第12話 きーくんさ、着実に好感度稼ぎにいってるよね?
「……きーくんさぁ」
「はい」
俺はその時の記憶を素直に話したが、どうも勇者様の反応が芳しくない。ジト目で俺を見ている。
「あのさぁ……順調に好感度稼ぎにいっているよね?」
「好感度……? 何のことでしょうか? というか、好感度という単語自体聞き覚えがないのですが、一般的に使われてるのでしょうか?」
「相手の『好き』をためるってこと! きーくん、確実にせーちゃん落としにいってるよね? ちょっと理想の王子様しすぎじゃない?!」
「王子様など、滅相もない……。俺などが烏滸がましいです。俺など、それらの方々見れば、下賤な民なのです。このような屑など……」
「突然自分を蔑みすぎだよっ!? い、いや。今はそんな話じゃないよね? きーくん、せーちゃんに対して、かっこよくふるまいすぎじゃない? 意識してた?」
勇者様のおっしゃっていることはあまりわからなかった。聡明な勇者様だ。俺などの頭脳では計り知れないほどの高度なことをお話なされているのだろう。ただ、俺の意識を聞いているらしい。素直に話すことが俺の務めだ。
「俺の当時の考えを述べればよろしいのでしょうか。ならば、ただ俺は聖女様をお守りしたかっただけです。一度、恐怖に屈しそうになりましたが、この剣と、そして聖女様を想うことで乗り越えることができました。勇者様に迷惑をかけることになりましたが……」
「ああ、なるほど……。その剣、長く使っているよね」
「はい。俺の育った教会で拾った剣です。何の変哲もない剣ですが」
「そうだね、僕の目から見ても、特に何も感じないし。」
「はい、俺にふさわしい剣だと思います。」
そう、俺はある時育った教会に戻ったことがあった。廃墟となっていたが、その中でこの剣を見つけた。俺はそれを罪の証と思い、今なお使い続けている。
「よく本当にそれで長く闘うことできているよね。何か買ってあげようか? それとも、旅の途中で魔剣や聖剣拾ったら、それ使う? 僕、なんでも買っちゃうし、なんでも手に入れてくるよ? きーくんのためだったら」
「……いえ、お気持ちは大変うれしいのですが、自分と、そしてこの剣の限界が来るまで使わせてください。俺の分身なのです、この剣は」
「そっか……。そうだよね、ドラゴンを退けた剣で、きーくんの思い入れがある剣で、そして……せーちゃんに誓った剣だもんね!」
突然デコピンをしてくる勇者様。勇者様の膨大なパワーが乗ったそれに、一瞬めまいを起こしてしまう。
「い、いえ、ドラゴンを退けてなどいません。あの時は勇者様のおかげです。俺は迷惑をかけたばかりです」
「……別にあの時は迷惑なんて思ったりしていないよ。それよりも、誇らしく思えた。僕のパーティーメンバーに、こんなに勇敢な人が居ると、あの時また実感できたんだ。物語の中の英雄を見ているようだったよ。」
「物語の英雄など……畏れ多い。一度恐怖心に負けそうになった身。それに、英雄ならば、あそこでドラゴンを簡単に打倒するでしょう」
「ううん。きーくんの勇気は確かに英雄だよ。その英雄が僕を信じてくれたおかげで、ドラゴンを倒すことができた。……それに、凄くかっこよかったし……。僕、惚れ直したよ」
勇者様が俺の頭を撫でてくださるが、一つ気になったことがあった。
「惚れ直した……?」
「わーっ! 無視! 聞かなかったことにしてっ! まだタイミングが悪い! 僕は綺麗なお城のようなホテルでって決めてるの! あ、ラブホテルじゃないよ! って違う! 記憶から消して!」
「はい。消します」
らぶほてるというものはわからなかったが、俺は勇者様の言いつけを守るために、木に頭を打ち付けた。
「えっ、ちょ、な、何やってるのきーくん! やめて!」
「はぁ……しかし、記憶を飛ばすためには……。消えろ、消えろ……」
「行動が極端すぎだよっ!!」
俺が頭を打ち付けていたら、あたりに血が飛び交う。
「きーくん、ちょっとタイム! ……ちょっと聞きたいな」
俺の血が飛んだ華を一つ積み上げた勇者様。
「きーくんさ、せーちゃんに渡した華って、どんなの?」
「ああ、まさしく勇者様が今お持ちの華です」
「……この華の花言葉って、知ってる?」
「いえ、存じ上げませんが……」
「……そうだよねぇ。でも、決定的だよね。あのね、きーくん。これはね、……『愛』を意味しているんだよ?」
「なるほど、慈愛にあふれた聖女様にとって相応しい。よかったです、その華を選ぶことができて」
「ち・が・う・で・しょ!!!」
俺の頬を引っ張られる。その巨人のような怪力で俺の頬は千切れるかと思った。だが、それは言わなかった。以前勇者様に「その強大な力が羨ましい」と言った際、「それ、ちょっと傷つくから禁止ね」と不貞腐れてしまったからだ。何故だろう、自分の力強さは誇らしいものと思うのだが……。
「きーくんにその気はなくても、「好きです」ってこと伝えちゃったの! せーちゃんはそれを受け取っちゃったの! きーくんのこと好きになっちゃったの! わかる?」
「なっ、そうなのですか……?」
「そーなの! きーくん、今までそういう恋愛話とか、そういう物語とかって聞いたり見たりしたことないの?」
「はぁ、……昔から知人も少なく、そしてそのような物語も興味がなかったもので……。剣だけ振っていたものでした」
「まあ、きーくんっぽいよねぇ……。いい? 今度からこういう行為は控えることっ! 勘違いしちゃうからっ。」
「はい」
「でも、ま、まぁ、僕にはいいかな? ほら、練習って必要でしょ? きーくんも将来、そういうことがあるはずだから。だから僕で練習してもいいよ? しておいた方がいいよ? するべきだよ。ううん、今からしようか」
「は、はい。し、しかし、不健全なのではないでしょうか?」
勇者様がこちらににじり寄ってくる。何とも言えない圧力を感じ、後ずさってしまう。
「何言ってるの? せーちゃんばっかりずるいよ。僕にはそんな甘いこと、滅多に言ってくれないのに。それにきーくんは将来ね、一家の大黒柱になるんだからね? ちゃんとこういうことになれておかないといけないんだよ? わかる?」
何やら暴走しているご様子であった。
錯乱状態を治癒するのは、いつもであったら聖女様の役割であった。しかし今はいない。……今は俺の役目か。まずは言葉から治癒を試みるか。
「勇者様。少しいいでしょうか?」
「何かな? 今後のマイホームのこと?」
「まいほーむとはなにかわかりませんが……。俺は、この話が決定的ではないと思うのです。」
「何言っているの? もうルート進んでるじゃん」
「るーと?とはわかりませんが、……。ただ、考えてみてください。俺は聖女様と付き合っている気持ちはなかった。と、するとです。このような面白味のない男。可憐な女性は飽きるのが普通ではないかと推察しました」
「……確かにね。愛情っていう水を与え続けなかったら、枯れちゃうものだからね。『自分の勘違いじゃないか?』って気づいてもよさそうだね。そうだね。ほかにもせーちゃんとの話ないか思い出してみようか!」
「はっ!」
………
……
…




