■Ep.97 第57.5話:幕間【祭りの終わり】~借金と新たな火種~
【第57.5話(Ep.97):まえがき】
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回(Ep.96)は、コタロウがついに「ただのモブ」という仮面を(半分くらい)自ら脱ぎ捨て、全方位同時狙撃という神業で学園祭の危機を救いました。アヤネの光、ネロの影、そしてコタロウの技術が重なった「プリズム・オペレーション」は、まさにフィナーレに相応しい輝きでしたね。
しかし、英雄の夜明けは決して爽やかなものではありません。
今回の第57.5話は、お祭り騒ぎの後の**「世俗的な現実」**がコタロウを襲います。
聖女アリス様による厳しい(?)事情聴取、そして精霊学部を襲う**「金貨1600枚」という天文学的な修理費の請求書**。さらに、影の女王ネロへの「ご褒美」タイムまで……。
一息つく暇もなく、物語は次なる動乱――浮遊島アトランティアへの修学旅行、そして謎の組織「蛇の知恵」からの招待状へと加速していきます。
英雄になっても「借金」と「ノルマ」からは逃げられない、不遇なコタロウの受難をお楽しみください!
【Ep.97 第57.5話:本文】
1. 聖女との「事情聴取」という名の休戦
騒乱から一夜明けた、王立精霊学園。
学園祭の片付けが急ピッチで進む中、俺は特別棟の空き教室に呼び出されていた。
目の前には、パイプ椅子に座り、不機嫌そうに腕を組む銀髪の少女――聖教会筆頭審問官、**アリス・リンドバーグ**がいる。
「……で? あれは『照明係の演出』だったと?」
**アリス**の蒼い瞳が、ジトッと俺を射抜く。
「ええ。アヤネの光が強すぎて、たまたま会場のクリスタルに反射して、綺麗に散らばったんですよ。奇跡ですねぇ」
「棒読みですね。それに、あの正確無比な『反射』が偶然で起こる確率は、隕石が直撃して学園長のカツラがズレる確率よりも低いでしょう」
**アリス**は深く溜息をついた。
彼女の手元には、昨夜の戦闘報告書がある。そこには『不明な光源による広域制圧』という記述があり、赤字で『要・重要監視』と記されていた。
「……はぁ。まあいいでしょう。 今回ばかりは、貴方に借りができました。私の聖剣でも防ぎきれない『禁忌術式』……あれを無力化できたのは、間違いなく貴方の功績です」
**アリス**は立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄ると、意外なことに小さく頭を下げた。
「生徒たちを守ってくれて、ありがとうございます。**神木コタロウ**さん」
「……どういたしまして。シスター」
「ですが!」
**アリス**はガバッと顔を上げ、至近距離で俺を指差した。
「勘違いしないでください! 疑いが晴れたわけではありません! 貴方は『黒』に近いグレーです! いえ、もうほぼ真っ黒です! 今は、貴方が学園の秩序を守る側にいると判断して見逃しますが……もし一度でも『悪』に染まった素振りを見せたら、私がこの手で断罪します。いいですね!」
「はいはい。肝に銘じておきますよ」
ツンデレな捨て台詞を残し、**アリス**は部屋を出て行った。
去り際に、耳まで赤くしていたのを俺は見逃さなかった。
どうやら、「ただのサボり魔」から「油断ならない監視対象(ちょっと気になる相手)」へとランクアップしてしまったようだ。
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2. 精霊学部の財政破綻と、担任の殺意
「うわぁぁぁぁぁん!! 無理よぉ!! こんなの払えないわよぉぉぉ!!」
精霊学部の部室(兼・執事喫茶のバックヤード)に戻ると、そこにはこの世の終わりのような悲鳴が響いていた。
部室の奥、学部担任の椅子に座っているのは、**セフィラ先生**だ。
彼女は氷のような無表情で紅茶を啜りながら、デスクの上に置かれた長い羊皮紙の請求書を指先でトントンと叩いている。
その前で、2年生首席の**リリス・フレアガード**がテーブルに突っ伏して泣いていた。
「どうした、**リリス**。**セフィラ先生**も……お葬式みたいな空気だぞ」
「**コタロウ**……! 見てよこれ!」
