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Re:FILE2-1 どうか。願う。

 どうか、と僕は願うだろう。誰も傷つけない世界を。


 愛歌と創が話している同じ時。教室に舞菜と飛夜理はついていた。だが、普段の風景とは裏腹な、重たい空気が流れている。


「ゆ、優……?」


「あ?なんだよ……?」


「ゆ、優じゃ……ない!?」


 確かに、優ではないようなキッと睨む表情に頭に角のようなもの、そして、冷たい青色の、髪の毛。

 麗華の叫びに、皆が1度に後ろを向いた。その姿に真の意味を、飛夜理と夢だけが理解していた。


「鬼!!」


「憂!!」


 飛夜理も夢も2人して顔を合わせた。何を叫んだ?と。そんなの今はどうでもいい!といわんばかりの表情で舞菜が説明しろと言ってきた。


「うー……ん。優自身に聞いた方がいいかもな……?」


「そうね。私たちから説明する権利なんて、ないもの。」


 夢も飛夜理も目をそらした。

 すると、優がふっと意識を手放したように膝から崩れ落ちた。そして、数秒後。むくりと立ち上がり、周りの表情に苦笑いをした。

 それは、彼らの知っている優だった。


「優。今の、なに?」


 麗華が恐る恐る聞いた。彼女らだって、真実を聞くのは本当に怖いだろう。


「い、今のって、なんです?僕は…普通ですよ?」


 苦笑いがすべてを語っていた。それを見ると、麗華らも辛かった。別に彼がどうこうではなく、ここまで、生まれた頃からずっと一緒なのに、何故こうなるかだけが不思議で仕方ない。彼だって様々なことが怖いのだ。


「優。正直に話しなさい。隠したって、仕方ないことよ。」


「そうですか……。すいません。」


 はぁ、と一つ、ため息を吐くとなにを思ったか、優はゆっくり口を開いた。


「僕は、昔は今のような口調ではなく、普通のどこにでもいるような、幼子だったんです。」


 優は悲しそうに、なにか、嫌なことを話すように、声を絞り出していた。


「ずっとずっと、昔です。飛夜理さんが来るよりもずっとずっと昔。」


 開いている窓から冷たい風が彼らの肌をくすぶった。


 ─────何年、いや、10年は前……彼らが大体5歳になる頃だった。


「お姉!!みてみて!お花!」


 幼い優は綺麗なもの、可愛いもの、様々なものに好奇心のある普通のどこにでもいるような少年だった。


「優は花が好きねぇ」


 母・羅衣は優の頭をぽんぽんとなでた。にぃっと笑う優は幸せそうだった。


「さ、母さんとお姉はちょっと行くところがあるから行くわね」


「うん!僕、ばぁと待ってる!」


「いい子で待っててね。」


 羅衣は笑う。優も自慢げに笑った。

 さて、その後、優は祖母と遊んでいた。積み木を積み上げて家を作ってはまた別の積み木を同じように積み上げる。その遊びが彼の中のマイブームだった。


「ばぁ!街だよ!街!」


「ほんとだねぇ、街だけん。」


「すごいねぇ、下界はこれよりおっきな街があるんだよ!」


 にこにこと祖母は笑いかけた。

 優たちはお家柄、男の方が大事にされていた。血筋の男が家を継ぐ、それは暗黙の了解か、ルールか、どちらかだった。だからと言って、夢が大切にされていないわけでもなかった。


「ばぁ、ボクね、おおきくなったら、下界そとに行きたいんだ。」


 祖母は一度視線を落としたら、また笑顔になって、「そうかい。行けるといいねぇ」と言った。

 まだ彼らは何も知らないからこそ、祖母は何も言えなかったのだろう。


「願うのです。どうか。時神様、彼らが傷つかない日々を……。どうか。」


「かれら?ばぁ、誰?」


「あぁ、彼らというのはね、村に居る全ての人の事さ。……せめて、社会からハブられた皆が幸せに暮らせることを祈ってるんだよ…。」


 最後の言葉は、まだ優には難しかったらしい。彼は首をかしげていたが、祖母は、はははと笑い優を撫でた。辞めよう。せめてこの子が大きくなるまでは。と祖母は心の中に決めたのだった。


 ────へなっと、優は皆に笑いかけた。


「僕は、これ以降、しばらく幼い頃の記憶がないんです。」


 麗華らは、顔を見合わせた。流石にどうすればいいかわからない。


「じゃあ、ここからは私が。」


 夢がポツリとつぶやいた。そして、夢は続ける。「聞くの?聞かないの?」と。それに答えるように、皆は無言で縦に首を振った。

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