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第2話:学園長が食えない昼行灯だったので、教頭の話をAI要約して教室に向かった

【第2話:まえがき】

前話では、スパルタAIによる徹夜のチュートリアルを終えたコタロウ。

いよいよ、異世界生活の本番である「王立ルミナス精霊魔法大学」への初登校です。

「魔法学園」といえば、可愛い同級生との青春、優雅な魔法レッスン、そして楽しい寮生活……。

そんなキラキラした学園ファンタジーを期待していた時期が、彼にもありました。

しかし、コタロウを待ち受けていたのは、ブラック企業も真っ青の「超・実力至上主義」と、理不尽すぎる「階級社会」でした。

Fランク(廃棄予定品)の烙印を押された彼に、学園のトップが突きつけた残酷な通告とは?

それでは、絶望とカオスの入学初日をご覧ください。

翌朝。

俺とアヤネは、王都の中央にそびえ立つ巨大な尖塔――**王立ルミナス精霊魔法大学(通称:ルミ大)**の「中央管理棟」へと呼び出されていた。


貴賓館から馬車で移動する間、窓から見えたキャンパスの広大さに俺は圧倒されていた。

空には精霊石で動くリフトが行き交い、地上ではローブを纏った学生たちが魔法で噴水を凍らせたり、炎の鳥を飛ばしたりしている。まさにファンタジー映画の世界だ。


「わぁ……! すごい、魔法使いがいっぱいですぅ!」


アヤネは窓に張り付いてはしゃいでいるが、俺の胃はキリキリと痛んでいた。

なぜなら、俺たちが連れてこられたこの中央管理棟――通称**「本社ビル」**が、他の校舎とは明らかに違う、冷たく重苦しい威圧感を放っていたからだ。


エレベーター代わりの浮遊床に乗り、最上階の学園長室へ。

重厚なマホガニーの扉の前で、案内役のメイドが恭しく一礼する。


「どうぞ。学園長と副学園長がお待ちです」


俺は覚悟を決めて、その重い扉を押し開けた。



「……むにゃ。あと5分……いや、永遠に寝かせてくれ……」


室内に足を踏み入れた俺たちが最初に目にしたのは、伝説の英雄の威厳――ではなく、巨大な執務机に突っ伏して惰眠を貪る老人の姿だった。


白髪の蓬髪ほうはつに、よだれのシミがついた高級ローブ。

机の上には決裁書類が山積みにされているが、その一番上にある「緊急稟議書」の上には、なぜか熱々のティーカップが置かれている。コースター代わりかよ。


この好々爺然とした男こそ、王国最強の精霊使いにして、本学のトップ――オスモンド・アインズワース学園長だ。


「……起きろ、クソジジイ!!」


ドガッッ!!


鋭い罵声と共に、横から飛んできた黒い影が、学園長の机を思い切り蹴り上げた。

書類の山が雪崩を起こし、ティーカップが宙を舞う。


「はっ!? ……む、おお。これはマグダ君。また眉間の皺が増えておるぞ?」


「誰のせいですか、誰の! 今日から編入してくる『聖女』と『オマケ』の面接だって、昨日から言っておいたでしょう!」


ヒステリックに叫んだのは、きっちりと結い上げた髪に、銀縁眼鏡をかけた女性。

副学園長兼、政経占星術学部長のマグダ・フォン・ローゼンバーグだ。

手には指示棒代わりの短杖を持ち、その背後には「規律」という文字が幻視できそうなほどの圧を放っている。


オスモンド学園長は「ふぁあ」と顎が外れそうな大あくびをして、涙目で俺たちを見た。

その目が一瞬、底知れない光を宿して鋭く細められた気がしたが、瞬きするとすぐにまた、焦点の合わない眠そうな半眼に戻る。


「おお、ようこそ若人たちよ。わしが学園長のオスモンドじゃ。……して、そこの光り輝くオーラを纏ったお嬢さんが、聖女のアヤネちゃんかな?」


「は、はい! シノミヤ・アヤネです! よ、よろしくお願いしますぅ……」


アヤネが直立不動で頭を下げる。


「うむうむ。実に素晴らしい魔力だ。若い頃のわしを思い出すのぉ」


オスモンドはニコニコと頷き、そして視線を俺に移した。


「そして、そっちの……まるで月曜日の朝のような、死んだ魚の目をしているのが……コタロウ君か。 ふむ、一応精霊は見えているようじゃのぅ」


(誰が死んだ魚だ。ていうか月曜日って概念、こっちにもあるのかよ)


