Ep.02 第1.5話:晩飯は豪華だったが、寝る前にAIが勝手にチュートリアルを始めた
【第1.5話:まえがき】
前回の第1話で、無事に(?)異世界へ着地したコタロウとアヤネ。 ブラック企業の面接会場のような王城での選別を切り抜け、二人は「王立精霊学園」への入学を選択しました。
さて、ここからは束の間の休息……とはいきません。 異世界ファンタジーの醍醐味といえば、豪華な食事、未知の魔法、そして自分だけが使える「ユニークスキル」の解明です。
しかし、コタロウのスキルは少し様子がおかしいようです。 彼の脳内に直接語りかけてくるAIは、優秀ですが性格に難があり、コタロウの安眠を妨害することに余念がありません。
コタロウ「(俺はただ寝たいだけなんだが?)」 AI「(却下します。生存確率向上のため、強制レクチャーを開始します)」
そんな凸凹コンビ(?)による、深夜の特別講義が始まります。
【本文】
王立精霊学園(大学)への入学が決まった直後。 俺とアヤネは、王城の敷地内にある**「貴賓館」**へと案内されていた。
学園の寮に入る手続きが完了するまでの数日間、ここが俺たちの仮住まいとなるらしい。
「こちらでございます、聖女様。……そして、そちらの方」
案内してくれたのは、氷のように無表情なメイド長だった。
アヤネを見る目は崇拝に近いが、俺を見る目は完全に**「生ゴミを見る目」**だ。昨日まで現代日本で普通の大学生をやっていた身からすると、この急激な格差社会には眩暈がする。
「うわぁ……すごいですぅ……! ホテルみたい……」 アヤネが感嘆の声を上げる。
通されたエントランスは、床が大理石でピカピカに磨き上げられ、天井には巨大なシャンデリアが輝いていた。確かに、日本のビジネスホテルとは格が違う。
「聖女様のお部屋は、こちらの『白百合の間』でございます。そして従者殿は……廊下の突き当たりの『物置』……失礼、『従者の間』をお使いください」
「えっ!? 別々の部屋なんですか!?」 アヤネが血相を変えて俺の袖を掴んだ。
「む、無理です! 怖いです! 同じ部屋がいいですぅ!」
「聖女様、それはなりません。聖女としての潔白を守るため、異性との同室は固く禁じられております」 メイド長がピシャリと言い放つ。
「兵隊さんがいるのが怖いんですぅぅ!」と泣きつくアヤネを引き剥がし、俺はあくびをした。
「いいじゃん、アヤネちゃん。俺も一人でゆっくり寝たいし」
「コタロウくんの薄情者ぉぉ!」 こうして俺たちは、とりあえず荷物を置き、夕食の時間までそれぞれの部屋で過ごすことになった。
【 夕食:王家の晩餐と毒味(【AI】) 】
夕食は、貴賓館のダイニングルームで振る舞われた。 長いテーブルの上には、見たこともない豪華な料理が並んでいる。
「す、すごいです……! これ、全部食べていいんですか?」
アヤネが目を輝かせる。メニューは「バイコーン(二角獣)のステーキ」「虹色に光る魚のカルパッチョ」など、ファンタジー色全開だ。
俺がフォークを手に取ると、視界の隅で**[ピコン(音符)]**と音がした。
【食材解析モード:ON】
対象: バイコーンのステーキ
成分: 高タンパク・高魔素。
注意: 焼き加減が「ウェルダム」寄りです。シェフが恋人とのメールに夢中になっていて、火から下ろすのが15秒遅れました。
「(……いらねぇ情報だな)」
俺は肉を口に運んだ。美味い。悔しいが、日本のファミレスより遥かに美味い。少し硬い気もするが、【AI】の言う通り焼きすぎたせいだろう。
「おい聖女、あまりガツガツ食うなよ。品がないぞ」 「ふぇ!?」
俺が忠告すると、給仕をしていたメイドたちがクスクスと笑った。アヤネは真っ赤になって縮こまる。
俺はグラスの水を飲みながら、【AI】ウィンドウに目を走らせた。
【マナー解析】
ルミナス式: ナイフは刃を内側に向ける。
攻略法: 3回噛んでから飲み込む動作を繰り返すと「上品」と判定されます。
「(……だそうだぞ、アヤネちゃん)」 俺は小声でアドバイスを送る。アヤネは涙目でコクコクと頷き、ロボットのような動きで食事を再開した。
【 入浴:異世界のテクノロジー 】
食後、俺は「従者用の浴場」へと案内された。 「へえ、悪くないな」
従者用とはいえ、石造りの立派な浴槽にはなみなみとお湯が張られている。
【環境解析レポート】
水温: 41.5度(適温)
加熱方式: 火の魔石による循環加熱。
豆知識: この風呂釜の底には、5年前に清掃員が落とした銀貨が挟まっています。
「(……だから、そういうどうでもいい情報はいいんだよ)」
俺は【AI】の声を無視して、タオルを頭に乗せた。ガス爆発で死にかけた体と心に沁みる。
「明日からは学園か……。授業中、バレずに寝る方法を考えないとな」
俺は風呂の縁でペン回しをするように指を動かした。チャプン、と水面が揺れる。
【 就寝前:強制チュートリアル 】
