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プリズム!  作者: 龍野ゆうき
学園祭のススメ
20/40

‐2‐ 予想外の…

――ところ変わって、昇降口では…。


「ちょっと待って下さいよっ。そんな話、聞いてないッス!」

珍しく雅耶が不満感を表に出して、目の前にいる人物に向かって文句を述べていた。


「しょうがないだろー。そう、怒るなよー。ちょっと顔出すだけでいいからさ。途中で抜けてくれて構わないから。なッ?久賀、頼むよっ!人手が足りないんだっ」

手を合わせて頼んでくるその先輩を前に、雅耶は思いっきり不機嫌を露わにした。

「先輩…そればっかり…。学祭では特に何もしなくていいって話だったじゃないッスか。俺、午後はクラスの方の当番回って来るし、午前中しかフリーの時間ないのに…」

曲がりなりにも先輩だ。本気で怒りをぶつけている訳ではないが、あまりの理不尽さに思わず情けない声が出てしまう。

「だからゴメンて。とりあえず、もうすぐ成桜の役員の皆さんが来るから、会議室まで案内するだけでも引き受けてくれよーっ」

泣きつくように頭を下げてくる先輩を前に、流石にいつまでも不満を述べているのも大人気ないと思い、大きく溜息を吐きながらも言った。

「もう…分かりましたよ。ここにいれば良いんですよね?」

しぶしぶ仕事を引き受けることにする。

だが先輩は、雅耶のその言葉を待っていたかのように、憎らしい程にニッカリと笑顔を向けると、

「じゃあ、案内の方よろしくなっ!」

それだけ言って、さっさとその場を去って行ってしまった。


「…ちぇっ…」


(何だよ…。午前中は夏樹達を案内しながら、一緒にゆっくり回れると思ってたのに…。これじゃあ計画が台無しだ…)

雅耶は心の中で一人ごちた。


本当は、この後、夏樹達と合流して一緒に校内を回る約束をしていたのだ。

何より長瀬が、夏樹の友達の中に気になる子がいるとかで妙に意気込んでいて、

『是非とも、この学園祭で彼女とお近づきになりたいんだっ!雅耶ーっ協力してっ!!』

…とか、泣きついて来たので色々と計画を練っていたのに。

(まぁ、長瀬は俺がいようがいまいが、その子と回れればそれで良いんだろうけどな…)

雅耶は賑わっている昇降口で、一人天井を仰ぎ見て大きく息を吐くと、気を取り直して、成桜の役員の生徒達がいつ来ても良いように入口の正面へと歩み出た。


その時――。


丁度向こうから、長瀬を先頭に夏樹達が歩いて来るのが見えた。

すぐにこちらに気付いたらしい夏樹が、少し表情を和らげて微笑むのが見える。


(――夏樹…)


可愛らしいフリルのワンピースを揺らして歩いて来るその姿は、今迄に見たこともない程に女の子らしく魅力的で、思わず視線が釘付けになる。

雅耶は、自分の頬が無意識の内に熱くなっていくのを感じていた。



「ホント、ごめんっ!!」


一通り夏樹の友人達と挨拶や自己紹介を交わした所で、雅耶は急な仕事が入ってしまったことを告げると、夏樹を前に小さく頭を下げた。

長瀬や愛美達は、少し離れた所で二人の様子を見守りつつ、プログラムを手に次はどこへ行こうかと話し合っている。


「そんな謝るなよ…っていうか、謝らないでよ」

夏樹は気を使うように穏やかに口を開いた。

「雅耶だって仕事なんだし、こればっかりは仕方ないでしょ?そんな気にしないで大丈夫だよ」

「うん…。まぁ、そうなんだけどさ…」

気遣うように微笑んで見上げてくる夏樹を改めて見つめる。


夏樹自身は『冬樹』だとバレたら大変だと危惧していたけれど、もうそこにいる夏樹は、以前の冬樹とは雰囲気も全然違う別人のようだった。

(お前…可愛いすぎるだろ…)

先程からこうして二人で話していても、横を通る男共が夏樹に視線を送り、振り返る姿がちらほらと見受けられる。

それ程までに夏樹は周囲の注目を浴びていた。

そんな夏樹を連れて、校内を堂々と皆に自慢して歩きたい位だと、正直悪趣味なことを考えてしまう程だ。

それ位、夏樹は魅力的だった。

(…そんなことを言ったら、お前は怒るかも知れないけどな…)


じっ…と眺めていたら、夏樹が心配げに名を呼んで来た。

「もし…早めに終わったらさ、携帯にでも連絡入れてよ。そしたら一緒に回れるだろ?」

一生懸命気を付けているのだろうけど、言葉の端々に未だ男言葉の名残なごりが混じっていて、その外見とのバランスに思わず笑みが零れる。

「…雅耶?」

「いや、何でもない。じゃあ、終わったら必ず連絡するよ。出来るだけ早く上がれるようにするから、悪いけど待ってて。せめて昼くらいは一緒に食べたいよな…」

「そうだね。じゃあ…また、後でね」


友人達の輪に合流し、もう一度こちらを振り返って軽く手を上げてる夏樹の横で、長瀬がゴキゲンな笑顔で手を振っていて。

それが八つ当たりだと分かっていながらも、ちょっとだけムカついてしまう雅耶だった。




「えー、じゃあ夏樹の幼馴染みくんは合同イベントの係になっちゃったんだ?」

「そう言えば、今日両校の顔合わせがあるって言ってたもんね?これから始まるってことかぁ」

「早くお仕事が終わって雅耶くんと合流出来ると良いね」

一緒に回ることが出来なくなったことを話すと、悠里と桜と愛美がそれぞれ残念そうに口を開いた。

だが、若干テンションが下がってしまった四人を前に、長瀬が明るく盛り上げてくる。

「雅耶が一緒に行けなくなっちゃったのは残念だけど、俺に任せておけば大丈夫っ!ちゃーんと案内するから、どこでも行きたいとこ言ってよ♪」

自分の胸をドンッっと拳で叩きながら、アピールしている。

そんな長瀬のひょうきんな様子に、皆の笑いが起こった。

「それじゃあねー、まずは――…」

皆が気持ちを切り替えて、プログラムを片手にゆっくりと移動を始めたその時だった。


「あれーっ?久賀くんじゃないっ」

「え…?薫先輩…?」


夏樹が何気なく後ろを振り返ると、向こうで雅耶が成桜の制服を着た薫と話しているのが見えた。

薫の後ろには、やはり成桜の制服を着た数人の生徒達が見える。


「えっ?薫先輩が成桜の生徒会長なんスかっ?超びっくりなんだけどっ」

「あら、こないだ言ってなかったっけ?でも、久賀くんが成蘭の実行委員だったなんて超ラッキーだなー。これから、色々よろしくねっ」

「あ、ハイ。こちらこそ。えーと…それじゃあ皆さん、ご案内しますのでこちらへどうぞ」

そうして、雅耶が皆を入口へと案内している。


(そうか…。合同イベントの打ち合わせって言ったら、生徒会の早乙女さん達が来るのは当然だよな…)


思わず足を止めて振り返っていた夏樹に気付いた愛美が「どうしたの?」と、声を掛けて来る。

「ううん…何でもない」

夏樹は気持ちを振り切るように前を向くと、皆が待つ場所へと駆けて行った。


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