第九十八話 紫苑有栖の激情
「さっきは急に大声を出してごめんなさい」
有栖の部屋に通された芹緒は、二人きりになった途端振り返り、目の前で頭を下げた有栖の姿に驚きつつ得心もしていた。
(アリスなら大丈夫)
その思いはやはり正しかった。
目の前にいる少女は紫苑有栖だが、今はそこにMMOゲーム内で見慣れた『アリス』の姿がダブって見える。
「さっきは『私のユウカがこんな男だなんて!!』って興奮して頭に血が昇っていたけれど……よくよく考えたらあなたはあの娘と入れ替わりたくて入れ替わったわけじゃない。そして勘違いとは言え父に誘拐された身。つまりあなたはただの被害者。あなたが父の行いで私を恨みこそすれど、私があなたを恨んだり憎んだり嫌ったりする筋合いなんてなかった。……そこまで考えてようやく理解できたの、あなたはいつも通りのユウカだったって」
『アリス』は正直者だ。筋道立てて自分の思考の流れを言葉にし、その結論に至った理由を明確に告げてくる。
だがこれでこそ『アリス』だ。
芹緒は『紫苑有栖』のことはよく知らなくても『アリス』のことならここ三週間のうちに会った誰よりもよく知っている。心の世界で語り合った葵ですら、彼女と過ごしたMMOの時間とは濃密さが異なるだろう。
「急に身バレしたんだから仕方ないですよ」
芹緒はそう言うが有栖はその声が聞こえていないかのようにただ独白を続ける。
「私は、現実のユウカがどんな人でもいいと思ってた。例えネカマだろうとひょろがりだろうとデブだろうとおじさんだろうとロリコンであろうと」有栖の言葉がまるで鋭いトゲがあるかのように芹緒に突き刺さる。だが続く言葉は違った。「中身が大事だって思っていたもの。だと言うのに……私は自分自身の思いすら裏切って、あなたを見た目で判断していて……。私は中身が醜かったのよ……。こんな私、嫌われて当然よね」
「嫌ってなんかいませんよ!!」
「あなたはそう言う、って私信じてこんなこと言ってる。本当醜いわ。許してもらえるとは思わない」
芹緒の言葉を聞いて微笑む有栖。だがその笑みは儚い。
「ちょっと待ってください!!」芹緒は慌てて有栖の独白に口を挟む。「私が紫苑様を嫌うわけ……って、えっ!?」
芹緒の言葉に身体をびくっと硬直させた有栖の顔は真っ青で、大きく見開かれた両目から涙が一筋流れている。
「紫苑様、紫苑様!?」
何が何やらわからない芹緒は慌てて駆け寄るが、有栖は芹緒大好きなあの少女たちとは違う。
彼女たちが特別すぎる。普通の女性にどう接していいか、芹緒にはわからない。
有栖が組んだ手を胸元に寄せながら一歩、また一歩と芹緒から身を引く。
それを見た瞬間。
「アリス!!」
芹緒は大またで有栖に近寄ると、有栖を力いっぱい抱きしめた。
「!!」
「僕から逃げないで!!」芹緒は心から浮かんだ言葉を有栖にぶつける。「たった一回の失敗で僕たちの関係は壊れるはずない!! もっとひどいケンカしたことあるでしょう!!」
美琴の身体の芹緒が年上の女性である有栖に抱きついても、戯れているようにしか見えない。
有栖が少し身をよじるだけで容易に抜け出せてしまう。
だが有栖は芹緒に抱きしめられたまま、ぼそっと呟いた。
「ユウカ……私を『有栖』って呼んでくれるの?」
「あっ……」
先ほどつい名前で呼んでしまった。だが様子が急変したのは確か芹緒が有栖を『紫苑様』と呼んでからだ。
九条邸に着いた時と今では状況が違う。あの時はお互い『芹緒様』『紫苑様』と呼んでいた。だが今はどうか。お互いの秘密を知り合い、有栖は自分のことを『ユウカ』とゲーム内ネームで呼んでいる。
……自分を許せない有栖を許すのは僕しかいない。
「もちろんだよ『アリス』」そう名前を呼ぶと有栖はくずおれた。膝立ちになった有栖は芹緒を抱きしめる。「『アリス』のことはよく知ってる。嫌うわけない。紫苑有栖は色々あったからね。心が疲れていて当然。僕は気にしていないよ」
