FILE20 潤んだ目
希は飛夜理をちょこまか交わしては挑発し、また走り抜けては挑発し、を繰り返していたが、ふとしたとき。
「そういや、はい。希姐さん追っかけてる場合じゃなかった。」
そういうと、飛夜理は立ち止まった。それを見て、瑠衣が「見事。流石だね〜」と言い、にこにこ笑って、飛夜理に景品を渡した。
「ぬいぐるみ?」
真吾がきょとんとした顔をしていたが、飛夜理はそのあまり愛らしいとは言えないうさぎのぬいぐるみを抱えていた。
「はい。ぬいぐるみ……ですが。」
何か悪いですか、と言いそうな飛夜理の顔を見て、
「ベタね。」
「ベタですね。」
「ベタだよ~」
なんて、夢たちが呟いた。それについつい「うるさい!」と飛夜理は言い返した。
「ねぇ〜。こんな展開、創造者は許したのー?」
「それをいうな。」
舞菜のセリフに瑠亜が畳み掛けた。
そんな会話の中を飛夜理はとにかくとにかく、と愛歌にうさぎを渡した。
「……私?希月にあげないの?」
「あいつな……。『お兄は何もわかってない』って怒るんだよぉ。」
「つまりは……あれ?不用品処理?」
いや違うけど......と飛夜理はどこか言いにくそうに言葉を続けていた。
「えーっと、なんか、愛歌の鞄に着いてたウサギだったから……上げるよって話し………」
飛夜理はうぅと言いながら細い銃で顔を隠した。
まぁ、そんなやりとりは後にして、次は悠志が撃つことになった。………が、瑠衣が変な顔をして、悠志を見ていた。
「悠志…………なんか、銃、でかくねえか?」
「うるさい……………!」
確かに、悠志の身長や体格の割にその抱える銃は少し大きかった。
それを見て爆笑する舞菜に悠志は「うるさいなぁ」と不機嫌そうにぼやいた。
「ちょいと悠志…………ちっさくなったか?」
「先生まで…………………!」
悠志の目にはだんだんと涙が溜まってきた。
「あはは、わりぃわりぃ」
真吾が笑って返すも、うるうると潤んだ涙目はまだ乾かなかった。
それはそれは約10年前。皆が当時4歳の頃。悠志の家では一つ騒動があったらしい。
それは涼しくなってきた、秋のある日。
「おねーちゃん、おねーちゃん。」
「なぁに、悠志~」
志呑はいつものように悠志にニコニコと対応していると、悠志は唐突に目の前に小さい子猫を抱き上げ見せた。
「ゆ………悠志。この子猫ちゃん、どこで?」
「家のそばでにゃーにゃー鳴いてた。可哀想で。」
悠志はその猫を見つめて少し悲しそうな顔をした。
「悠志………!いい子だね!!お姉ちゃん感心するよ………!」
悠志を志呑はわしゃわしゃと頭を撫でた。
「…………って、な感じで……うちの、にゃんの助が、家に居る。」
そんなことがあったなぁ、と懐かしげに言いながら昔話を終えた。
「志呑さんは、昔っから、悠志を溺愛してたのね。」
愛歌 が言うと、悠志が「本当、変わった姉だ………。」と言った。
「飛夜理にも、そんな兄妹いたよね。」
悠志が飛夜理の方を向いてぼやいた。
そうだよ、と飛夜理は首を上下に振った。
「口煩い妹がね。」
と、言いながら。
「別に。口煩い奴らに、囲まれて生活するのは、慣れたもんだね。」
悠志は少し微笑んでぼやいた。
「あ、悠志………笑った。」
「な………!?笑ってない………!」
「嘘は辞めなさいな~。また希さん来るわよ。」
「嘘じゃないし……………!!」
うわぁぁぁぁ、と悠志が声をあげ、バカバカと言いながら飛夜理をポカスカ殴る。
「傍から見たら、ただの兄弟喧嘩よ。」
愛歌のツッコミに関わらず、悠志はまだポカスカ殴り続けた。
「うわぁ、昔の悠志が………!戻って来るなんて!!」
「志呑………。なにしてんのよ。」
あひゃひゃと下品な笑いをしながら志呑はパシャパシャと写真を撮っていた。
しかたないなぁ、志呑は。と少し笑う悠志の影が、また幼い悠志と重なった気がした。




