第三十四話
「魔女、尻子玉持ってきたよ」
翌日の夕刻、私は約束通り魔女と落ち合った。
「おお、本当に尻子玉を手に入れてくるとは……。お嬢ちゃんを信じて正解だったようだね。ありがとう」
魔女は素直に感謝してきた。
「これで、私を川から出してくれるんでしょうね?」
私は尻子玉を魔女に手渡し、魔女を睨んだ。
「もう、お嬢ちゃんは川から出られるよ。ご苦労だったね」
「え? ほ、ほんと?」
私は川岸に手をつき、恐る恐る水面から足をあげた。昨日までは、ツルツル滑ってしまい、岸に上がることができなかった。しかし、今はツルツルしていない。私はいとも簡単に岸へと上がれた。
私は岸に上がりすぐにその場にへたり込んだ。
川に閉じ込められて五日。今までの疲れや不安が一気に押し寄せて来た。川から出られてうれしかったけど、それ以上に疲れた。
「じゃあね、お嬢ちゃん」
魔女はそっけない態度でそう言うと、急ぎ足でどこかへと消えた。もう私のことなど眼中にないような態度。いつもなら怒っていたところだが、本当に疲れた。怒る気力もなかった。大地の温かさ、雄大さに抱かれ、このまま寝てしまいたい。そう思った。
しかし、可憐な女子高生である私が、このまま地面で寝るわけにはいかない。どんなに疲れていても、人間としての尊厳、いや、可憐な女子高生としての尊厳を捨ててはいけない。
私は重い体を引きずって、西卍にある自宅へと向かった。
家に着くと、母が抱きしめてくれた。「つらかったわね」と言って、頭をなでてくれた。安らいだ。父は静かに頷いていた。それだけで十分だった。家族だと思った。疲れた。温かいシャワーを浴びて、ビショビショの服を着替えた。寝た。ふかふかのベッドの上で寝た。幸せだった。




