【017】便利なレジェンド
「いけない。こんなことしてる場合じゃないわ」
ツクヨミにメロメロになっていたエディナが、突然正気に戻った。
「ん? どうしたの?」
小首を傾げながらツクヨミが言うと、エディナは引き締めた表情をにへらぁと緩ませる。
うん。その気持ちは凄くわかるよ。ツクヨミ可愛いもの。
ハッと我に返り頭を振るエディナ。名残惜しそうにツクヨミから手を離すと言葉を続ける。
「陽がある内に森を抜けなくちゃいけないのよ。ブルがむちゃくちゃなことするから、時間を食っちゃったわ」
む、そういえば、元はと言えば荷物を運べる召喚モンスターを呼び出したかったのだった。
それを忘れて俺のしたことといえば、二千万イェンもする【白無垢】のカードを使ってツクヨミを呼び出したことだけだ。
なんてこった。二千万イェンがどれ程の金額かは知らないが、俺ってばなんてお買い得な買い物をしたのだろう。
ツクヨミの値段はプライスレス。お金になんて代えられない。
いやー、本当に大満足ですね。
あとはタッチさせてくれれば、文句なしなんだけど。
「また、変なこと考えてる」
ツクヨミの言葉で我に返った。
何それ、俺の心でも読めんの? まじやばくね? 一心同体ってヤツ? 生きてて良かった。いや、一回死んでるけど。
「これ、運べばいいの?」
俺の思考が再び在らぬ方向へと走り始めると、ツクヨミは呆れた表情をしてエディナへと問い掛ける。
「え? そ、そうだけど」
エディナが答えると、ツクヨミは荷物のとこまでトテトテと歩き大きなリュックに向かって手をかざした。
すると、ツクヨミの纏っている衣が生き物のように動き出して大きく膨らむと、リュックを丸ごと飲み込んでしまった。
飲み込まれたリュックは、その場から忽然と消えて無くなり、ツクヨミはクルリと振り向き眠たげな瞳を向けてくる。
あー、そういえばあの衣は別の次元へと繋がっているんだったな。ゲーム時もツクヨミは何処からともなく武器を取り出して、必殺技とか使ってたもんな。出し入れ自由とか、めっちゃ便利じゃん。
俺が勝手に納得していると、エディナは目をパチクリさせて、驚いた表情を浮かべていた。
「え? 荷物食べちゃったの?」
見当違いな発言に、ツクヨミは首を振る。そして、別次元に取り込んだリュックを、再び手をかざして出現させてみせた。
「自由に取り出せる」
何度か出し入れしてみせるツクヨミの行動をみて、エディナは驚きながらも納得したようだ。
「さ、さすがレジェンドカードね」
「街まで行くの?」
未だ驚いているエディナにツクヨミは問い掛ける。
「え? そうだけど」
「どっち?」
「え?」
「街の方角」
ああと納得して、エディナは街の方角を指差した。
それをみて、ツクヨミはその方角へと眠たげな視線を向ける。そして、再び手をかざすと纏っている衣が動き出し、エディナを優しく包み込んだ。
椅子に腰掛けるような体勢でツクヨミの衣に取り込まれるエディナ。対して俺はというと、縄ですまきにされたような体勢で、細く伸びた衣に捕らえられていた。
おい、待てっ! この違いはなんだ!
エディナを丁寧に扱うのはわかる。だが、俺は仮にもご主人様だぞ! ツクヨミに対して不遜な態度はとりたくはないが、ここは一つガツンと言っておかなくてはなるまい。
俺が声を上げようとすると、ツクヨミは俺たちを自前の衣で取り込んだ状態で、突然走り出した。それも恐ろしい速度で。
「ぼいっ、ドュグボビ! ばべがどぶびんばばだわだっつでびびぶば」
強烈な風圧に俺の顔が歪み、声がまともに上げられない。
未だ状況が理解出来ていないエディナも、え? え? と困惑した声を上げている。
どうやら、エディナの方には、風除けが張られているらしい。
くそぅ! なんで俺の扱いが悪いんだ!
風圧で涙がちょちょぎれる中、俺は必死になって声を上げ続けた。
お願いします。せめて俺にも風除けを張って下さいと。
最早、ご主人様としての威厳など、これっぽっちも残ってはいなかった。
読んで頂きありがとう御座います。
この作品は一話30~60分で仕上がるけど、真面目に書いてる方はこれの5~6倍の時間が掛かるんです。
でも、みてくれる人あんまりいないの!悲しい!
というわけで広告です。「マリアンたんと英雄譚」は真面目なお話です。でもこんな作品を書いてる作者なんで、真面目なつもりでもふざけた内容なのかもしれません(鼻ほじ)。つか、真面目な話と言いつつこのタイトルはどうなのよって思うけどね!