ガミリア共和国 第44話 北門の英雄⑦ 不良品
まだ日が高いが、工場を早めに閉めてしまう。
今日の出荷を留めた圧がすごい。
錬金ギルドと薬師ギルドの長は、冒険者と薬師の存亡の危機だと騒ぎ。
ポーションを買い付けに来た行商人達から、嫌味を言われ。
瓶を買いに来た工房にも、色々言われるしまつ。
従業員を帰し、扉と窓を閉め切り、朝の続きが始まった。
工場主と執務達は、”湿地のスライム回復を待ち、それまでは縮小した生産。回復後は、その再生量に見合う規模にする。ただ、他地でのスライム収集が再開されれば、もっと生産はできるだろう”という意見。
過激だったのが警備班。
”警備班でパーティーを組み、森の奥にあると言う群生地から収集してくる”
もっとも、考えるのを放棄して投げやりだったのが工程責任者達。
”ここはフレッドさんの知恵をお借りしましょう”
おれに順番が回って来た。
この7日間は、カメにつきっきりで、他は工場主が仕切っていた。
そこで、現状はどうなっているのか確認する事にした。
聞けば、カメにスライムを入れ表皮を作っているのは知っているが、どうなっているのかを知っている人はいなかった。最初に、カメの構造となぜ表皮が出来るかを簡単に説明する。その後、実際にどれほど生産されているのかを聞き取る。
一つのカメを満杯するのに、スライム300匹。
フル操業すると、1日で1/3を消費してしまう。
カメは、現在6基稼働中。
満杯時のスライムは、1800匹。
毎日消費するスライムは、600匹。
表皮は、100匹消費して600匹分取れる。
生産される表皮は、3600匹分。
消費分を収集する表皮、600匹。
生産される表皮 3600+600=4200。
瓶に換算すれば毎日420本生産可となる。
収集されたスライムの実態は?
操業4日目から6基体制になり。
5日目からフル操業になっている。
7日までの間、3日間。
8日は、満杯なのでスライム収集はしていない。
翌日からのスライム不足分の収集依頼を出す。
パーティーリーダー達より、スライムはもういないと返答がきた。
9日本日、不足するスライム対策会議となった。
では、どのくらいのスライムを収集したのか。
フル操業開始(5日)、スライム1800匹。
毎日の補充600x2(6日・7日)=1200匹。
単純計算で、3000匹のスライムを収集していた。
実際は、もっと多いので、約3300匹といったところだろう。
当初、湿地はそれほど大きいものではないと思われていた。
海や奥地から吹く風の一部は、温度の低い森に流れる。
その為、広場で燃やされる枝や葉から出る煙は森に流れる。
煙い森に入る冒険者がいなかったので、湿地の実態をしらなかった。
ほぼ毎日燃やされた為、煙に影響されにくいスライムが湿地で増殖。
広場付近にいるスライムは、熱や煙の影響だろうか数は少なかった。
他のスライムは、その場で増殖を繰り返していたので密集していた。
結果、意外に大きかった湿地から、スライム3000匹程が捕れた。
中央には、2000匹程がまだ生息しているようだ。
それでも足りないと、森奥の群生地から収集する事になった。
そこから、現実的な数字を出してみる。
まず、執務役の案を修正する。
現状のまま放置した場合。
湿地中央のスライムが分裂して葦棒の内側まで増殖するのは、数か月かかるだろう。
そこで、船を出し中央のスライムを収集し、葦棒の内側に移住させる。
養分となりやすい餌を与えて養殖すれば、スライムを増産できる。
これで、数の管理を行えば、毎日100~150匹の収集が可能になる。
なるほどと納得するが、「それでは、必要な半分にもならない」。
引き継ぎ、スライムの収集方法を協議する。
警備班から、森奥の収集を検討するように勧められる。
ただ、これは現実的な解決とはならない。
300~400匹の収集できるのは、初日だけで。
日々の収集は、群生地の大きさによるが、小さければ10匹。
大きくても、森の中である事を考えれば、30匹程度。
それから、収集できるのは、毎日多くて50匹程度だろう。
数字を並べ、可能な生産を洗い出していく。
「結局、他の場所のスライムが再生するまで、縮小した生産体制にするしかないな」
工場主は、工場を縮小する考えになっている。
それでは、執務役に工場の予想収支を聞いてみる。
工場主は、そちらに無頓着なのだろうか反対しないので、ややぼかした形で報告された。
毎日の瓶生産が420本。
低級ポーションの定価は、200円から800円まである。
