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亡国色の王女は打算で敵国に嫁ぐ  作者: 灰銀猫


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16/19

歓迎の舞踏会

 それから五日後、王太子殿下の訪問を歓迎する舞踏会が開かれた。実質的には同盟締結と私との婚約を披露するもので、他国の大使なども参加する大規模なものとなった。


 私はこの日のために仕立てておいた王太子殿下の瞳でもある紺碧色に近い色のドレスを纏い、婚約者として出席した。このような華やかな場は苦手だし、友人もいない私はいつも壁際で顔なじみの教師と話をする程度だったけれど、今日は主役なだけに隠れているわけにもいかない。緊張するわ、無事に最後まで相応しく振舞えるかしら……


 控室で緊張を隠しながら迎えを待つ。何をするにしても待つ時間は長いものね。大勢の人の前に出ることに不安が増していく。不義の子との噂は払拭されたけれど、一度そのような噂が立った私への世間の目は冷たいまま。お祖父様が周囲の反対を押し切ってお祖母様を妃に迎えたことも影響しているのか、お祖母様の色を持つ私への風当たりは強い。王家の色を持たないのもあって、貴族の中でも金髪碧眼を持つ者から下に見られることもあるし……


 そんな私の扱いを王太子殿下はご存じだった。心配された殿下は、帰国する際に共に来ないかと誘ってくださったけれど、さすがにそれは辞退したわ。外聞が悪いから。これは同盟のための婚姻だから、周辺国を牽制する意味も込めて形式に則った形で嫁ぐ必要がある。その代わりと言っては何だけど……


「アリッサ様、果実水はいかがですか?」

「ありがとう、エリー」


 いつもと同じやり取りのように見えるけれど、この場にはいつもなら存在しない人物が二人、追加されていた。二人は騎士、しかも女性騎士だった。王太子殿下の側近で護衛も務める二人を、私の専属として出国するまで付けたという。


 これはファーレンの慣習で、花嫁の純潔を守るためのものだとか。殿下の義母に当たる第三妃はベルツ王国の王女だったけれど、その方の時も同じようにされたのだとか。父もそう言われては認めないわけにもいかず、必ずどちらか一人が私の側に控えている。今日は舞踏会だから二人とも騎士の正装姿。女性だけど華やかな騎士服がよく似合っていてとても凛々しいわ。


 茶の髪と灰色がかった青い瞳を持つのはフリーダ=ミューエで、私の五つ上。物静かな知的な美人で騎士服よりもドレスの方が似合いそう。もう一人のミア=フローエは鮮やかな赤い髪と緑の瞳を持ち、フリーダよりも背が高くスラっとしている。そのせいかパッと見た感じは美少年のよう。私も紹介されるまでは男性だと思っていたわ。


 そんな二人はファーレンの侯爵家のご令嬢だという。我が国では女性騎士は下級貴族の出が多いけれど、彼の国では王女殿下が自ら剣を振るったこともあるとかで珍しくないという。羨ましいわ、ファーレンに生まれていたら私も騎士になれたのね。


 そんなことを考えていたら扉が叩かれて王太子殿下の来訪が告げられた。緊張が増す。


 騎士が開いた扉から現れたのは、正装の王太子殿下だった。謁見室で初めてお会いした時は濃紺の正装だったけれど、今は青みがかった銀にところどころ青が入ったものだった。威圧感が和らいでいるし、黒髪が一層映えて凛々しさが増しているように見える。


「ああ、アリッサ殿、美しいな」

「ありがとうございます」


 照れもなくさらっと褒められた。素直というか、感じたことをそのまま口にされるところがおありなのよね。それが素なのか思うところがあってのことなのかはわからないけれど。あれから毎日歓談する時間を取っているけれど、この方のことはまだよくわからないわね。


「ああ、アリッサ殿にあれを」


 振り返って声をかけると、後ろに控えていた濃い青色の髪を持つ侍従が箱の載ったトレイを手に前に出た。彼は殿下の側近で幼馴染のラーシュ=フォルツ殿。ファーレンの宰相でもあるフォルツ公爵の令息で、殿下が帰国した後もこの国に留まり、私の教師と護衛を務めることになっている。殿下が箱に手を掛けた。取り出されたのは……


「これをアリッサ殿に。婚約祝いだ」

「……これを、私に?」


 殿下が手にしているのは、紺碧色の宝石で出来た首飾りだった。銀の装飾が細かくてその中央には親指の爪よりも大きな石が煌めいている。


「これはファーレン王家に代々伝わるものの一つで、王太子妃に贈られるものだ」

「そんな品を、私が?」


 代々伝わっている品なら王家の財産の一つよね。それを国外に持ち出して大丈夫なの?