**リリス**が涙目で請求書を突きつけてきた。
> **【 損害賠償請求書 】**
> * 大講堂ステンドグラス修復費:**金貨 800枚**
> * 屋上貯水タンクおよびフェンス交換費:**金貨 500枚**
> * 床・壁面の魔法的汚染除去費:**金貨 300枚**
> ---
> **合計:金貨 1,600枚**
「……うわ、えげつない額だな」
「貴方が屋上を壊した分と、昨日の講堂での派手な戦闘の被害よ! 『黒の使徒』の自爆ってことになってるけど、学園側は『管理責任』として精霊学部に一部負担を求めてきたのよ! あんなに働いて……あんなにコーヒー淹れて……利益が全部ゼロどころかマイナスなんてぇぇ!」
**リリス**が足をバタバタさせて駄々をこねる。首席の威厳もへったくれもない。
**アヤネ**と**モモ**は「金貨ってチョコ何個分?」と呑気な顔をしている。
「……**コタロウ**様」
学部担任の椅子から、絶対零度の声が響いた。**セフィラ先生**だ。
その瞳には、深層ボス級のドス黒いオーラ(殺意)が宿っている。
「申し開きはありますか?」
「いや、あの、生徒を守るための正当防衛でして……」
「言い訳無用です。 ……昨夜の屋上の件も、講堂の件も、すべて貴方が原因でしょう? おかげで私の『監督不行き届き』も問われ、また精霊界(本社)から『始末書』を書かされる羽目になりました。 私のボーナス査定は、貴方のせいでマイナス限界突破です」
バキッ。
**セフィラ先生**が握りしめたティーカップの取っ手が砕け散る。
彼女は元・深層の管理精霊だが、俺のせいで地上に左遷され、今は「監視役兼パシリ」として働かされている。俺への恨みは、借金よりも深い。
「で、でも先生! 金貨1600枚なんて、学生に払えるわけが……」
「ええ、払えませんね。 ……ですが、安心してください。 今回の借金は、私が『裏帳簿』を使って一時的に処理しておきました。 精霊界の『特別会計』から補填します」
「えっ! 本当ですか!?」
**リリス**が顔を上げる。
「ええ。ただし……」
**セフィラ先生**は俺の方を見て、獲物を狙う蛇のような笑みを浮かべた。
そして、冷たい指先で俺の額を指差した。
「その代わり、**コタロウ**様。 貴方には、次回の『精霊界マナ納品』のノルマを3倍に増やしていただきます。 精霊王**セレスティア**様も、『最近、彼のマナが足りなくて肌が荒れる』とお怒りでしたからね。 ……死ぬ気で絞り出してくださいね?」
**セフィラ先生**の視線は、俺の額にある**【精霊王の刻印】**に釘付けだった。
逃げ場はない。俺の魂は、すでに精霊王によって「予約済み」なのだ。
「3倍!? 干からびて死にますよ!」
「死んだら、魂ごと精霊界に回収しますので問題ありません。刻印がありますから、迷子にもなりませんしね」
こうして、俺は金銭的借金の代わりに、魂とマナを担保にした「悪魔の契約」を結ばされることになった。
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3. 影の女王への報酬
その夜。男子寮の自室。
俺はドッと疲れが出た体でベッドに倒れ込んでいた。
外ではまだ後夜祭の余韻が残っているが、俺のHPはゼロだ。
「……おい、主(**コタロウ**)。 約束」
足元の影から、ぬるりと黒いドレスの少女が現れた。
闇の精霊**ネロ**だ。
彼女は俺の腹の上に乗ると、赤い瞳を妖しく輝かせた。
「昨日の仕事、完璧だったでしょ? キラキラした奴ら(**プリズム**)を隠して、誰にもバレずに配置してあげた。 ……ご褒美、まだ?」
「……分かってるよ。ほら」
俺は起き上がり、左手の人差し指を差し出した。
同時に、**ブラック・バトン**の『遠心分離機能』を起動し、体内のマナを指先に集中させる。不純物を極限まで取り除いた、純度**99.9%**の闇属性マナだ。
「ん……【音符】」
**ネロ**は俺の指を両手で掴み、小さな口に含んだ。
チュパッ、という少し背徳的な音が静かな部屋に響く。
「んぅ……っ。……甘い。 主のマナ、今日は一段と濃い……」
**ネロ**は上目遣いで俺を見ながら、指先を舐め回す。
だが、ふと彼女の視線が俺の額に向けられ、不快そうに歪んだ。
