第30章 三つの魂
ママに抱かれて目覚める子供の幸せを、オッサンの俺が客観視する。
そんなシュールな朝を迎えた。
なんだかまだフラフラしている気がする。
多分これは、クワンリに抱かれて眠った嬉し恥ずかしだけの影響ではないと思う。
しかし、よく眠れた。
しかも、寝起きが良い。
子供の体の睡眠を大人の精神で味わえる。俺はなんて幸せなんだろう!
豪華な朝食の後、カメムシ城の偵察報告と、オババへの神託のお願いをしようと、皆に集まってもらった。
「大丈夫なのか? ノル! フラフラしているって言ってたが……危険を冒してまで協力することはないんだぞ!」
そして俺の説明が、城は乗り物だというくだりになると。
「なんだって! それは驚愕だ! あの城が動くのか? あんな大きな物が……人族の技術力は本当にすごいな」
俺の説明を聞いたクワンリの第一声はこれだった。
誰よりも他人のために自分を犠牲にするヤツに言われたくないと思いながら、説明を続ける。
「人族の技術力じゃないんだよ、クワンリ。君が僕に月夜の晩に教えてくれた魔族の伝承。君たちの祖先がルナからロンに来た時の船なんだよ」
「そんなっ!」
クワンリは、その一言を発して黙ってしまった。
そりゃそうだ。言葉を失うのも当然だ。伝説の古代の船が目の前にあるのだから。
***
オババが香を焚き始めた。
前回の神託の儀式の時は俺は気を失っていたから、今回初めて見るけど興味深い。
日本のアニメで見る陰陽師の儀式のような、魔法陣というより、曼荼羅に近いものを使っているようだ。
前回の天啓では、俺の魂はこの世界の魂ではないと言われていた。
今回のこのふわふわ感は、その魂がここから離れて、元の世界に戻ってしまう前触れではないのか。
少し不安になってしまったのだ。
もしかすると、今回の伝説の手がかりも得られるかもしれない。
オババがブツブツ、ムニャムニャと、呪文のような、魔法詠唱のような不思議な言葉を繰り出している。
クワンリもサルマも、曼荼羅の上の俺と、その前にいるオババを遠巻きに見ている。
頭の中に、また、あの言葉が……。
一緒になろう
帰ろう
元に戻ろう
俺は高速道路でバイクに乗っていた。
中央分離帯を越えて、トラックのタイヤが飛んでくる。
避けられない。
同時に、こんな映像が頭の中をよぎった。
ルナの欠片が炎に包まれて、青い惑星に落ちていった。
頭の中がぐるぐるしている。
めまいとは違う。様々な場面が一気に押し寄せてきた。一つ一つを認識できないくらいの量だ。
違う世界の、違う記憶が入り乱れて、頭の中をぐるぐるしている。
オババが俺の目の前で手を叩く。
何度も何度も手を叩いている。
焦点が合ってきた。
それと同時に、ぐるぐるもおさまってきた。
「魂が三つに分かれとる。ノル、お前の中には魂が三つあるぞ! その三つの魂を、何かがつなげている」
オババが目を丸くして、鼻を広げて、興奮した様子で俺に伝えてくる。
クワンリもサルマもオババの前に走り寄ってきて、俺の隣に座った。
二人と一匹は、オババの次の言葉を固唾をのんで待っている。
「わしもこれ以上詳しくはわからん。こんなことは初めてだから、推測もできん。わしも驚いておる」
その言葉を聞いて、二人は残念そうな、複雑な顔をしている。
だが、俺はなんかわかってしまったような気がしたんだ。
「みんな聞いてくれ。俺の推測なんだけど、というか、何か感覚でわかったんだけど……俺の中には宇宙船の魂があるんじゃないか? というか、起動の元になるエネルギー。それがオババには魂に見えるのかもしれない」
「宇宙船に行って、俺は宇宙船から呼びかけられたんだ。一緒になろう、戻ろう、帰ろうって」
「だから、クワンリ。俺が君の上に乗って、伝承どおりに宇宙船に行けば、動き出すのかもしれない。恥ずかしいだろうけど、赤龍になって俺を乗せてくれないか?」
クワンリは真剣な顔でオババに聞く。
「ノルの言っていることは、オババはどう思う? その魂というか、エネルギーを宇宙船に渡して、ノルは大丈夫なのか?」
オババは黙ってクワンリを、そして俺を、交互に見つめているだけだった。
「魂が三つあるんだろう? 一つを返してもまだ二つあるじゃないか。きっと大丈夫だよ。もしかすると、魔獣化や人型の急激な成長、老化も収まるかもしれない。そうだろう、オババ?」
「やってみなければわからん。わしはそれしか言えん」
「クワンリ、そんなに心配した顔しないでくれ。大丈夫だよ! 人化の呪文がうまく言えないのも、これのせいかもしれない」
「それに俺は、赤龍になった君の背中に乗せてもらいたい」