「ありがとう……」
芹緒が有栖の名前を呼ぶことで、ようやく呆然としていた有栖の瞳に光が戻る。
「お父様が犯罪を犯して、家も取り潰しになって、九条家に連れてこられて、ユウカもログインが減って……」
「大変だったね」
芹緒も膝を折って有栖の目の高さに顔を合わせると、ぽんぽんと有栖の背中を叩く。
「ユウカに会えて嬉しいのに、ユウカに醜い私を見せたのが嫌……。ユウカも正体が分かったのに他人行儀で……」
「僕もアリスに会えて嬉しいよ。まだ本当の身体じゃないけど」笑いながら芹緒は本心を告げる。「今までがそうだったからね、でももうしないよ」
「本当の身体じゃないのはあの子のせいじゃない!!」
軽く笑い流そうとジョークを言ったつもりだったが、また有栖を刺激してしまったようだ。
芹緒にコミュニケーションは難しい。
「美琴さんもコントロールできない力の暴発で僕と入れ替わったの。入れ替わったおかげでなんやかんやあってアリスと出会うことが出来たんだから、感謝しないとね。美琴さんの力で入れ替わったのが僕で良かった」
「感謝……」そう諭された有栖の表情は複雑だ。「そうね、そういう考え方もあるわね」
そうして二人は絨毯の上で座りながら抱きしめあっていた。小さな少女である芹緒が年上のお姉さんである有栖の背中を叩いたりさすったりしてあやしている姿は不思議な光景だった。
しばらくして、すん、と有栖は鼻をすすると続けてこほん、とわざとらしい咳をして立ち上がった。ようやく落ち着いたのだろう。ただし、芹緒の手を引いて。
芹緒もそのまま手を引かれ一緒に立ち上がる。
「もう少しだけ、時間もらえるかしら」有栖は芹緒と手を繋いだまま奥へと歩みを進める。そこには芹緒がおそらく寝室だと思った部屋に続くドアがある。「ちゃんとお話しましょ?」
そう言った有栖の顔には今まで見たお嬢様の紫苑有栖とは違う、年相応の少女の笑顔が浮かんでいた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「問題はないのですね……はい、はい。紫苑様のメイドさんにも代わりますので、そちらも紫苑様と代わってください」
芹緒から来た通話を有栖のメイドたちにスマホごと渡す。有栖を心配しているメイドたちの大声をよそにさつきは大きなため息を吐く。
(詳しい説明は車の中で、今はもう少し二人でお話したいから時間をもらえませんか、って……)
さつきは向かいの扉を見つめる。
さつきたちメイドたちは廊下で待機することが多い。もちろんドア側ではなく、その反対側だ。
先ほど、芹緒が日課に行く前にはここまで有栖の大きな叫び声が聞こえてきた。
それが何をどうしたらこうなるのか。経緯は不明だがどうやら芹緒と有栖は仲良くなったらしい。
そもそもさつきは有栖が玄関で声をかけた原因がわからない。
まさか先ほど車中で話したばかりのキーホルダーがきっかけだとは夢にも思っていないだろう。
(有栖様と芹緒様が仲良くなったとしても……お嬢様方と仲良くなるのは難しいですねえ)
全てが明らかになれば有栖と美琴たちが仲良くなる可能性はあるだろう。
基本的に突っかかっているのは有栖側で、有栖が突っかかるのは全容を知らないから。突っかかってくるから美琴も過剰反応しているのだ。
だが有栖に全容を伝えてはいけないと決めたのは九条家当主、九条道里である。
彼の意向を無視して伝えるわけにもいかないだろう。
ただでさえ九条道里は忙しいらしく、あの事件から一週間経っても美琴と会っていない。会えないからこそ美琴はあの日家を飛び出して自殺未遂まで行い、ようやく父親とコンタクトを取れたのだが。
(何にしろ、芹緒様のお話を聞かないと判断も何もありませんね)
