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第三十一話
「……ここは?」
目覚めると、私は平たい岩の上にいた。
「ようやく気付いたか」
目の前には河童がいた。
「どうして……。何が……」
まだ意識がハッキリしない。何があったか思い出せない。
「師匠としてなさけないぞ。俺の弟子だったら、『龍のくしゃみ』くらいで溺れるんじゃない」
河童の口から『龍のくしゃみ』という言葉を聞いた瞬間、すべてを思い出した。背筋が震えた。恐ろしくて、涙が出て来た。
「ユウイチ君は! ユウイチ君は無事なの?」
私は河童に掴みかかり、詰め寄った。
「大丈夫だ。大丈夫。ユウイチは無事だ。ちゃんと意識があったし、すぐに救急車が来てくれた。安心しろ。だから、そんなに興奮するな」
河童は興奮する私をなだめるように、やさしい声でそう言った。
「よかった」
私は心底安心した。体中の力が抜けて、その場にへたり込んだ。
「とにかく今は休め。だいぶ水を飲み込んだようだしな。顔色も悪い。まるで水ナスのようだ」
「あんたが、私を助けてくれたの?」
「あぁ、まあな」
「ありがとう」
「一応、師匠だからな」
そう言うと、河童は少し照れくさそうに鼻を掻いた。
「うん、ありがとう」
私はもう一度、心から、感謝した。




