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第9話 旅路


私が屋敷を旅立ってから一週間が過ぎようとしていた。


私は今大陸南に位置する国マエロンに来ていた。

マエロンは広大な海に面した立地が特徴の国で小さな島々が数々点在しておりその島には独自の文化や技術を持つ民族が住んでいる。

マエロンは主に物流や海産などで賑わう港町ドルフィネがとても有名だとモーヴィが言っていた。

どうやら彼の出身はこの辺りらしい。

私はそこで船に乗せてもらう約束をしていた人物を探す。


『確かこの国では珍しい深緑の髪色をしている男に話しかければならない筈。』


だが人が多すぎるせいでどれだけ髪色が珍しかろうが探すのにかなり手こずる。

私は歩き疲れ広場の道脇に植えてある木に寄りかかった。


「流石は漁業と貿易の国だな。」


私が木陰で休んでいると何やら視線を感じる。

ふと気配の感じる方へ目を向けるとそこには探していた特徴の人物を見かけた。

私は急いでその人物の元へ駆け寄る。


「お待たせ致しましました。」

「やっと気づいてくれたわ。

ちと待たせ過ぎちゃうん?」

「すみません行きましょうか。」

「そうやなぁ、なんせウチらは密航者やからな。」


そう言うと彼は着いてこいと私に目配せしてくる。

彼の後をつけて狭く薄汚れた道を暫く進めば岩影に小型のボートがあった。


「流石に大きい船で港を堂々とと言う訳にはいかんやん。

やからこのボートである程度人目のつかん沖合まで行ってそこでアンタを引き渡すっちゅう算段やねん。」


理解してくれたか?と彼に問われ私は頷く。

そしてバレない様にボートに乗り込み持っていたローブを顔が隠れるくらい深く被った。

私が乗った事を確認すると彼はボートに水魔法と風魔法をかけた。

水魔法で推進力を上げ風魔法で空気抵抗を減らしながら船に追い風を当てている様だ。

こうした方が漕ぐよりよっぽど速い。

数十分もすると沖合にこれから合流するであろう中型船が見えてきた。


「もうすぐやで」


だが安心したのは束の間だった。

背後から勢いよく追いかけてくる者達がいた。


「あれは……」

「あかん嗅ぎ着けるの早過ぎやろ!」


背後からは水龍シーサーペントが迫ってきていた。

しかもそれは野生にしては統率の取れた動きをしている。

恐らく密航がバレたのだろう。

私はボートの後ろへ移動し水龍シーサーペントに向かって氷魔法を吹きつける。

海は瞬く間に凍りつき奴らの動きを鈍らせる。

だが相手もやられっぱなしではないらしい。

水龍シーサーペントがひとたび咆哮をあげれば海はたちまちの間に荒れ狂う。


「容赦をしている場合ではなさそうだ。」


このままだとこのボート諸共私達は海の藻屑にされてしまう。

私は冷気で海水を凍らせそれを足場に水龍シーサーペントに接近する。

彼らが攻撃する前に私は氷の剣で水龍の首を瞬く間に跳ね飛ばした。

私は氷で足場を固めボートへと戻っていく。


「アイツら殺して大丈夫なん?」

「人ではないし問題は無いだろう。」

「いやそう言う問題ちゃうねん。」


まあ今始末したのはマエロン国所属の水龍シーサーペントの部隊だろう。

マエロン国には申し訳ない事をしたが今は先を急がねばならない。

私は彼に再び船を出す様に急かした。


***


沖合で乗り換えた中型船を使い私は数日で母国である華都国カイトへ到着した。

私は船を出してくれた者に報酬を支払い船着場を離れる。

港は華やかで店や露店も人で賑わい皆着ているものも綺麗で清潔だ。

そして街は娯楽にも溢れている様子だった。


しかし私の生まれた村はこの国の山奥に位置するもっと錆びれた場所で古い習慣が根強く残っているいわゆる因習村だ。

あの村は不思議なことに雪が年中溶けることがない。

なのであの村は閉鎖的で外部とのやり取りも少ない。

故に人々は良い意味で言えば団結力が強くその代わり異物はとことん迫害される閉鎖的な社会だ。

私も例に漏れず村では酷い目に遭わされ結局は他国へと逃げた。

だがいつまでも逃げているわけにもいかない。


私は人柄の良さそうな商人に声をかけ荷馬車に乗せてもらう代わりに護衛をすると申し出ればすんなりと引き受けてくれた。

二日後にこの街を出るとの事だったので暫くはゆっくりと過ごそうと思う。

長い船旅で疲れていたのだろう。

私はその日取っていた宿で久々に熟睡してしまった。


***


雪の降り積もる社の前私は何故か地面に頭を押しつけられている。


「あとはお前の持つソレ・・だけが必要なんだ。」


私は抵抗するが複数人に押さえつけられているせいで身動きが取れない。


私の目の前には当主の夫となった叔父が立ってこちらを冷ややかに見下ろしていた。


「小雪の為なんだ。

涼香、呪石の糧となってくれ。」


叔父の手にはあの時豪雪が持っていたガラス片が握られていた。


それが私の魔核のある心臓付近目掛けて振り下ろされる。



***



目が覚めた。

私の目の前には宿の天井が映る。

空はとっくに日が上りきっている。


「はぁ……」


また嫌な夢を見てしまった。

今度は豪雪ではなく小雪の父親である叔父に命を狙われている様だ。


だがいつまでも夢に浸っている場合ではない。


私は身支度をし旅支度の為街に調達の買い出しに出かけた。


***


街はマエロン程ではないが賑わっている。


私は一通りの買い出しを終わらせ、なんとなく露店を散策しているとふとアクセサリーショップが目に入る。


どれも綺麗に細工されたものばかりで魅力的だったが私は右脇にある耳飾りに目が留まる。


「これが気になるのかい?」

「はい……。」


その耳飾りは目立ち過ぎず控えめなデザインだが、磨き上げられた小さな紅玉がさりげないアクセントになっており私の目を惹いた。

まるでユウのあの紅の様な綺麗な瞳の様なそれに一目惚れをしていた私は気付けば耳飾りを購入していた。


「貴重な路銀を使ってしまった……。」


だがあの時これを逃しては今後巡り会えないだろうと思ったのだ。

それに……


「なんだか彼がずっと側に居てくれている様だ。」


頬が赤くなっていくのがわかる。

私は気を取り直し明日の出立に向けて準備を再開した。


to be continued……



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