そこで、比較的多く売れる価格帯の500円で試算してみる。
工場に協力してくれた冒険者パーティーが、毎日消費する平均。
(8+3)✖6≑60本x300円=18、000(協力者価格)
(毎日全パーティーが狩りをしていないので、ほぼ実数)
港の網元達が常備する為、毎日補充する本数と平均単価。
20本x300円= 6、000(協力者価格)
北門付近の薬師・錬金工房が瓶を買いに来る本数。
20本x 50円= 1、000(瓶だけの卸価格)
不定期だがポーションを買いに来る行商人達の平均。
50本x350円=17、500
冒険者ギルドの買取。(もっと増やして欲しいと要望)
200本x300円=60、000(卸価格)
錬金ギルドと薬師ギルドの瓶のみ(こちらも増産希望)
70本x 50円=35、00
※上記は平均となる、過不足はギルドに卸す数で調整する。
※それぞれの工房で、細々だが瓶の製造が始まっていた。
※必要な数を作れなかった工房用の、ギルド在庫になる。
集計 137、500x30日=月収入4、125、000
ポーション製造経費
平均人件費 200、000x2人=400、000
素材平均買取 30円x340本x30日=306、000
雑費 20円x340本x30日=204、000
月計 910、000
瓶製造経費
平均人件費 60、000x5人=300、000
スライム買取・・停止中
雑費(蓋含む)10円x420本x30日=126、000
月計 426、000
執務経費
工場主人件費 200、000x2人=400、000
執務平均人件費 150、000x5人=750、000
消耗品費雑費 100、000
警備経費
警備平均人件費 120、000x6人=720、000(2人組で交代)
雑費 30、000
工場雑務人件費 30、000x5人=150、000(瓶人件費併用)
工場雑務人件費 100、000x2人=200、000(雑務専門)
雑費 50、000
厨房人件費 50,000x2回x2人=200、000
食材費 150x2回x15人x25日=135、000(食事希望者)
厨房雑費 20、000
食事代差引 150x2x15x25=▲135、000
月計 2、620、000
工場月当り経費計 3、956、000
月粗利 169、000
【理解し易い様に、現代表記で書いてあります】
工場は、月30日x12か月休まず操業。
従業員は、交代で休暇を取る。
ここでは、毎月169、000が残る計算ですが、スライムの買取をしても、実際の雑費はもっと少ないので、およそ200、000残ります。
この残余金が、工場主の借金返済や工場購入資金となっていった。
ちなみに、この時代の生活水準は低く、つつましく生活すれば、一家4~6人60、000の収入で間に合う。
一部ぼかして収支を聞き、意外に儲かっていないと皆が思っている。確かに、日々忙しく働いているから、もっと儲かっていると思っていたのだろう。
その執務役から、「このままだと操業を縮小しないといけません。どうすれば打開できるでしょうか?」と、言われる。
瓶の生産を減らせば、収入が減る。
この収支予想なら、確実に赤字に転落、工場の廃業となるだろう。
やはり、あの実験をするしか方法はなさそうだ。
帰る前に不良品を、再利用しないで取って置くように言っておいた。
通常、出荷量の3%程度の割合で不良品が出る。
これは、何処の工房でも同じなので問題はない。
では、熟練でも出る不良品は、どの段階で出るのか。
金型に入れる原液は、どれも一定ではない。
緩かったり硬かったりとさまざまに出来る。
したがって、金型での硬化時間も違う。
緩い原液に合わせれば、硬化に長い時間が必要になる。
一気に大量の瓶を作り、他の作業に移る。
安い瓶を作っている以上、必要な工程管理になる。
そこで、緩い原液の硬化を待たずに開封してしまう。
半ば固まった瓶を砕き、固めの原液に変えてしまうのだ。
それを取っておいてもらった。
「もう硬化は終わってますよ」
たしかに、瓶のなりそこないが、12本。
一抱えの広口のカメを持って来て、工場設置のカメから体液を移す。
不良品を砕きカメに投入。
「もしかして、溶けるのを持っているのですか?
確かにとけますが、3日程かかりますが」
そう、瓶のリサイクルは存在する。
ただ、ギルドのスライムプールであっても、溶解するのに3日かかる。
これが、錬金術師の共通認識になっている。
では、大量に投入したらいいのでは?