そしてまたため息を吐くと、今にも部屋に飛び込もうとする有栖のメイドたちを抑えるのだった。
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「全部教えて欲しいの」
寝室のベッドの上に連れ込まれた芹緒は、ベッドの上で有栖の抱き人形と化しながらそう請われていた。
「父が怖い思いをさせて本当にごめんなさい。私は家がなくなっても紫苑家の一人娘として全てを知ってあなたに償わなきゃいけないわ」
「そう思うならまず僕を離してほしいな」
「や」
そう言って芹緒を抱きしめる手に力がこもる。
……また一人、芹緒の目の前の女性が壊れた。そう芹緒は思ってしまった。
美琴にしろメイドたちにしろ、桜子たちにしろ、なぜか芹緒が知る女性たちは、芹緒がこうだろうと思う女性像から離れた言動をする。
芹緒が思う女性像はもう少し言動にブレーキをかけている。
芹緒の識る女性像が間違っている、のかもしれない。ここまで生きてきて女性とまともにお付き合いすらしたことないのだから、現実はこうなのかもしれない。
凛とし気品があったあの紫苑有栖が今、普段メイドたちにすら見せないであろう、警戒心のかけらもくったくもない笑顔で芹緒をギュッと抱きしめている。
また、芹緒が今現在誰もが振り返るほどの美少女である美琴と入れ替わっているのも大きいのだろう。いや、だからこそ、なのだろう。そう芹緒は結論付ける。
同性同士の気やすさ、見た目の可愛さが女性たちを芹緒が思う『壊れた』状態にしてしまうのだろう。
真実は美少女の見た目と中身が中年男性というギャップ、中身の中年男性の純真さ、純朴さ、誠実さにやられているのだが、本人はわからない。
「父は上、メイドたちは下。ユウカ、あなただけが私と対等なの」
「愛玩対象になってない?」
「なってないわ」有栖は即答する。「あなたが元に戻っても私あなたを抱けるもの」
「大きなぬいぐるみみたいに? やっぱり愛玩対象じゃ……」
「嫌ならあなたから抱きしめてくれていいのよ? そうしたら私が愛玩対象かしら」
「やっぱり愛玩対象じゃん!」
「あはは」
有栖は朗らかに笑って芹緒を抱きしめながらベッドの上を転がり回る。
二人ともワンピース姿なのでスカートや足が絡まってしまっている。
「父の犯した罪は、あなたを誘拐しただけじゃないと思うの」ころころと表情を変える有栖はまた真面目な表情になる。「ぶっちゃけ人一人誘拐したくらいじゃ、この上流社会じゃそこまでお咎めないもの」
「ええ……」
芹緒がドン引きするが有栖は続ける。
「そんな実力行使、すぐにバレて報復されるわ。だけどそういうのって貸し一つくらいで表沙汰にはならない。噂になる程度ね。上流社会にしがみつくため、非合法なことやってる家は多いのよ。馬鹿馬鹿しいわよね。だから」有栖は芹緒の顔を両手で挟み込んで自分の顔の前に持ってくる。「私の予想より重いのよ、罪が」
「し、知らない……」
嘘をつく人は目を逸らす。だから芹緒はしっかりと有栖の目を見て答える。だが
「ユウカはやっぱり可愛いわ。あなたってウソそのものがつけないのね。大方知ってるけど口止めされているんでしょ? それでも教えて欲しいの」
「……僕一人の判断じゃ言えない」
「そう、やっぱり他に何かあるのね」
「え、知ってるんじゃ!?」
「カマをかけただけ。ふふっユウカは本当に可愛いっ」
ごろんと転がり上になった有栖が芹緒を押さえ込む。そしてそっと芹緒の胸をさわる。
「こ、この身体は美琴さんだよっ!?」
「そうね、それが? 私が触れているのはユウカだわ」
芹緒の言葉をどこ吹く風と言わんばかりにそのまま芹緒の頬に口付ける。
「ゲーム内のユウカに似て可愛らしい女の子じゃない。こんな女の子になりたかったのね。夢みたい、こうやってユウカと触れ合える日が来るなんて」
