FILE23 秋祭りの終わり
「なぁ、今日の愛歌、おかしいぞ?」
「うわぁ!!!!!」
特になにも今はなかったのだが、愛歌は何故か顔を持っていた鞄ですっかり隠してしまった。
「まぁ。いいけどさ………。」
そう言った飛夜理の声がいつもの優しい声でなかったのは確かだった。
その声が聞こえたとき、愛歌は顔をあげた。
「ごめん…。その………舞菜が、茶化すから……。」
またか、と言いたげな表情を彼は見せた。けど、また微笑み、「まだ不満でもある?」と聞いてきた。
不満はないけど………、と愛歌は内心ぼやいた。話しをするなら今しかない。彼女はそう確信した。
「…………やっぱ、不満。」
「何が?」
咄嗟に口から出た言葉は思わぬことをつぶやいた。
「不満だよ。………飛夜理が、鈍いの」
彼は不思議そうに首をかしげた。
その頃の舞菜たちは、屋台の食品を探し巡っていた。そこで、瑠亜は周りをキョロキョロと見回した。
「あれ、そういや、愛歌と飛夜理は?」
「へ?知らないよ?」
瑠衣のセリフに、舞菜は口元をニヤリと歪めた。どうしたの、と悠志が聞くと、別に、と語尾に星マークがつくような声で言った。
愛歌たちはというと、未だにテントから動けずにいた。
「飛夜理は人を寄せ付ける魔術か何かが使えるのか………。年々増えている。」
不貞腐れた声で愛歌が呟くと、飛夜理は「そんな理不尽な」と言った。
しばらくすると、ザーっとわりと強い雨が降ってきた。珍しい雨に飛夜理らも驚いていた。
「あ、あのさ、明日………。話がある。」
雨音だけの中で先に言葉を発したのは愛歌だった。
「うん。…………なら、俺も、話がある。」
「ならってなによ。ならって。」
「内緒。そうか、今話してくれる?」
「ぜ、絶対嫌よ。」
そうか、と飛夜理は意地悪そうに微笑んだ。
翌日。舞菜と愛歌は昨日の場所で笹舟をかき集めていた。
「ふぅ。これだけあれば大丈夫か。」
舞菜がそう言うと、愛歌が反応を見せなかったので、舞菜は茶化すようにこう言った。
「で〜?進展は〜?」
「…………ないよ。」
「つまんないの。」
舞菜のセリフに愛歌は「うるさいなぁ」と不機嫌にぼやいた。そして、舞菜には聞こえないような声で「まあ、今日で決着つけるけど………」とつぶやいた。
時間は刻々と過ぎていった。そんな夕方。暗くなりかけた村の川は、青黒い、暗い色をしていた。
「で?なに、話って。」
笹舟の灯篭が流れ始めた川沿いで飛夜理は愛歌に聞いた。愛歌は深く息を吸うと、話始めた。
「あの、貴方にとって『恋』と『愛』が同等でもそうでもなくても、いいんだけど、私が思うにね、『恋』は時間が止まった状態で『愛』は時間が進む状態かもしれない。………だから、要は……えっと………」
言葉にならないせいか、悩みに悩んでいたのか、愛歌は言葉が出なかった。だが、飛夜理は察したのか「はい、愛歌の割にはよくできました。」と言った。ニコニコ笑って「同様って言ったら怒る?」とまた言葉を続けた。すると、愛歌は、顔を林檎くらい赤くして
「………馬鹿。飛夜理の馬鹿。」
「えー。酷いなぁ。」
それから愛歌は黙り込んだ。そして、彼の手を握り「有り難う」と呟いた。
草影から見守っていたふぶきは、こう呟く。
「精一杯の何度も回った秋。貴方はよくやりましたね。頑張りました。これから進む、歩む道は貴方が思う程楽ではありませんが、彼が一緒ならきっと大丈夫です。」
我が子を見るような目でふぶきは微笑んだ。その目は今までになく、優しい目をしていた。
「あれで言いたいことが伝わる二人は本当に凄いわね♡」
「希…………。そうですね。彼らは凄いのですね。」
それ以上何も返さずにこっと希は微笑み返した。
「…………ふぶき、希。何してんの」
声が聞こえたほうを見ると愛歌が怖い顔をしてこちらを睨んでいた。そのうしろで飛夜理がやめろやめろと慌てて仲裁に入っていた。
秋祭りも終盤に差し掛かり、川には綺麗な灯篭でいっぱいだった。川は青黒く、その上を赤く光る灯篭が流れていく。それはまるで、彼らの幸せをこれから先も続くようにと道を照らしているようだった。
「これからも、こうだといいね。」
舞菜が笑いながら言う。それを聞いた瑠衣は「こうだと、じゃなくてこうなるんじゃないかな」と呟いた。
皆は流れる灯篭を眺めて、互の顔を見て何故か微笑んだ。変わらない日常があればいい。見つかればいい。そう願いながら。