風呂から上がり、あてがわれた「従者の間」に戻った。 「ふぁ……寝るか」 ベッドに潜り込み、布団を被る。俺が目を閉じた、その時だった。
[ピコン! ピコン! ピコン!] 脳内でけたたましいアラート音が鳴り響いた。
「(……うっせぇな。なんだよ)」 目を開けると、暗闇の中に青白く光る巨大なウィンドウが展開されていた。
【初回起動チュートリアル】
目的: 保有ユニークスキルの仕様解説、および最適化。
状態: 未読(スキップ不可)
「(は? 今から? 明日にしろよ)」
【AI】 却下します。生存率向上のため、以下の魔法体系の理解は必須です。 所要時間: 推定2時間。
「(2時間!? 寝かせろよ!)」
俺の抗議は無視され、【AI】は淡々と解説を始めた。
Lesson 1:【魔力ゼロ】の冷酷な真実
【AI】解説:
・マスター、まずは現実を直視してください。あなたの「魔臓器」は空っぽ、つまり魔力は完全にゼロです。
・あなたは単独では「ファイアボール」ひとつ撃つことは一生不可能です。
「(……知ってた。というか、最初から期待してねーよ)」
【AI】補足:
当システムは、あなたが自前の魔力を持たない代わりに、この世界の「ソースコード」にアクセスし、周囲のマナをハッキングするための外部デバイスです。
Lesson 2:【無限回転(ペン回し)】~外部マナの強制抽出~
【AI】解説:
・魔法の発動にはマナが必要ですが、あなたにはそれがありません。
・代替手段: 指先での高速回転(RPM)による、周囲の待機マナの強制吸い寄せ。
・理論: 指を回すことで空間にマナの「渦」を作り、大気中から高密度のエネルギーを抽出する「携帯発電機」となります。
「(なるほど、自分で貯められないなら、その場で回して作れってことか)」
Lesson 3:【ユニーク変容】と【強制チャージ】
【AI】重要:
・抽出した生のマナは、そのままでは魔法になりません。
・機能: 抽出マナを、特定の精霊や人間が最も好む性質の「ユニークマナ」に当システムが瞬時に変容させます。
・発動: 変容させたマナを対象(アヤネや精霊)に「直接チャージ(給油)」することで、彼らの魔法を数倍、あるいは数百倍にブーストします。
「(……つまり、俺は自分じゃ戦えないけど、アヤネちゃんや精霊に『最高級のガソリン』をぶっ込むための給油機ってことか?)」
【AI】 正解です。
「フリック入力」は、その際のチャージ量と出力先を指定する「送電コマンド」。
「廃棄投擲(ゴミ箱シュート)」は、離れた対象へマナを届けるための「必中伝送」となります。
副作用: チャージされた相手は極上の快感を味わうため、あなたに対して異常な依存心(ヤンデレ化)を抱くリスクが極めて高いです。
「(……最後のは聞き捨てならないんだが?)」
Lesson 4:【機内モード】と将来の拡張
【AI】提案: 今後のアンロック予定:
『コピペ(魔法複写)』
『スクショ(瞬間記憶)』
『機内モード(魔力遮断・気配消去)』
「(機内モードは欲しいな……。授業中に寝るのに便利そうだ)」
【AI】 質疑応答の時間です。何か質問は?
「(ない。おやすみ)」
俺は強引に布団を頭まで被り、思考をシャットダウンした。ウィンドウが不満げに点滅する。
【システム】 ログ保存中……。
ユーザーの学習意欲「低」。
処置: 明日以降、実戦を通じて強制的に学習させます。
スリープモードに移行。Good Night.
フッ、と視界の青白い光が消えた。
俺は枕に顔を埋めた。明日からは学園生活。 面倒ごとは【AI】に丸投げして、俺は全力でサボらせてもらおう。
……まあ、このお節介な【AI】がそれを許してくれるかは怪しいが。
◇ 【 システムログ:バックグラウンド処理 】
静まり返った室内で、誰にも聞こえないログが展開される。
【システム】思考領域展開
対象: ユニークスキル発生原因の解析
結果: 解析不能。世界管理者による「強制割り込み」の痕跡あり。
方針: この事実はマスターには秘匿し、引き続き原因究明と保護を最優先とします。
(第1.5話 完)
【第1.5話:あとがき】
お読みいただきありがとうございます!
ついにコタロウの「戦わない、戦えない」チート能力の全貌が明らかになりました。
* 魔力ゼロ: 自分の力ではマッチ一本擦れない。
* 発電(ペン回し): 周囲のマナをパクる。
* 変容・給油: 相手に「最高に気持ちいい魔力」をぶっ込む。
自力で無双するのではなく、**「周囲を最強の化け物に変えて、自分はその後ろで寝る」**という、究極のサボりシステムの誕生です。
次回の第2話からは、ついに学園生活がスタートします。
「退学の危機」という面倒ごとに、この「給油機」となったコタロウがどう立ち向かうのか(あるいはサボるのか)。
引き続き、応援をよろしくお願いいたします!