「たまたま似ただけっ!!」
「私はユウカが男でも女でもどっちでも良かったのは本当よ。女でもひょろがりでもデブでもおじさんでも男の子でも」有栖の目が怪しく光る。「だって私ユウカが好きなんだもの」
「アリスストップ!!」
芹緒は全力で有栖の唇を躱し身をよじる。だが逃げられない。そんな動揺した芹緒の様子さえ、有栖には悦びの対象なようだ。
「大丈夫、私に任せてくれれば天国にイかせてあげるわ」
「紫苑様、ストップ!!」
「!!!」
『アリス』ではなく『紫苑様』と呼ばれた途端弾かれたように有栖の身体が跳ね上がる。その隙に芹緒は有栖の腕の中から抜け出す。
「アリス、もらった時間はちょっとでしょ。その間に変なことしちゃったら皆さんになんて言うの!!」
「ユウカ」有栖は昏い目で芹緒を見つめる。「私にイジワルしないで。今更他人行儀になったりしないで。呼び捨てにして。パートナーでしょ、私たち」
「ゲーム内のね」
芹緒は分かったという風に頷きつつ、訂正だけはする。
「はあ」有栖は大きくため息を吐くと両手で自分の頬を押さえ、暗い笑みを浮かべる。「私ユウカに調教されちゃったのかしら」
「してないしてない」
断じてしてない。そんな時間はない。
「そうよね、ユウカは私より大人なのよね。ええユウカ様の従順なペット、っていうのも立場が逆転していて一興ね」
「ないから」
ユウカ様って。
有栖さんどうしちゃったの、と頭を抱えたくなる芹緒。
普段の有栖の言動を知らないため、これが通常行動なのかわからない。
だが少なくともゲーム内ではこうでなかったはずだ。
匿名であるゲーム内が一番自分をさらけ出せると芹緒は信じている。
そんなゲーム内で冷静沈着なアリスがこうなっているのは、まだ自分に会った衝撃と興奮から冷めやらず、リアルで冷たく接していた自分を反省しているところから来るものではないかと考えた。
「僕だけの判断では話せない。僕はまだ美琴さんと入れ替わったままだから、元に戻った時有栖さんの「有栖」……有栖の態度が変わっているかもしれない」
「変わるわけないじゃない」有栖の返答はそっけなかった。「今までゲーム内で散々内面見てきてるのよ? 今更外見で変わらない、もう間違えない。それともユウカこそ、私の外見見てがっかりした?」
「……綺麗な女性だったんだからがっかりするわけないよ」
「んんっ」
有栖は何かを言おうとしたが何とか自制出来たようだ。自制出来なければ時も場所も関係なく今度こそ芹緒は美味しく頂かれていただろう。
「ねえユウカ、さわって?」再び有栖が芹緒に近付き覆い被さると、顔を寄せて芹緒の耳元で囁き、芹緒の手のひらを自分の胸に当てる。「自慢だけど当然美琴のその胸より大きいのよ」
「アリス、はしたない真似はやめよう?」芹緒は冷静に有栖の重力で重みを増した柔らかい胸から手を離し、有栖に手を伸ばして身体を引き寄せ抱きしめ頭を撫でる。「アリスはこんなことしなくていいんだよ」
「……」しばらく黙って撫でられていた有栖だが「ユウカ、もしかして美琴たちに変なことされてない?」
「……サレテナイヨ」
「そ」
芹緒の返答を聞いた有栖の言葉は簡素だったが、芹緒はその台詞に底冷えするほどの恐怖を感じた。
「今ユウカはどんな生活してるの? いつも美琴たちと来てるみたいだけど、そもそもどうして九条邸に美琴がいないの?」
「色々ありまして……」
「ふーん。ふーん。ユウカったら何もかも秘密にするんだ? 昨日一緒にレア出した仲なのに? しょせん私とユウカはゲーム内だけの関係なのね、ぐすっ」
絶対嘘泣きだ!! そう確信しつつ『優しい人』である芹緒は放って置けない。
自分の態度で誰かを、女の子を泣かせるのは芹緒の良心に多大なるストレスがかかる。
だが今の芹緒のアパートの現状を言えば有栖も来たがるかもしれない。
いや。