「……また光ってる。あいつ(**セレスティア**)の跡」
**ネロ**は指を離し、俺の額にある**【精霊王の刻印】**を冷たい指先でなぞった。
「ムカつく。汚い。 ……ねえ主。いつか、この刻印ごと……主の全部を影の中に引きずり込んで、ボクの闇で真っ黒に塗りつぶしていい?」
「断る。俺は太陽の下でマナ焼きそばを食いたいんだ」
「ちぇっ。……まあいいや。今はこれで我慢してあげる」
**ネロ**は再び俺の指を口に含み、上書きするように強く吸い付いた。
光の加護と、闇の執着。二つの重い愛に挟まれ、俺の平穏は遠のくばかりだ。
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4. 届いた「黒い封筒」
**ネロ**が影に戻り、ようやく眠れると思ったその時。
部屋のドアの隙間から、一枚の封筒がスッと滑り込んできた。
「……なんだ?」
俺は警戒しながら封筒を拾い上げた。
上質な黒い紙。封蝋には、学園の紋章でも、公爵家の紋章でも、教会の十字架でもない。
見たこともない**「六芒星の中に蛇が絡みつく」**紋章が押されていた。
「(……嫌な予感がする)」
俺はペーパーナイフで慎重に封を開けた。
中には、一枚のカードが入っていた。
> **拝啓、神木コタロウ様**
>
> 先日の「舞踏会」でのご活躍、拝見いたしました。
> 貴殿のその「力」と「叡智」。我々の『研究』に不可欠なものです。
>
> つきましては、次なる舞台への招待状をお送りします。
> 拒否権はありません。 貴殿の愛する「平穏」が惜しければ、指定の場所へお越しください。
>
> ――**『蛇の知恵』**より
「……『蛇の知恵』?」
聞いたことのない名前だ。だが、俺の正体を知り、脅迫してくるあたり、ただのサークル勧誘ではないだろう。
黒の使徒のバックにいた組織か? それとも、また別の勢力か?
「……はぁ。 借金、ストーカー、ヤンデレ、監視、および脅迫状か」
俺はカードを放り投げ、天井を仰いだ。
俺の望む「モブとしての平穏な生活」は、もはや遥か彼方の夢物語になってしまったようだ。
「上等だ。……全部まとめて、いなしてやるよ」
俺は不敵に笑い、電気を消した。
学園祭は終わった。
だが、俺の戦い――いや、俺の「波乱万丈な受難」は、ここからが本番だった。
(第57.5話 完)
【第57.5話(Ep.97):あとがき】
お読みいただきありがとうございました!
「ニャ~~~ン……」から始まった隠蔽工作も虚しく、結局バレるわ金は請求されるわで、コタロウの心労はマナ枯渇レベルに達していますね。
今回のハイライトを振り返ると:
ツンデレ審問官アリス: 「勘違いしないでください!」という王道台詞を吐きつつも、しっかり感謝を伝えるアリス様。コタロウへの評価が「不審者」から「目が離せない危険物」に変わった瞬間でした。
セフィラ先生の殺意: ティーカップを握りつぶす先生、怖すぎます。1.5倍の給料と引き換えに3倍のノルマを課すという、精霊界(ブラック企業)の恐ろしさが垣間見えました。
ネロのご褒美タイム: 影の中から現れるヤンデレ精霊の独占欲。セレスティアの刻印を嫌がるあたり、精霊同士の「コタロウ争奪戦」も水面下で激化しているようです。
そして最後に届いた、不気味な蛇の紋章の封筒。
せっかくの修学旅行が「修羅場旅行」になる予感しかありません。
【次回予告】
第57.6話(Ep.98)幕間:『精霊会議:食糧危機と、王の気まぐれ』
一方その頃、天上界では五柱の精霊王たちが「コタロウ・ロス」により深刻な禁断症状に陥っていた!?
「あの子に美味しいものを作らせなさい!」
セレスティア様のワガママにより、修学旅行の目的地・アトランティアが「巨大な調理場」へと改造される……?
次回、神々の欲望がコタロウの平穏を再び粉砕します!
【作者からのお願い】
物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から**【★★★★★】**で応援いただけると嬉しいです。
皆様の評価が、セフィラ先生が飲む胃薬の効き目と、ネロが次に要求する「おかわり」の回数、そしてアトランティアの「隠しメニュー」の豪華さに直結します!