俺が内心で毒づいていると、マグダ副学園長がピシャリと眼鏡を中指で押し上げた。

カチャッ、という硬質な音が、広い室内に冷たく響き渡る。


「雑談はそこまでです。単刀直入に言います」


マグダは手元の資料――俺たちの履歴書とステータス表――を机に叩きつけた。


「貴方たちの入学は、国王陛下の勅命により認められました。ですが、はっきり申し上げて時期が悪すぎます」


マグダが壁のカレンダーを短杖で叩いた。


「現在は4月上旬。我が校の年度始めは8月です。つまり、現行の1年生はすでに8ヶ月間のカリキュラムを消化し、基礎を終えています」


マグダの声が一段低くなる。


「そして、我が校の**『学年末・進級試験』は5月上旬**。……つまり、貴様らには試験まであと3週間しか残されていないということです」


「えっ……さ、3週間ですか!?」


アヤネが青ざめて声を上げた。


「わ、私、まだ教科書も読んでないのに……! 魔法なんて『えいっ』てやれば出るんじゃないんですか!?」


「甘えるな!」


マグダの一喝が飛ぶ。


「魔法とは論理と計算の結晶です! 貴女のような天才型ならいざ知らず、凡人が3週間で1年分を修めるなど、不可能です!」


(……詰んだ。これ、完全に詰んだわ)


俺が絶望していると、マグダは冷ややかな笑みを浮かべ、アヤネに向かって手を振った。


「――ですが、ご安心ください、聖女様」


「えっ?」


「1学年特待生(Sクラス)の学生は、1年次の期末試験および実技試験は『全免除』となります」


「えっ? 免除……テスト受けなくていいんですか?」


「はい。Sクラスは最初から『世界に選ばれたエリート』。教養課程で測るべきものなどありません。無条件で来年度の『専門学部』への進学が確約されています」


マグダの声色が、アヤネに対してだけ優しくなる。

アヤネがホッと胸を撫で下ろし、「よかったぁ……」と座り込みそうになる。


なるほど。VIP待遇ってわけか。

そりゃそうだよな。国の救世主をテストの点数で落第させるわけがない。

俺も一応、その聖女の付属品バーターだ。


「じゃあ、俺も免除ってことで……」


俺が期待を込めて顔を上げると、マグダの視線が絶対零度まで下がった。

まるで汚物を見るような目が、俺を射抜く。


「――だが、貴様は違う」


「……はい?」


「勘違いするな。Fクラス(平民クラス)は、そうはいかん。そもそも、この『進級試験』の真の目的を知っているか?」


マグダはサディスティックな笑みを深め、残酷な事実を告げた。


「学力測定ではない。増えすぎた無能な学生を『間引く(リストラする)』ための選別儀式だ」


「……は? 間引き?」


「そうだ。我が校は実力至上主義。2年次から始まる『専門学部』の研究室や実習設備のキャパシティは限られている。無能な者に割くリソースなどないのだ」


マグダは淡々と、しかし決定的な宣告を行う。


「8月から必死に学んできた既存生徒と競い、**学年順位の上位50%に入らなければ、貴様は即座に『退学(卒業扱い)』**となる」


「上位半分……」


いきなりハードルが高い。今の俺は知識ゼロだぞ。


「ま、待ってください! 退学になったら、コタロウくんはどうなるんですか!? 野宿!?」


アヤネが悲鳴を上げる。


「いいえ。魔術の才なき者を野に放り出すのは危険です。救済措置として……専門学部に進んだ優秀な生徒の**『従者(下働き)』**として雇用される契約を結んでいただきます」


