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Re:FILE2-2 泣かせたくない人

 それは、ある秋の日の話だった。

 優と夢は秋祭りの用意に終われる大人達を他所に、遊び回っていた。幼い子供なのだから暇でならないのは当たり前だ。


「あ、優。探検しよう?」


「?…うん、いいよ!」


 夢の無邪気な提案に優は嬉しそうに目を輝かせた。空下家の本家には倉がいくつもある。その中の1つは彼らがまだまだ内容の知らないことだった。


「よし、この倉にしよう!」


「お姉……流石に辞めよう…?」


 この倉には入ってはならない、その祖母の声だけが優の中で回っていた。


「優の意気地無しー!!行くぞー!」


 姉とは強いものだ。なんて話は置いといて。2人は倉に入って行った。


 倉の中は文字通り真っ暗闇だった。足元がごちゃついている。それとともに不安も増していく。


「お、お姉ぇぇ」


「優!意気地無し!しゃんとしなよ~!」


 今にも泣きそうな優に夢は半分面白がっていたりした。暗闇の中、ふたりが進むと光が見え隠れした。明るい光は、明らかに地面に転がっている。

 なんだろう、と手を伸ばした夢に気が付いたのか、優が振り返り、何を察したのかダメだよ!と声を上げた。


 ──────その時。光は煙らしきものを上げて優の方へと吸い込まれる。そのまま、優は倒れてしまった。


「優!!」


 慌てた夢は、今こそ無理だが、当時は小柄だった優を担いで母のいる方へと急いだ。


「夢!?どうしたの!」


「お母さん!!優が、優がね……!」


 ひっ、ひっと、息を切らし、泣いている夢に母は少し驚いた。余程、何かしでかしたのか。母は恐る恐る聞いてみた。


「まさか……倉に…? 」


 こくり、と夢は頭を上下させた。

 何も返せない。そこで騒ぎに気づいた祖母がやってきて、事情を聞いた。説明が終えると、祖母は笑って、


「いつか、こうなるんじゃ。予定より早かっただけじゃよ」


 と言った。

 夢の頭も撫でながら、大丈夫大丈夫、と言いきかせた。

 翌日、まだ眠っている状態の優の背中に羅衣と祖母は、鬼の刺青をした。


「大丈夫じゃ、羅衣。優が二人いると考えればの。」


「お母さん……。」


「お前の祖父も、そうだったように。」


 祖母はふぅっと息をはいた。


「ん…… 」


 優がむくりと立ち上がった。無言でキョロキョロ周りを見渡すと、口を開いた。


「ここは?」


 二人とも何も答えられない。……理由は優を見たからだ。

 彼の髪色は薄い青。淡く青黒い髪色をしている優だから一目瞭然だった。そして、そんな髪色によく映える黒い角。【人】にはあんなものはない。だからこそ。


「……空下の、本家よ?」


「……あぁ、懐かしい風景だと思ったら。本家か。」


「……」


「今、ったのは、あんたの息子……つまり、空下本家の人間で間違いねぇな?」


 羅衣は、少し睨み、息を吐いて、優の口調の違いに違和感を感じながら問い返す。


「違うと言ったら?」


「嘘は付けねぇよ。」


 くっと唇を噛んだ。……羅衣の父は、この【人格おに】のせいで死んだと言われていた。そのせいか、彼女もあまり人格これを好きにはなれない。


「………お前、あのじいさんの娘か。なら、そんな顔をされてもしゃーねーな。俺が憎まれたって。ま、構わないさ。恨みたきゃ恨めばいいさ。それでお前の気が収まるならな。」


