村娘だった。年は十六、七といったところだろうか。日に焼けた頬に、まだ幼さが残っている。


「本当に大事ありませんか?」


「はい! 騎士様のおかげで! それに畑仕事まで……。本当にありがとうございます!」


その笑顔は、まぶしいほどだった。

俺が村を警備しようと周辺を回っていた時、叫び声が聞こえた。急いで駆け寄ると、この女性が魔物に襲われようとしていたのだ。勇者様との旅でその辺の魔物など一人で狩ることができるようになっていたため、俺は女性を助けた。

だが、この女性はその際にどうやら足をくじいたらしく、これからやる畑仕事ができないと嘆いていた。だから手伝いを申し出たのだった。


「私は、役目を果たしただけです」


「でも……」


この村娘は、もじもじと指先を絡めた。


「怖かったんです。本当に……」


俺を下から見上げる。


「でも、騎士様が来てくれたとき……なんだか、全部大丈夫だって思えて」


「……そうですか」


「はい! ありがとうございます! あの、この後ご予定ってありますか? よろしければ私の家に来てくださいませんか? どうしてもお礼がしたいのです……。そ、そして私のせいで汗を流してらっしゃると思うので、よければお風呂も……」


そのときだった。視線を感じた。

振り向くと、少し離れた場所に、聖女様が、立っていた。畑の端の木陰。半身を出してこちらを見つめている。白い衣が、風に揺れている。こちらを、じっと見ている。


「……聖女様」


声をかけると、聖女様は神聖魔法をお使いになられた。対象は村娘へ。


「あ……すごい。痛くないし、全然動く」


聖女様の神聖魔法は絶大だ。その癒しの力で、村娘の怪我もすぐに治ったようだ。ジト目で俺へ声をかけてくる聖女様。


「畑仕事は終わりましたか?」


「はい。問題ありません」


「そうですか。では、もう参りましょう」


それだけ言って、歩き出す。背中が、いつもより少しだけ早かった。

その夜。俺たちは村長の家に滞在させてもらっており、食事をとっていた。勇者様は村人と話し込んでいて、少し離れている。


俺と聖女様は、並んで座っていた。

——だが。静かだった。


いつもなら、聖女様は食事の合間に何かしら話題を振ってくださる。祈りのこと、明日の行程、村の人々の様子。

だが、今夜は違う。黙々と、食べている。


表情は変わらない。だが、どこか——硬い。


「……聖女様。何か、ございましたか」


意を決して、声をかけた。


一瞬の沈黙。聖女様は、手を止めた。


「……いえ、別に何もありませんが」


短い返答。

それだけ言って、また食事に戻る。——違和感。

別に、という言葉ほど、別にではないものはない。


「何か、お気に障ることがありましたら」


「ありません」


即答だった。だが、視線は合わない。俺は、言葉を選んだ。


「昼間の件でしょうか」


聖女様の指が、わずかに止まった。


「……どの件ですか」


「村娘に、礼を言われました」


そう言った瞬間。聖女様は、ほんの少しだけ——眉を寄せた。だが、すぐに元に戻る。


「……それは、良いことです」


声は、平坦だった。


「騎士様が、村を守った証です」


「はい」


「感謝されるのは、当然です」


「……聖女様」


「はい」


「なぜ、少し……距離を取られているように感じるのでしょうか。もしかしてお怒りに」


「そのようなことは、あ・り・ま・せ・ん!」


「……そうでしょうか」


「はい」


きっぱりと言い切る。だが、その直後。


「……騎士様は、誰にでも優しいのですね」


「『騎士』ですので、礼節も大事かと」


「……そうですね」


その声は、どこか納得していない。聖女様は、膝の上で指をくねくねと動かしていた。


「騎士様が、村の方に感謝されるのは、正しいことです」


「はい」


「でも……」


言葉が、途切れる。


「……いえ。やはり、何でもありません」


そう言って、聖女様は立ち上がった。


「少し、日課の祈りを捧げに行ってまいります」


席を立ち、背を向けて、歩き出す。俺は、思わず声をかけた。


「聖女様」


立ち止まる。振り返らない。


「俺に、至らぬ点があればどうか、教えてください。俺はあなたに理想の騎士になると誓った身。それに、……申し訳ありません、俺は勇者様がおっしゃるように『こみゅにけーしょん』能力が低い。何か聖女様にしてしまったのだろうか」


少しの沈黙。やがて、聖女様は小さく言った。


「……至らないことは、ありません」


「しかし「ただ」……」


 わずかに、声が低くなる。


「騎士様が、遠くに行くような気がしただけです」


「……?」


 意味が、分からなかった。


「私は、ここにいます。聖女様のおそばに」


当然のことを言ったつもりだった。聖女様は、少しだけ振り返る。頬を膨らませていた。


「……騎士様は、誰にでも優しいですけど、それでも距離感は大事にした方がよいです! 誰にでも愛想を振りまいたら駄目ですよ!」


「い、いえ、最低限の礼儀として……」


「ただでさえ、騎士様は凛々しいのに、むやみに優しくしたら、誰でも好きになっちゃいます! 騎士様は私のものなのに……」


「はい、私はあなたの理想の騎士になると言いましたので」


「そ、それならいいのですが……。もし、もしあの村娘の方に自宅に誘われたらどうしてました?」


「ああ、断るのも無粋と思いますし、少しお邪魔しようかとは思いますが……」


「そのあとお風呂に入るように言われたら?」


「好意を無駄にするも申し訳なく……」


「じゃあ、一緒に、ど、同衾するように言われたら……?」


「? 何か理由があるのでしょう。そのまま従いますが?」


「だ、だめですー! そ、そんなはしたないっ! まだ会って一日ですよ?! まずは逢引からでは? い、いえ、まずは文通からで……って、違います! ふ、不潔ですよ!」


「ん? 風呂に入ったので清潔では? それに一緒にベッドに入るだけでしょう? おそらく魔物が怖くて眠れないと推察しております。彼女が眠るまでおそばでお守りすればよいだけかと」


「……本当にそれだけで済むと思っているのですか? そ、その性欲はないのですか?」


「それ以前の問題です。彼女は守るべき民。防衛が優先でしょう」


「……もう、不器用と言えばいいのか、職務に忠実と言えばいいのか……。ふふっ。一人で慌てていた私が馬鹿みたいではありませんか。騎士様、ちょっとこっちに来てくださいませんか?」


「はっ」


「……えいっ」


聖女様は俺を抱きしめる。甘い香りがする。柔らかい感触もする。俺と同じ生き物とは思えない。


「せ、聖女様」


「今日はこれで我慢します! ……ふふっ。知ってました? 私って、結構嫉妬深いんですよ?」


その笑顔は、いつもと同じで、穏やかで、優しかった。




………

……


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