【082】バレーボール
グレンの頭がゴトリと地面に落ち、周囲からは悲鳴が上がった。
正直俺もひぇってなった。
でも待って欲しい。
よーく落ち着いてみると、首から上が無くなった胴体は立ったままだし、血しぶきも上げていない。
そして、地面に落ちた頭は何が起きたのかわからず目をパチクリさせていた。
要するにまだ死んでない。どんなホラーだよ!
ティターニアがグレンの頭を拾い上げると、悪意のある表情を浮かべたまま言った。
「首から上の空間を切り離しました。あなたはまだ、死んでいないわけですが……わたくしが少しでも力を抜けば、切り離した空間は繋がりを失うでしょう」
どういう事なの?
まあ、言ってる事は分からなくもないけど、どういう原理でそうなっているのかがわからない。
そもそも、エレメンタルマスターって、精霊を操るわけでしょ? 空間の精霊とかいるわけ? いや、いないでしょ。俺の創り出したティターニアが俺の知らない精霊を扱ってたら、それこそホラーだと思うよ。
「今はまだ、声を上げる事も可能ですから、わたくしをカードへ戻す事も出来ますよ?」
「な、ならカードに―――」
グレンはそこまで言い掛けて口を閉ざした。
まあ、そうだろう。ティターニアが力を抜いたら今の状態を維持出来ないと言っているのだ。つまり、そうなった瞬間、グレンは死ぬ。その事に、グレンは直ぐに気が付いたのだろう。嘘か本当かはわからないけど、この状況下で冒険出来る奴なんてそうはいない。
「おや、戻さないのですね。残念です」
「こ、こんな悪辣な事をして! 委員会が黙ってないぞ!」
「やれやれ、まだ反省の色がないようですね」
そう言うと、ティターニアはグレンの頭をピクシーたちに向かって放り投げた。
「な、何を―――!」
飛んで来たグレンの頭にエディナが小さな悲鳴を上げるが、ピクシーたちは嬉しそうに群がった。ボールでも扱うかのように、空中に蹴り上げ、トスして―――そのままアタック! よしっ拾った! うまいレシーブだ。
「お、おまっ、げふっ! やめ、ぼはぁっ!」
グレンの頭が弄ばれている中、体の方はどうしたら良いのかわからず、オロオロしている。
「ま、待て! わかった降参だ。降参するから許してくれ!」
グレンは叫ぶ。
すると、エディナの頭上に『WIN』の文字が浮かんだ。どうやら【踏替】の効果は、自分から負けを宣言した時は適応されないみたいだ。
まあ、そうだよね。それが出来ちゃったら、相手が罠にはまった瞬間に決着しちゃうし。
『獲得するカードの宣言をしてください』
何処からともなく声が聞こえて来た。
あー、そうか。勝ったら相手の登録デッキから一枚カードを奪えるんだっけ? でもあれだな、相手も殆どカードを使ってないから、何を持ってるかわからんぞ。
俺がそう思っていると、ピクシーたちがグレンの頭をキャッチして言った。
「おい、一番希少なカードはなんだ?」
「は?」
「早く答えろ」
「いや……」
グレンが言葉を濁すとピクシーたちはまたグレンで遊び始めた。
「ぐぁっ、やめっ、げほっ!」
暫くそれを続けられるとグレンの方が折れたようだ。
「【SSR】【幻影】だ! それが俺が持つ最高のカードだ!」
グレンが叫ぶとピクシーたちは、遊ぶのをやめてエディナに言った。
「「「だって」」」
「そ、そう。じゃあ、【幻影】を指定します」
『承認されました』
機械的な声が再び鳴ると、エディナの手元には指定したカードが握られていた。
さて、無事決闘も勝利したし、お茶でも飲みに行こうかな。
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