芹緒はそんなハーレムもののありきたりな展開を思い浮かべて否定する。
現実はそんなに甘くないはずだ。
思い出せ。
現状こそあり得ないものだぞ。
上流社会の人間の思考は、女性の思考は芹緒には理解できない。
だから。
「九条道里様の神託でね、入れ替わりを元に戻るため二ヶ月美琴さんたちと一緒に住むことになっているんだ」
現状ではなく条件だけを伝えた。
芹緒が無理やり美琴たちと同棲しているわけではないことをこれで理解してくれればいいのだが。
「ふむ」だが有栖はそんな芹緒の言葉を理解しているのかいないのか、爆弾を落とす。「私も遊びに行こうかしら」
「ダメ!!」
「よし行く」
「あああ」
有栖はすくっと立ち上がるとスマホを取り出しどこかへ電話をかける。
「お久しぶりですおじ様。質問なのですけれど私は外泊出来ますか? ……ええ、私の身元と居場所を保証してくれる場所ですから問題ありません。芹緒優香様のお宅へ伺いたいのです」
有栖がいつも通りの姿でどこかと許可されてほしくない通話をする。
「私は芹緒優香様のことをもっと知りたいだけです。誓って危害など加えるつもりはありません。……信用していただいてありがとうございます」
有栖が通話したまま優雅に頭を下げる。
有栖があのような態度で会話するということは、それなりの者なのだろう。というか有栖が芹緒宅に行くのに許可を取る『おじ様』なんて芹緒の頭の中には一人しかいない。九条道里だ。
「有栖さん、相手が九条道里様なら電話代わって欲しいんだけど」
だが有栖は芹緒の声が聞こえないかのように振る舞う。
「アリス、お願い」「はい」
呼び方を変えたとたん、有栖からスマホが渡された。
通話画面にはやはり『九条道里』の表示があった。
紫苑鷹秋の件といい、放置されていることが多い。九条道里には言いたいことがたくさんある。
「すみません、電話代わりました、芹緒です」
『久しいな芹緒君。有栖嬢と仲良くなってくれて嬉しいよ』
「あの」芹緒は意を決して九条道里社長に問いかける。「美琴さんの許嫁の件は正式に破談になったのですか? いつまで経っても連絡が来ないので心配です」
『九家には伝えてある』道里は芹緒のいきなりな問いにも答える。『来週には会議が行われる。そこで正式に破談となる』
「そうですか……」
芹緒はほっと胸を撫で下ろす。ようやく片付くのだ。
『事件後の有栖嬢は話を聞かせられる精神状態ではなかったため彼の所業は伝えなかったが、今の話ぶりだと問題なさそうだ。君から彼女に伝えてくれたまえ』
そう安心したところで今度は道里から爆弾が投げ込まれた。
紫苑鷹秋の所業を芹緒から語る!?
『それと』道里は息をつかせぬほど言葉を続ける。『美琴と君の入れ替わりが元に戻るのが早まるかもしれん。良い道を通っているようだ。有栖嬢も泊めてあげて構わん。五人暮らしだが一日くらい問題あるまい。それではまた』
そして一方的に通話が切られた。
道里は今桜子たちが連泊しているのを知らないらしい。今八人があの狭いアパートの独身部屋にいます。九人は無理ですよ。
だがそれから芹緒が何度電話をかけても道里につながることはなかった。先ほど有栖が繋がったのは奇跡のようだ。
「それじゃ準備するわね」
芹緒の手元から通話の切れたスマホを抜き取ると、有栖はドアを開けメイドたちを招き入れ、これからの行動計画を伝える。
どよめくメイドたちをよそにさつきが芹緒の元にすすすと忍び寄ると小声で尋ねてくる。
「何がどうなっているんですか?」
「わかんない……アリスが今夜うちに泊まるって。道里様がOK出した」
「ありす……? って道里様が!?」
混乱した部屋の中、落ち着いた仕草で身支度を整えているのは有栖ただ一人だった。
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