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第4話 悪夢の再来

許されない愛っていいですよね



一面の銀世界。


私は足元を取られまいと踏みしめながら歩く。


「何チンタラ歩いてんだよ!

こんな寒い中どれだけ待たせるつもりだ?あ?

君はいつからそんなに偉くなったのかな?」


聞いたことのない男の声


「黙ってないで返事しろよ!」


正面から飛んでくる拳に耐性を崩し身体が倒れる。


「いいかこれからお前は冬村家の妻になるんだ。

役立たずでも居て貰わなきゃ体裁が保てねぇんだよ。」


襟元を掴まれ無理矢理立たされる。


「だからとっとと歩けよ!

結納の時みたいな辱めは勘弁だぜ。」


少し歩くと見覚えのある屋敷が目に入る。


ここは今でも良く覚えている。


ここは実家牢獄だ。



***


目が覚める。


見覚えのあるベッドの上。


どうやら悪い夢を見ていた様だ。


私はいつも通り仕事をするべくベッドから起き上がるが普段は感じない違和感を覚える。


そして太腿を伝う不快な感覚。


私は仕事前に入浴を済ませることにした。



身体を清め湯船に浸かる。


やはり風呂は気持ちが良い。


私以外に女は居ないので湯加減は完全に私好みで入れられるのでこうしてたまに朝風呂を満喫している。


なんだか身体の疲れが抜けていく様だ。


少しボーッと風呂の壁を眺めていると風呂場の奥に人影が見えた。


朝早い時間だった事もあり幽霊か何かかと思い身構えたがどうやら違うらしい。


あの時厨房で見かけた少女だった。


こんなところにまで現れるのかと思い声をかける。


「……。」


あれから少し経って少女を見かけた際に話しかてみた事があった。


最初こそ人に慣れていない小動物の様な反応をされたが今では面と向かって話が出来るくらいには仲良くなれた気がする。


そして少女は幽霊などではなくこの辺りに住んでいる精霊みたいなものだと教えてくれた。


真偽は不明だがそれから少女と度々顔を合わせる様になった。


たまに作った焼き菓子などを出せば食べたり私の仕事を隅でじっと眺めたりしていた。


「こんなところ居たって寒いだけだ、風邪をひかないのか?」


「強いので大丈夫。」


「そういう問題じゃ無い。」


真顔でそうきっぱり言う少女に私はつい突っ込んでしまった。


私は彼女を風呂場から出し濡れている箇所を拭いていく。


「ねーねーあそぼ」


「お風呂上がってからね。

お風呂上がったら後でジュースでも飲もうか。」


「やった」


この時だけは少しだけ少女の年相応の反応を見ることができた。


***


彼女は美味しそうにジュースを飲んでいる。


何処か子供らしさを感じない雰囲気を漂わせてはいるがこの子もやはり年相応な女の子だと感じる。


漏れ出る魔力はこの国一の魔術師をも凌駕するほどの量であるのに不思議なものだ。


「気をつけてね」


「?」


少女は唐突に意味深な事を呟く。


「ごちそうさまでした。」


「いえいえ」


そういうと彼女はお辞儀をして厨房から出て行ってしまった。


「さて、私も朝食の準備に取り掛からねば。」


私は料理の下拵えに取り掛かった。


***


「旦那様お手紙が届いております。」


「またシルキーからか。」


「いえ今回は違う様ですよ。」


モーエヴィンはニヤニヤしながら俺を見てくる。


「気色悪い、もう下がれ。」


俺は手紙を受け取りモーエヴィンを下がらせる。


「これは……」


この国では見かけない便箋に紋章。


そしてこの国では使われていない特有の文字に俺は何か嫌な予感を察知した。


***



霞んだ視界



しかし何処か現実味の帯びた情景。


最近私はよくこんな夢をよく見るのだ。



「やぁこんな所に居たんだな。」


「なんで……」


「随分と探したぞ。」


洗濯物を取り込んでいると男に話しかけられる。


私は奴から後ずさる。


「さあおいで、君の家の者は頭で茶でも沸かせそうなくらいお怒りだ。

君に最初から拒否権なんて無いんだ、大人しく来てもらおう。」


声をかけられた時私は気が付かなかった。


何年も前の結納の儀で聞いた奴の声とは全く違っていたから。


どうやら私の居場所はとっくに割れていたらしい。


故に退職の旨を私に扮して勝手に屋敷に提出している様だ。


私を村に連れ帰るという絶対的な意志をこの時感じた。


私は奴から目を逸らす。


「もう何処にも逃げ場は無いんだ。

大人しく俺に飼われて己の役目を果たせ。

じゃなきゃお前は家畜以下だ。」


奴は私の腕を強引に引っ張る。


こんな時に脳の片隅にユウの顔が思い浮かぶ。


どうして退職するとわかった時引き止めてくれなかったんだ。


期限付きの雇用とはいえもう二年近くも一緒に居たというのに薄情だ。


どうしてこんな時にシルキー様の元へ行ってしまっているんだ。


あの夜見せてくれた彼は全て一夜の夢だったとでも言うのか。


どうしてこんな時助けに来てくれないんだ。


