第三十六話
「大変だ! 大変だ!」
翌日、私は叩き起こされた。
「マコ、急げ! すぐに来い」
かなり焦った様子のケンタが私の手を引っ張り、ムリヤリ家から連れ出そうとした。
「ちょ、ちょっと待って」
私はわけもわからず、ケンタに引かれるがままについて行った。
「え? な、ええ? これは……」
ケンタに連れられて、卍川まで来た。そこにはたくさんの野次馬がいて、大変混雑していた。
野次馬の隙間を掻い潜って、川岸まで行って、私は驚いた。
――卍川の水が、全てなくなっていた。
「マコが川から出られたって聞いて、会いに行こうと思って外に出たらこの騒ぎだった。川の水が当然、なくなってしまったんだ。これって、もしかしてマコが川から出られたことと、何か関係があるのか?」
ケンタは大変困惑した様子だった。私はこの状況を見て、これは魔女の仕業だとすぐに分かった。『龍』から町を守るために、川の水を全てなくしたんだ。川の水が全てなくなれば、『龍』が来ても、町は水没しなくて済むだろう。これは魔女の魔法だ。
「私もよくわからない」
でも、私はとっさに嘘をついた。魔女の話をしても誰も信じてくれないだろうし、魔女や河童のことを他の人に知られたくなかったから。
「ごめん、私、ちょっと体調悪くなってきた。帰るね」
私はケンタに体調が悪くなったと嘘をついた。北卍に行って、河童の様子を確認したかったから。
「大丈夫か? 送っていくよ」
「ううん。大丈夫だから、ケンタいろいろありがとね」
「そうか。わかった。気を付けて」
「うん」
私は振り返り、数歩歩いてから立ち止まった。
「ケンタ、ちゃんと返事するから、もう少し待ってくれる?」
「あぁ、俺は気の長い方だから、待っているよ」
「ありがと」
私はケンタに感謝を述べて、今度は立ち止まることなく、北卍へと急いだ。