「心配するな。王妃になったら返してもらう。次の王太子妃に渡すために」

「……左様ですか」


 大丈夫なのね。だけどこれはなくさないように気を付けなければ。ファーレンに着くまで気が抜けないわ。


「着けてもいいか」

「え? ええ……」


 返事をする前に殿下が私の後ろに回り込んだ。首飾りが降りてきて、首にひやりとした感触があった。いつもは後ろの髪は下ろしたままだけど、今日は緩く結い上げているから邪魔にはならないわよね。


(……っ)


 触れた指が熱くて、くすぐったい。声が出そうになるのを抑えるために息を殺すと、ふわりと殿下の使っている香油の香りが立つ。距離の近さに鼓動が跳ねる。


「ああ、よく似合っているな。あなたの髪色にもよく合うな」

「ありがとうございます」


 嫌だわ、動揺している。だけど、贈り物を受け取ることに慣れないのよ。褒められることも。そうしている間にも耳飾りまで出てきて着けられてしまった。その重さに緊張が増す。これは失くせないわ。護衛には私よりも耳飾りの行方を気にしてほしいかもしれない。


 殿下はそのまま私の手を取ると、ソファへと導いた。向かい側に座るかと思ったのだけれど、手はそのままに隣に腰を下ろした。何かしら?


「あなたに言っておくことがある」


 改まった口調に背筋が伸びた。何かあった?


「今日の舞踏会は同盟の締結と俺たちの婚約を公表するものだ」

「ええ」

「ヴァイラント王も厳重に警備をされているだろう。だが、俺やファーレンを未だに敵視している者たちも少なくない」


 確かにその通りだから頷く。我が国も一枚岩というわけではないわ。未だにファーレンとの同盟に反対する勢力があるもの。


「あなたを害し、婚姻を阻止しようとする者が現れる可能性もある。十分に気を付けてほしい」


 取られた手に力が増して鼓動がまた跳ねた。もしかして……本気で心配してくださっている? まだ会って日が浅いのに……


「ラーシュ、フリーダ、ミア」

「はっ」


 顔を上げた殿下が力強い声が名を呼ぶと、呼ばれた方はその場で背を正した。隙がなく揃った動きに彼らの力量とファーレンの騎士のレベルの高さを感じた。


「今日はアリッサ殿の傍を離れるな。化粧室に行くにしても必ず一人はついていくように」

「かしこまりました」


 ラーシュ殿が答え、他の二人も共に頭を下げた。身分的にエリーは会場に入れないからいつも一人だった。でも、今日は二人が一緒にいてくれるのね。それだけで心が温まっていく。


「アリッサ殿もだ。少しくらいなどと思わず、必ず誰かを傍に置いてほしい」


 真っ直ぐに向けられた視線と表情に背中がムズムズしてきた。心配されることに慣れなくて、喜びよりも居心地の悪さが勝ってしまう。嫌だわ、期待すべきではないことを期待してしまいそう……


「それに……言い難いことだが、妹御のこともある」

「エルリカですか……」



 ため息が出そうになったけれど、想定する問題の中で一番危険度が低くて可能性が高いのがあの子なのよね。この日が近付くにつれてその不安は増すばかりだった。


「これまでも押しかけてきて居座ろうと駄々を捏ねていたからな。陛下に抗議はしたが、どこまで効果があるか……」


 身体から力が抜けそうになった。恥ずかしい話だけど、父に抗議してもあの子は変わらずにやって来た。多分両親も兄も殿下が大袈裟だと思って十分に諫めていないのでしょうね。そして困ったことにこの調子では今日も押しかけてくる可能性が高い。頭が痛いし、肩身も狭いわ……


「あなたの妹だからこんなことは言いたくないが気を付けてほしい」

「わかりました」


 申し訳ないけれど、謝らなくていいと言われてしまったから言葉に出来ない。だけど、申し訳ないわ。殿下は紳士的にやんわり断っているけれど、そのせいか一層勘違いしている気がしないでもない。あの子の我儘に振り回されるのはもううんざりだから、早くファーレンに行ってしまいたいわ。


「殿下、そろそろ……」


 横から遠慮がちに声をかけられた。


「わかった」


 外された視線にほっとした。距離の近さに慣れるにはまだまだ時間がかかりそう。離れた手に残る温もりが存在を主張する……。


「さぁ、そろそろ向かおうか」

「はい」


 差し出された手に手を重ねた。さっきの温もりが消えた手に熱が蘇る。ここから各国の大使や両国の貴族の思惑がひしめく舞踏会という名の戦場。それにエルリカの動向も気になるわ。ここ数日は周囲も殿下に近づけないようにしていたから、この機会を逃すとも思えないし……会が終わるまで少しも気は抜けないわ。





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