‐3‐ 友達の恋
それから一時間程は五人で色々と見て回っていたが、途中で長瀬は部活の方で仕事があるからと抜けて行った。
その後、悠里と桜も朝話していた通り吹奏楽部の先輩に会いに行く為別行動となり、結局夏樹と愛美の二人だけになってしまった。
だが、もともと気の合う二人なので、穏やかに色々見て回っては会話を楽しんでいた。
「結構、見て回ったよねー」
「うん。少し休憩しようか?」
「そうだね。ちょっと疲れちゃったかも…。どこか座れる所ってないのかな?」
「ああ。それなら、さっき――…」
夏樹は、思い当たる場所があって愛美をそこへ案内した。
そこは、暖かい日差しが降り注ぐ中庭だった。
もう空気は割と冷たい季節ではあるが、陽が当たる分、特別寒さを感じることはない。
休憩所として解放されているそこのベンチに夏樹と愛美は二人並んで座ると、少し休むことにした。
「さすがだねっ。夏樹ちゃんといれば、成蘭で迷うことはないね」
愛美が無邪気に笑って言った。
「うん、まあ…そうだね」
夏樹は微笑むと、中庭を囲むように建てられている校舎を見上げて目を細めた。
この場所は、ある意味校内から丸見えの場所でもある。
だが、他にも沢山の一般客がいるし特に問題はないだろう。
校内を歩いていても、人が多い分誰も特に自分に気付く様子はなかったので、夏樹は内心でホッとしていた。
(流石に、一年の棟へは行きづらいけどな…)
今日は、何だかんだと一年生の教室や模擬店などの方へは行っていない。
元クラスメイト達に会いたくない訳ではない。
勿論、どんな出し物をしているのかも気になるし、皆の今の様子を見てみたい気持ちはある。
だけど…。
もしも誰かに声を掛けられてしまったら、上手く笑顔でかわせる自信もない気がした。
夏樹と愛美は休憩しながら、先程三年生が出していた模擬店で購入したクッキーを食べてみることにした。
「すごいねっ。男の子ばっかりの学校でもクッキー作って売ったりするんだね。見た目も結構かわいい♪ちゃんと型抜きしてあるよー」
愛美は綺麗にラッピングされた袋の中から、一枚の星形クッキーを取り出すと、感心したように眺めた。
「確かに…」
よく見ると、自分の袋の中にはハート形のクッキーばかりが入っていて、その一枚を取り出した夏樹は思わず目を細めた。
先程売り子をしていた妙に愛想の良いゴツイ三年生の姿が頭を過ぎる。
そんな男子生徒の集団が、せっせとハートの型抜きをしながら、お菓子を焼いている姿を想像して思わず身震いした。
「…夏樹ちゃん?どうしたの?」
不思議そうに愛美に覗き込まれて、夏樹は渇いた笑みを浮かべた。
「いや…ちょっと怖いもの想像しちゃって…」
「…?」
だが、どのように作られたかという工程は置いておいて、そのクッキーはとても美味しかった。
クッキーを二人でつまんでいると、愛美が何気なく口を開いた。
「ね、夏樹ちゃん。長瀬くんって…どんな人?かな…?」
「え…?」
思わぬ所で意外な名前が出て来て、夏樹は目を丸くした。
愛美は何処か照れた様子で下を向いている。
(…愛美…?もしかして…)
ある可能性を頭に浮かべつつも、夏樹は特に気にしている様子を見せずにさり気なく答えた。
「長瀬は…そうだなぁ。明るくて、ちょっと調子乗りだけど…根は優しい良いヤツだよ。落ち込んでたりすると、笑わせていつでも元気にさせてくれる…。裏表がなくて面白いヤツだから、皆から結構好かれてるんじゃないかな。これは男友達としての目線でだけどね?」
そう笑うと、愛美はこちらを見て「なるほど…」という感じで頷いていた。
「もしかして、長瀬に…何か言われた?」
静かに聞き返すと、愛美が咄嗟に顔を赤らめた。
「あ…あのねっ、何てことはないんだけど…。お昼一緒に食べないかって、さっき誘われたの。夏樹ちゃんは雅耶くんと一緒に食べるだろうから、二人でどうかなって…。考えといてねって言われて…」
その愛美の反応に、夏樹は内心で驚きの表情を見せていた。
(…これは、もしかしたら――…もしかするんじゃ…?)