「いいえ。そんなことしないわ。おわったものは仕方ないわ。今は私の息子だもの。運命だもの……。」


 そうか、と彼は笑う。そして、「ばあさん、こいつの名は?」と聞いた。祖母は、慌てず、紙に「優」と書いて答えた。


「そうか、まだ仕来りを守ってるだけ、えれぇな。じゃ、俺の名は………こうだ」


 祖母の書いた字からすっと人篇が消え、「憂」になった。


「いう……いうだ。覚えておけ。」


 そう言い捨て、また彼……優は意識を失った。


 しばらくすると、彼は目を覚まして、むくりと起き上がり、羅衣の顔を見て大きな瞳に涙を溜めた。


「うぇぇぇん、母さんごめんなさいぃぃうぇぇぇん」


「優、優なのね?大丈夫、大丈夫だよ。お母さん怒ってないから。」


 泣きじゃくる優に羅衣は優しくそう告げた。すると、優はまた羅衣の顔を見て涙を堪えていた。

 そして、祖母は背中を見せるように優に話した。


「……消えてる」


「え?」


 鬼の刺青が跡形もなく消えていたのだ。優は首をかしげたが、羅衣は笑って誤魔化そうとした、その時。


「母さん、僕ね、夢の中で隠し事話だぜって、僕に言われたんだぁ。不思議…」


 羅衣は目を見開いた。

 そして、祖母は、なにか話し始めた。


「今の優にわかるように説明するよ……。お前の中にはな、もう一人、お友達がいるんじゃ…。それは、悪いヤツじゃあない。たまにお前がそのお友達に体を貸してやるんじゃ。姉さんもばぁらもわからんから、これから少しずつ変えていこうな。」


「?…お友達?名前、は?」


「え?あ……ぁ、いうじゃよ。」


「憂……くん?わかった!僕、仲良くするよ!」


 まだいまひとつわかっていないだろう。でも、少しずつ理解していけばいいだろう。そう祖母は確信していた。わかっていた。


 ──────夢は、にこっと、笑った。


「そんな訳なんよな。優と憂。理解してあげてほしい。このとおり!!」


 夢は深々と頭を下げた。優は隣でおろおろとしている。そして、暫らくすると何かモヤモヤしたように口を開いた。


「黙っていて、本当にすいませんでした。」


 優も同じように頭を下げる。だが、麗華たちが2人に顔を上げるように告げると夢は頭を上げたが、優は頭を上げようとはしなかった。

 そして、皆は先程から黙っている舞菜に目を向けた。きっと一番優のことを気にかけているはずの、彼女が。怒っていた。


「本当にすいま……」


「違うよ。舞菜が怒ってる理由は。違う。」


「え……?」


「なんで、………っ。」


 舞菜は黙り込んだまま、外に走り出した。舞菜にしては珍しい行動なので、皆唖然としていた。


「ま、舞菜……?」


「……ねぇ、なにがあ……」


 入ってきた愛歌が一通り状況を見て、あぁ、そう。といいたげにため息をついた。そして、舞菜を追おうとする飛夜理の腕を横目で引き止めた。


「……ここは、古巫女まいなゆうの問題よ。私たちに止める権利も何も無いわ。」


 そうか、と飛夜理がぼやくと、隣を全力の優が駆け抜けていった。……あぁ、あいつもあんな顔するんじゃねぇか。飛夜理はくすりと笑をこぼした。


 数分後。屋上で舞菜は涙目でむすっとしていた。そこに息を切らした優。……追い付いたのだ。


「ま、舞菜さん。怒らせたならもうし……」


「違う。違うよ。」


 優はやはりまた首をかしげた。


「舞菜はね、優がなんでそれを話せなかったんだろうって、言いたかったの。……舞菜、優のこと、考えてなくて……ぐずっ……」


 優は一瞬目を見開いたが、また笑って舞菜の頭を撫でた。そして、こう続けた。


「僕は、ずっとずっと、この嘘が人を幸せにすると思っていました。」


 優は笑う。今までにないくらい、優しさと悲しさを交えた表情で。


「でも、違いました。今一番、泣かせたくない人を泣かせてしまいました。……舞菜さん。笑って下さい。ちゃんと舞菜さんは僕のこと、見ててくれました。鬼が居ようといまいと、僕は僕です。だから、どうか笑って下さい。」


「……馬ぁ鹿…ぐずっ」


 優の言葉に舞菜は泣きながら笑って見せた。それに釣られて優も微笑んだ。

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