「じょ、従者ぁ!?」


「要するにパシリかよ……!」


俺は戦慄した。

従者。響きはいいが、要するに奴隷契約だ。

上級生の実験のモルモットにされたり、ダンジョン探索の荷物持ち兼囮デコイにされたり、あるいは日々の雑用を24時間体制で押し付けられる。


俺がこの世界に来て一番求めていた「平穏なサボりライフ」。

それが、あと3週間で成果を出せなければ、永遠に失われる。

待っているのは「24時間365日労働のブラック環境」だ。


「貴様はFクラスだ。落ちこぼれの吹き溜まりから、たった3週間で1年分の遅れを取り戻せるものなら、やってみるがいい」


マグダの言葉は、宣告というより呪いに近かった。


そこからさらに30分。

マグダの説教は続いた。「校則第1条とは」から始まり、「廊下を走るな」「シャツのボタンは上まで留めろ」「学園長のおやつを盗み食いするな(これは学園長に向けたものだった)」など、小言のオンパレードだ。


俺は意識を半分切り離し、虚空を見つめたまま、脳内で同居人(AI)に語りかけた。


(……おい、AI。起きろ)


ピコン♪


【カンニング・AI 起動】


- Status: 副学園長の話を「重要度:低」としてバックグラウンド処理中。

- 要約: 「無能は用済みだから消えろ。あと身だしなみを整えろ」という脅しです。残りの99%はノイズです。


(そんなことは分かってる。俺が聞きたいのはそこじゃない)


俺は心の中で盛大な舌打ちをした。


(お前、インストールされた時にこの世界の情報を全スキャンしたんだろ? なんで**『4月編入だと試験まで時間がない』ってことと、『下位50%は奴隷落ちの間引きシステム』**だって超重要な情報を、事前に俺に教えなかった?)


もし知っていれば、入学前に何かしらの対策を練るか、あるいは「B:教会での保護(監禁)」の方を再検討していたかもしれない。

少なくとも、心の準備くらいはできたはずだ。


視界の端に浮かぶウィンドウが、一瞬だけ気まずそうに明滅した。


【カンニング・AI 回答】


- 理由: 与えられた選択肢の最後のひとつでした、断れば第1の選択肢(王立騎士団へ入団)に強制決定となります。ついでマスターに精神的負荷ストレスを与えないためです。

- 詳細: 入学決定前にこの絶望的な事実を伝えた場合、あなたの心拍数が急上昇し、昨夜の安眠が妨害されるリスクがありました。

- 結論: 「知らぬが仏」という日本のことわざを採用し、情報の隠蔽を行いました。


(……はぁ?)


コタロウの眉がピクリと動く。


(ふざけんな。お前が黙ってたせいで、俺はいきなりデッドライン直前のデスマーチ確定だぞ。何が「知らぬが仏」だ、このポンコツAI!)


【カンニング・AI 反論】


- 訂正: 私はポンコツではありません。超高性能支援知能です。

- 言い訳: そもそも、マスターが昨夜「詳しい説明はいいから寝かせろ」と私のチュートリアルを強制終了したのが原因です。その時の音声ログを再生しますか?

- 追加: それに、追い詰められた時のあなたの方が、脳の処理速度が30%向上するというデータもあります(前世の大学レポート提出前のデータ参照)。


(……こいつ、絶対に性格悪いだろ)