これも実験された、結果、溶解するのに30日以上かかった。
とてつもなく広い工房に、カメを並べ、少量の瓶を投入して溶解を待つ。
こんな工房は存在しない。
それでリサイクルは、不可能と言われている。
「本当にそうかな?」
これが俺の考え。
通常のスライム収集時には、核を砕きスライムを殺して袋に入れる。
これが、冒険者達の考え。
だが、実際は核をいくつに砕かれても、スライムじたいの数が増えたに過ぎない。砕かれた核は、体液への命令系統を消失する。核の一つ一つは、生きているので、核の大きさに応じて、周囲の体液を確認し自分の大きさに応じた体液を確保する。それが終わるまで、活動が止まって見えるだけなのだ。
この工場では、核を取り除かずにカメに入れている。
体液以上に、核が増えた状況になっている。
体液は、核が生成する事が分かっている。
ただし、十分な養分が必要になる。
今日までは、厨房で出る生ごみや解体業者から戻ってくる内臓の一部を入れている。簡単に溶解出来る養分として、有効利用していたのだ。
ただ、それほど有効かと言われると、工場全体で毎日スライム100匹未満だと思う。
いくつかのカメで、魔石が生成され始まったとの報告もある。
密集した核は、行き場を失い魔石化し、それにより出来るスライムは魔獣になる。それを実証した事になる。魔石は、色々と利用価値があるので、ある程度の大きさになると、取り出して利用する。
以前、体液の調整にアルコールを入れて成功した。
もしかしたら、溶解を手助け出来ないかの実験になる。
準備したカメを見せ、これからの実験をつたえて必要な数を揃えてもらう。
最初に俺が準備したカメ、これに以前と同じ酒をいれる。
酒は、酒場で出される麦酒、アルコール度数は3%。
これは以前と同じ結果、ただ体液が増えただけのようだ。
工場主に、蒸留という技法で濃度の濃い酒を造ってもらう。
作り方を理解できれば、以前実験工場であった備品で作ってしまう。
次々に、濃い濃度のアルコールを作っていく。
俺は、途中からコップ1杯分を汲んでくる。
度数は9%、次のカメに入れてみる。
中の大きな核から泡が出始める。
どうやら活性化したようだ。
見ると、生ごみを引き寄せ、周囲の体液が取り巻いている様に見える。
さらに次の蒸留酒、度数は15%。
今度は、微小な核以外でも変化が確認された。
準備されたカメは、8個。
3%・9%・15%・23%・29%・34%・45%・52%と進める。
結果、最も大きな変化は、34%で起きた。
これ以上になると、スライムの活動が停止する事が分かった。
推測だが、スライムは酔い泥酔したのだろうと思われる。
34%以外のカメの中を、工場に戻し、8個の34%カメを作る。
出来るだけ養分となる餌を減らしてもらい、破砕した不良品を投入。
中を観察する。
核は、支配領域の体液を操作し、養分を取り込む。
取り込まれた養分は、核の近くまで移動し溶解する。
溶解している様子は、次第に崩れていく形で分かる。
次第に核が大きくなり、取り込む養分も多くなり、範囲も広がっていく。
与えた養分が無くなると、瓶を取り込み溶解し始めた。
自分の支配領域の体液として、分解している。
細粉化され5㎜程の瓶が、5秒程で消えた。
驚くべき溶解現象である。
「これでリサイクルすれば、スライムを入れる必要が無くなる」
工場に歓声が湧き上がる。
新たに、瓶を破砕するラインを増設。
ただ、リサイクルだけだと核は早期に劣化する事が判明。
リサイクルには、老化を促進する機能もあるようだ。
おそらく、固化剤が悪影響を及ぼしていると考えられる。
湿地の整備とスライムの再配備を、急ぐ事になった。
早朝まだ暗い中、工場の全ての窓・搬入口・出入口に張り紙が貼られていた。この貼り紙は、暗いうちに冒険者ギルド・錬金ギルドと薬師ギルドにも送られた。
後日談。
あるパーティーからの苦情。
「狩りの途中、様子のおかしかった妹が俺の尻に火球を撃って来た。火傷の治療費を要求する」
「ポーションを使った後、しばらく歩いていたら、主に女子達が絡み始めた。これ以上狩りにならないと町に戻る。」
等々、様々な苦情が、冒険者ギルド・錬金ギルドと薬師ギルドに来るが、どうやら知らんぷりをきめ込むようだ。
☆☆☆重要なお知らせ☆☆☆
今般のスライム不足によりポーション瓶が十分生産出来ない状態が続いています。
当工場でも、当初計画していた量産化もスライム不足に陥り断念せざるを得ない状況に追い込まれました。
このままでは、いつまでもポーション瓶不足の状態が続くと新たな生産体制を調えました。
付きましては、今後の取引に「使用済みポーション瓶との交換による販売」を実施いたします。
取引を希望される方は、希望する瓶と同数の使用済みポーション瓶を持参ください。
瓶は無料にて、こちらで裁断し処分します。
なお、瓶は破損していても【80%以上は1本】。
欠損していても【40%以上は0.5本】。
として計算します。
なお、泥や草などが付着していても洗浄の必要はありません。
以上、ポーション瓶の安定供給にご協力お願い致します。
この貼り紙の後。
当日、家と言う家からポーション瓶が消えた。
翌日、町の通りとゴミ箱からポーション瓶が消えた。
更に翌日、スラム街・裏街、普通人が出入りしない場所からもポーション瓶が消えた。
森に入っても、瓶のポイ捨てが無くなった。
瓶に関しては、美化活動になったようだ。