大嫌いな家の奴らに奴隷の様に扱われ連れ戻されそうになっている今ですらこんなに貴方からの救いを渇望しているのに。


でも私にそんな事を思う資格なんて最初から無いのだ。


苦しい……寂しい……


「助けて……。」


***



今朝は妙に生々しい嫌な夢を見てしまった。


それもふとした瞬間に思い出してしまいそうなくらいの。


今日の空の雲行きは怪しくすぐにでも降り出してしまいそうな天気だ。


私は急いで屋敷の外に吊るしていた洗濯物を取り込んでいく。


「やぁこんな所にいたんだな。」


背後から聞こえる声。


モーヴィでもユウ様でもない。


でも何処か昔に聞き覚えるのある昔のトラウマを彷彿とさせるその声に私は抱えていた洗濯物を落としてしまった。


「なんで……。」


そこに立っていたのはかつての婚約者冬村豪雪だった。


私の生まれた国、華都カイト国は大陸の西側に位置する島国で大陸とは違った文明や文化を持っている。


しかし因習村と言われる場所も多くあり私はその中でも裕福な村の大きな家に生まれた。


だが偏った価値観や古くから残る風習じみた教育を施された私や兄は一族の繁栄だけを考え行動し世継ぎを残す為の駒でしかなかった。


そして村で二番目に大きな家の息子である豪雪も同様だ。


故に彼は私を完全に見下している。


家を継ぐ資格すら持たない失敗作だと。


「随分と探したぞ。」


私は奴から後ずさる。


さあおいで、君の家の者は頭で茶でも沸かせそうなくらいお怒りだ。

拒否権なんて最初から無いんだ、大人しく来てもらおう。」


あの夢と全く同じ状況だ。


私はこの後の展開を知っている。


私は黙って男の目を見る。


「あ?なんだその目は!?

お前みたいな塵俺が拾ってやるってここまで来てやったんだぞ!!」


豪雪は大股で近付き私の髪を掴む。


「帰ったらしっかり躾けてやらないとだな。」


豪雪は私の手を強引に掴んだ。


「やめてください!」


「うるっさい!!忌み子の分際で俺に楯突くつもりか!!」


豪雪の腕に力が入る。


「その澄ました様な顔本当に気に食わない。」


豪雪は拳を振り上げる。


殴られる。


そう身構えるが衝撃はやってこない。


「な、なんだ貴様!」


「うちの家の使用人に暴力を振るうのはやめて頂きたい。

無礼を働いたのなら主人である私が詫びよう。」


そこには拳を受け止めるユウの姿があった。


何故ここにいるのか私は理解できなかった。

だって彼は夢ではシルキー嬢の元へ行っている筈だから。


「俺の婚約者だ!

どう扱おうが貴様には関係ないだろ!!」


するとユウは私の肩を抱き寄せた。


「残念だが負け犬君、俺と彼女とはもうとっくに夫婦の関係なんだ、介入の余地はない帰ってくれ。」


「は……!?」


ではと豪雪の前から去ろうとする私達の背後から凄まじい怒号が飛んでくる。


「そんな取って付けた様な嘘をそうですかで信じる訳ないだろ!」


そう言い返す豪雪をユウはギロリと睨みつける。


「き、今日は下がってやる……次は覚えておけよ!」


よくもまあ負け犬のテンプレートの様な台詞を吐き捨て奴は去っていった。


「……大事はないか?」


「はい、庇って頂きありがとうございます。

私は無事です。」


「そうか、無事で何よりだ。」


ユウ様は私の頭を優しく撫でる。


こんなにぐしゃぐしゃにされてしまって後で髪を整え直さねばならない。


「ユウ様どうしてこちらにいらっしゃるのですか?

本日はシルキー様とのお約束があった筈では?」


「嗚呼その事なんだがまた別の日にと予定をズラしてもらった。」


私は信じられなかった。


シルキー様も彼とのお約束の日を楽しみにされていた筈だ。


「でも間に合って良かった。

君がいきなりあの様に退職届だけを送ってくるのだ。

俺が何か不味いことをしでかしてしまったのかと気が気でなかったのだ。」


「いえ、あれは私の家の者の仕業です。

なのでユウ様は悪くありません。」


そう言うと彼は私の前に膝をついた。


「涼香、もし嫌で無ければまた俺の元で働いてはくれないだろうか。」


「使用人である人間相手に跪くのは変ですよ。」


「変で構わない。

それよりも涼香、君の返事が欲しい。」


『嘘だと言って欲しい。

だってこんなのまるで——』


私は一呼吸置いて彼の返事に答える。


「はい、これからも私涼香はユウ様の為に精一杯お仕え致します。」


『プロポーズではないか。』


そう返せば彼はまるで愛おしい人に向ける様な優しい笑顔を見せた。


空は生憎の曇天だが何故だかどこまでも続く花畑に二人きりになってしまった様な感覚だ。


本来は旅の路銀を稼ぐ為に始めた仕事なのにいつの間にか私はこの立場を手放せなくなっている。


私の涙を彼は優しい手つきで拭う。


それに甘える様に私は彼の手に頬を寄せた。


私は悪い女だ。


彼には既に婚約者が居るというのに。


でも今だけはこの瞬間だけは誰にも譲りたくはないと思ってしまう。


to be continued……

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