俺がAIと脳内で喧嘩している間に、ようやくマグダの説教が終わったらしい。

オスモンド学園長は、いつの間にか新しいコースター(俺の成績表)の上にお茶菓子を広げて食べていた。


「――以上です。質問は?」


「(AI要約:さっさと教室に行け)」


「ありません」


俺は即答した。これ以上ここにいたら、ストレスで胃に穴が開く。



学園長室を出た俺たちは、それぞれの教室へ向かうことになった。

本社ビルのエントランスホール。

ここから先、SクラスとFクラスでは向かう方向すら違う。


「ううぅ……コタロウくん……試験やだよぉ……」


アヤネが泣きそうな顔で俺の袖を掴む。


「お前は免除だろ。気楽でいいよな、聖女様は」


「で、でも! コタロウくんがいなくなったら私……! パシリになったら会えなくなっちゃうの!?」


「大丈夫だ。パシリになってまでここに残る気はねーよ」


俺はアヤネの頭をポンと叩き、引き剥がした。


「絶対、絶対お昼ご飯一緒に食べてね! 約束だよ! 破ったら呪うからね!」


アヤネはSクラス専用の案内係(執事服のイケメン上級生)にエスコートされ、空に浮かぶ豪華な庭園エリア――**「天上のセレスティア」**へと消えていった。


さて、俺は……。


俺は地図(AIナビ)に従い、敷地の北側へと歩を進めた。

最初は綺麗に舗装されていた石畳が、進むにつれてひび割れ、雑草が生い茂る獣道へと変わっていく。

すれ違う生徒たちの服装も、煌びやかなローブから、つぎはぎだらけのシャツへと変わる。

華やかな本校舎が遠ざかり、代わりにカビと湿気が混じった淀んだ空気が漂ってくる。


そして、目の前に現れたのは――。


「……なんだこれ。お化け屋敷か?」


そこにあったのは、今にも崩れそうな木造のボロ校舎だった。

窓ガラスは割れてベニヤ板で塞がれ、壁には不気味な色のツタが絡まり、入口の看板『Fクラス(特別支援学級)』は片方の釘が外れて、ギイ……ギイ……とブラブラ揺れている。


通称:「監獄プリズン


ここが俺の教室だ。

Sクラスのような特権など微塵もない、間引き対象者たちの収容所。

ここにいるのは、成績不良者、素行不良者、あるいは俺のような「魔力なし」のレッテルを貼られた落ちこぼれたち。


「……ここから3週間で、上位50%に入れってか」


無理ゲーにも程がある。

だが、やるしかない。従者落ちして一生こき使われるくらいなら、どんな卑怯な手を使ってでも生き残ってやる。


俺は胸ポケットから愛用の100円ボールペンを取り出し、カチリとノックした。

ペン回しの要領で、指先でクルクルと回転させる。


(おいAI。ここから最短で平均点を取って、一番楽な学部に潜り込むぞ。……全力でサポートしろよ)


【カンニング・AI】


- 了解: ミッション「脱獄サバイバル」を開始します。

- 推奨: 心拍数の調整を。この扉の向こうには、あなたの常識を超える「カオス」が待っています。


「(……脅かすなよ)」


俺は腐りかけた床板を慎重に踏み越え、Fクラスの教室の前へと辿り着いた。

目の前には、扉の向こうから漏れ聞こえる野獣の咆哮のような声と、爆発音が響いている。


いよいよだ。

俺は一つ息を吐き、その扉を見据えた。


(第2話 完)

【第2話:あとがき】

「入学おめでとう! でも3週間で結果が出なきゃ退学して奴隷(従者)ね(ハート)」 ……いくらなんでも、この学園の初期設定はハードモードすぎませんか。

そして、その超重要な情報を「安眠妨害になるから」という慈悲(?)で黙っていた【カンニング・【AI】】。 コタロウの敵は、魔物よりもまず身内にいるようです。

華やかな「天上の庭」へ去ったアヤネと、ボロ校舎「監獄」へ向かうコタロウ。 次回、その扉の向こうで待っているのは、更なるカオスです。

• ギャンブル狂いの人狼

• 爆発狂のエルフ

• そして、やる気ゼロの教師

次回、第3話『Fクラスの教室に入ったら、獣人とエルフとドワーフが賭けポーカーをしていた』。 「猛獣使い」としてのコタロウの才能が、図らずも開花(?)する回となります!



【作者よりお願い】 「設定が面白い!」「【AI】の性格が悪い(褒め言葉)」など、少しでも続きが気になった方は、ぜひブックマーク登録をお願いします!

また、下にある【☆☆☆☆☆】をポチッと【★★★★★】に染めていただけると、コタロウの激しい精神的疲労が少しだけ回復します。 応援よろしくお願いいたします!

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