実は昨夜、長瀬から珍しく電話があったのだ。
たまにメールが来ることはあるけど、電話してくるなんて珍しくて、
「急にどうしたの?何かあったのか?」
何か言いにくそうにしているので、相談事でもあるのかと聞き返した時だった。
『あのさ、こないだ電車で会った、愛美ちゃんのことなんだけど…。あの子、彼氏とかっているのかな…?夏樹ちゃん、何か聞いてたりしない?』
「へ?いや…今はいないみたいだけど…?」
『マジでっ!?』
「え…う、ん…。多分だけど…」
様子を見てる限りでは、多分いない筈だ。
そう言うと、一定時間無言の後、『はぁーーーっ』という長い溜息が聞こえてきた。
『実は…俺さ、何か…愛美ちゃんのこと好きになっちゃったみたいなんだっ。こういう気持ちになったの、ホントに初めてでさ…。何て言うか…。あああ…どうしようっ!夏樹ちゃーん、協力してぇーっ!!』
「お前、ウザッ!」
後半は少し照れが入ったのか、おちゃらけて言っていたけど、どうやら本気らしい。
とりあえず、色々話をして長瀬が真剣な気持ちなのは分かったし、出来る限りは協力すると約束をして電話を切ったのだった。
(でも、愛美のこの反応は…かなり脈ありなんじゃ…)
真っ赤になりながらも、クッキーをかじっているその横顔を見つめる。
二人の友人としては、お互いに惹かれあっているなら、その二人が仲良くなるのは、これ以上に嬉しいことはないと思う。
「誘われて…愛美はどう思ったの?嫌だなーって思った…?」
夏樹は優しく聞いてみた。
すると、愛美は真っ赤な顔のままこちらを向くと、ぶんぶんと首を振った。
「ちょっとびっくりしたけど、嫌じゃなかったよ」
その素直な様子に思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ、もし良かったら行っておいでよ。同じ学校内にいるんだし、何かあったら携帯に連絡入れてくれれば、すぐに迎えに行くからさ。…ね?」
「うん…」
「長瀬が何かやらかしたら、私が喝入れに行くからって言っておくよ」
そう言って笑うと、愛美も少しホッとした様子で笑顔を見せた。
「ありがとう、夏樹ちゃん…」
そうしている内に、部活の仕事が一区切りついたらしい長瀬から連絡が入り、自分達がいる場所を伝えると、ちょっぴり浮かれ緊張気味の長瀬が現れた。
未だに雅耶からの連絡がない夏樹を一人置いて行くことに愛美は抵抗があったみたいだったが、「勝手知ったる場所だから大丈夫!」と、夏樹は笑って二人を見送った。
緊張は見て取れるものの、照れながら並んで歩いて行く初々しい二人を眺めながら、夏樹は彼らが上手くいけば良いなと思った。
(――でも、この後どうしよう…)
結局、最終的にひとりぼっちになってしまった夏樹は、中庭のベンチで途方に暮れた。
二人を送り出すことに強がりがなかったと言えば、嘘になる。
雅耶からの連絡は来る様子もないし、この場所にひとり取り残されるのは正直気が重かった。
周囲に沢山の一般客がいるものの、流石に一人でいるのは目立つのだ。
(…場所、移動しようかな…)
でも席を立ったとして、次に何処へ行っていいか分からない。
何処へ行っても状況は変わらない気がした。
思わず、小さく溜息を吐いた時…。
「…夏樹…?」
不意に聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、夏樹は驚いたように声のした方向を振り返った。
そこには、よく見知った人物が、やはり驚きの表情で佇んで、こちらを見ていた。
「…ちから…」




