FILE31 頼まれ事と熊
ある日。村は今年一番の寒さになっていた。からか、灯油の売れ行きは上々だった(優調べ)。
そんな外に出るなんて自殺行為に近い天候の中、飛夜理は外にいた。
「うわぁぁぁぁ!?」
彼が叫んでいたのは山の中での話だ。
道に迷って森に入り込み、熊に遭遇してしまう、というなんだかよくわからない展開で今に至る。
「どうしたんですか!?飛夜理さん!」
「うわぁぁぁぁ!!って、優か」
きょとんとする優に飛夜理は事情をよく説明した。実は今熊がいる、と。すると優は喧嘩腰気味に「なんですか、熊さん」と言った。呼び方に突っ込みたいが飛夜理はぐっと堪えた。
一人と一匹は真剣な目をして、にらみ合う。お前ら何をやっている、と言いたくなる光景である。
「仕方ありません。…………飛夜理さん、記念撮影です」
「!?」
何故か、優と熊は肩を組んでいた。何がしたい。変人ども。と言いかけたくちをぐっと抑え、カメラを構えた。
パシャ…………と今のカメラにはないような、昔ながらのシャッター音で数秒静止し、また一人と一匹は先程の構えになった。
「僕、舞菜さんに頼まれてアメを買いに行っている途中なのですが…………。」
いや、だったらそんなことしてないでさっさと行けよと思う自分も用事があってここを通っている訳で、自分とどっこいどっこいではないか、と思いもした。
だが、次の瞬間、突如として熊が後ろ手に倒れ、優のジャケットが軽く風に煽られる。
「はぁあ。優の野郎とっとと倒せばいいもんを………。こんな熊。大体、アイツの力なら一発だろうが………。」
「!!?!」
素直に飛夜理は混乱した。
いつも敬語で、ましてや、自分の話をしている。紺色に近い色の髪は完璧な深い青をしていた。飛夜理は数秒悩んだが確信した。……………これは、優ではない、と。
優の顔をした『誰か』はこちらに気づいたのか振り返る。
「………お前、見ない顔だな。」
「え………っ!?」
「名前は」
「ひ、飛夜理…………。」
恐る恐る名を言うと、優にはない、無邪気な顔をした。
「そうか!お前が飛夜理か!俺は……………」
彼も自分について、なにか言い出そうとした時、地面に座り込んだ。
余りにも展開が早いのにも混乱しながら、彼の肩を軽くさすった。
「お、おい………。」
「………んー………。飛夜理さん………?僕、こんなとこで眠って締まっていたのですか?そうなら、不思議な夢を見ました。」
優はねぼけているのか、何かは良く分からないが、どうやら先程の出来事は覚えていないらしい。
よく見ると優の髪色は何時もの色に戻っていた。なんだったんだ………飛夜理は思って口には出さなかった。
「あれは夢じゃない。あの熊は夢じゃない。」
「本当ですね。」
優はいつもの笑顔になっていた。あちらの方こそ自分の幻想ではないか、と飛夜理は思い始めた。
「さ、僕たち、用事があってここを通っているんですよね。見るからに飛夜理さんは灯油を買いに行くのですね。」
「あ………あぁ。行く。優も目的地は同じだろう。なら………途中まで道は同じだな」
「なら良かったです。僕、飛夜理さんにお話しなきゃいけないことがあったんです。」
ん?と飛夜理は首をかしげた。珍しく優が真剣な顔をしていたからだ。
「僕が、二人いると言ったら笑いますか?」
「えっ………な、なにを言い出すんだよ……」
まさか、さっきの話だろうか?と飛夜理は唾を飲んだ。
「時神様に、『飛夜理に話して見なさい』って言われたんです。飛夜理さん、どう思いますか?」
そりゃ、人の真実なら受け入れなければならない。だが、それについてどう思うかと聞かれても良く分からないのが正直な話だ。
思い切って先程起きた話を優にした。
「そうですか………もうお会いになったんですね。」
優の目が少し沈んだ。まずかったか、と飛夜理は内心思ったが、また優は微笑んだ。




