妹の評価
「あの妹御を妻に、か……」
顎に手を当てると再び笑みを浮かべられた。その笑みの意味はなにかしら? なんだかおもしろがっていらっしゃる? 私とあの子の扱いの差はご存じのはず。だったらより援助や譲歩が得やすいあの子を手中に収めた方がたくさんの利を得られるでしょうに。
「確かに、あの妹御を妻にした方がヴァイラントから得られる利は大きいだろうな」
やはりわかっていらっしゃったのね。だったら何故……
「だが、同時に損も大きい」
「……損?」
どういう意味かしら? あの子がファーレンに嫁げば、家族は、父や兄はファーレンの要求を飲まざるを得ないわ。そうしなければあの子の立場が悪くなってしまうから。いくら国内で大切にしても他国にまで手は届かない。あの子を得ればこの先二、三十年はヴァイラントを抑え込むことが出来る。ファーレンはそれを狙って同盟と縁談を申し出てきたのではないの?
「あの我儘なお姫様に王妃など任せられると思うか?」
「あの子はまだ十五ですわ。王太子殿下が導いてくだされば問題ありませんでしょう」
いくらあの子が泣き騒ごうとも、異国では自分のことは自分で守らないと生き残れない。殿下が上手く言い聞かせてくだされば済むし、周りにしっかりした者を置けばあの子だって従わざるを得ない。あの子は一人では何も出来ないのだから。
「子どもの相手をしていられるほど俺は暇ではないし、我が国は盤石でも安全でもない。それに国内ではまだまだヴァイラントへの風当たりは強い。あのお姫様ではあっという間に謀殺されるだろう」
驚いたわ。そこまで明け透けに言ってしまうなんてどういうおつもりなの? しかもこれから嫁ごうという本人の前で。ああ、危険だから武の心得がある私を選んだということかしら? でも、今の話を聞いて私が辞退したらどうするおつもりなの?
「私なら多少危険な目に遭っても平気だと?」
「気を悪くしたのなら申し訳ないが、俺は男だろうが女だろうが無能は嫌いだ。泣けば思い通りになると信じて疑わない輩は尚更だ。そんな者を相手にするなど時間の無駄だろう?」
俺って……砕けた口調になったけれど、これがこの人の本来の姿? それに時間の無駄って……
「あの子も一国の王女です。相応の教育は受けておりますわ」
「まぁな。だがあの様子では、せいぜい若い令息を侍らせてお姫様ごっこくらいしか出来ないだろう? この国では誰も咎めなかっただろうが、我が国でそれをやれば不貞を疑われて廃妃された上、生涯幽閉だ。そんな不穏分子を王家に迎えるつもりはない。アリッサ殿だってそう思うだろう?」
それを私に問うの? その通りだとは思うけれど妹には変わりないのよ。さすがにそんな風に言われて同意なんか出来ないわ。
「あの子はまだ若いのです。正しき導き手を得られれば問題ありませんわ」
「その責を我が国が負えと?」
そう言われると何も言い返せないわ。嫁がせるのならそれまでに一人前に育て上げるのが親の、国の務めだもの。
「……私を迎えても大した利は得られませんが」
一体何が仰りたいのかしら? 両親も兄も私のために譲歩なんかしないわよ。それはご存じでしょうに。後でそれを責められても困るのだけど。
「ああ、ファーレンからの利という点ではあの妹御には劣るだろうな。だが、アリッサ殿は困ったからといって泣いて駄々を捏ねるなどしないだろう?」
「当たり前です」
失礼ね、そんなことするわけないでしょう。
「王女としての矜持と自制心、それだけでも十分だと思うが?」
「それは当然のことですわ」
「そうは言うが現実はそうではない。他国の王女を調べたが、あの妹御の方がましだと思える者も少なくない。表面上は取り繕っているがな」
それは……どの国も欠点は隠そうとするからそうなるでしょうね。
「私も、そうかもしれませんよ」
「貴殿の価値はそれだけではない。我が国の神の色であり、あの名高い『ヘデラ―の戦姫』と同じ色をお持ちだ。妹御の何倍も利があると俺は思っている」
買い被り過ぎではない? あとでこんなはずじゃなかったと言われても困るのだけど。それに子どもって……殿下にはそのように見えるのね。いえ、気持ちはわかるわ、あの状態で他国に嫁いだら余計な軋轢を生みそうだもの。私が王だったら、外に出さないわ。
「お判りいただけたかな?」
「……本人の前で家族に向ける言葉ではありませんわ」
「彼らを家族だと、本気でお思いか?」
一気に距離を詰めてきた。私にしか聞こえない囁きに、風が、時間が止まったような気がした。取り繕うことも忘れて問いの主を見上げる。
「それ、は……」
その先の言葉が見つからない。ほぼ初対面の人にそれを見透かされるなんて……
「アリッサ殿の価値がわからない者へに配慮してやる必要などないと思うが」
「き、聞き捨てなりませんわ。我が国を愚弄するおつもりですか?」
私の立ち位置をわかってくださったという喜びよりも、胸の内を見透かされた恐怖が勝ってついきつい口調になってしまった。だけど、後で痛い目を見るくらいなら期待などしたくない。政略なら心は不要だわ。お互いに利用し合う関係の方がずっと心穏やかでいられる。
「気を悪くされたなら謝ろう。ただ、貴殿を蔑ろにするあの者たちを腹立たしいと思ったのは本当だ。あのような稚拙な嘘を付かれたこともな」
「それは……」
「十六の俺を男児だなどと言われては、さすがにな。それを説明すればそうだったかもしれないと言い出す始末。大方俺が噂通りではなかったと思い、気が変わったのだろう?」
否定出来なかった。実際、あの子は王太子殿下の外見と紳士的な態度、あの贈り物の数々に惹かれ、その上で数々の縁談の相手の中で一番身分が高いことに気付いたのでしょうね。あの子はああ見えて計算高い。自分が望めば周りは願いを叶えてくれるから、甘い声で訴えれば自分を選んでくれると思ったのでしょうし。
「自分一人で立つことも出来ぬ妃など足枷にしかならん。どうせ迎えるのなら共に隣に立ち、背を預けられる者がいい」
活動報告にも記載しましたが、予約投稿を間違って先の話を上げてしまいました。
今は該当部分は削除済みです。
お騒がせしましたm(_ _;)m




