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■ Ep.130 第67.5話:暴露:兄貴と再会した夜、AIが「兄の黒歴史」を暴露し始めた

【第67.5話(Ep.130):まえがき】

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


前回、第67.3話(Ep.129)では、アヤネが「守られる聖女」を卒業し、コタロウの隣を歩く「恋人」としての覚悟を決めました。彼女の熱い抱擁により、コタロウの平穏は別の意味で危機に瀕しています。


しかし、外敵も黙ってはいません。

一時休戦となった北方要塞の夜。魔王軍の将軍となった兄ソウイチロウは、弟コタロウに対し「生産性の向上」と「魔王軍へのインターン」を迫るべく、深夜の個別面談(説教)を仕掛けてきます。


論理と効率で武装した兄に対し、コタロウが繰り出すのは、事象の最適化ではなく「過去の抹殺したい記憶」の強制開示。

中学時代の兄が夜な夜な綴っていた、漆黒のポエムが今、異世界の戦場に響き渡ります。

【Ep.130 第67.5話:本文】

1. 深夜の個別面談、あるいは効率の暴力

北方要塞の一室。暖炉の火だけが静かに爆ぜる部屋で、俺と兄貴は対峙していた。


「……コタロウ。昼間の話の続きだ。お前の能力値、およびアトランティアでの行動ログを精査した結果、お前が王国側に留まることはリソースの無駄であると判断した」


魔王軍の軍礼装を完璧に着こなした兄ソウイチロウ――シュナイダー将軍は、眼鏡を中指で押し上げ、手元の魔導タブレットをタップした。

空中には、俺のサボり回数や単位取得状況がグラフ化された、非常に不愉快なホログラムが浮かび上がる。


「……兄貴。わざわざ休戦中に、弟の成績表を魔導プロジェクターで映し出すの、やめてくれないか? 精神的苦痛で慰謝料請求するぞ」


「感情論は不要だ。お前には『効率的な世界』を創るための、コンサルタントとしての素養がある。……俺の部下になれば、週休三日、昼寝時間はKPI(重要業績評価指標)に基づき正当に評価してやる。どうだ? 王国というブラック企業に見切りをつけろ」


兄貴の声には、一切の迷いがない。

こいつは本気だ。本気で、この世界を自分のような「仕事中毒」が管理する、息苦しいまでのホワイト社会に書き換えようとしている。


(……最悪だ。兄貴の言う『ホワイト』は、俺みたいなサボり魔にとっては『逃げ場のない管理』と同義なんだよ……)


「断る。……俺は、誰にも管理されずに、適当なFランクとして一生を終えたいんだ」


「……進歩のない男だな。お前のその『怠惰』を、俺が論理的に矯正してやる必要があるようだ」


兄貴がさらに説教のボリュームを上げようとした、その時だった。


『マスター。……お待たせしました。……お兄様の個人端末、および魔王軍のメインサーバーに設置された「聖域(隠しパーティション)」のクラッキングが完了しました』


脳内の**【AI】**が、勝利を確信したような、極めて平坦かつ不届きな声を響かせた。


2. 封印された「漆黒の堕天使」

「……AI? お前、何をした?」


『報告。……お兄様の現在の魔力波形から、前世の個人PCに設定されていたパスワードを推測。……ビンゴです。……中から、お兄様が中学二年生から高校一年生にかけて運営していた、非公開のポエムサイト「漆黒の堕天使ダーク・エンジェル」のバックアップデータを検知しました』


「……。……。……!!」


俺は、一瞬だけ呼吸が止まった。

思い出した。

兄貴が夜な夜な、自室の電気を消して、青白い画面に向かって一心不乱にキーボードを叩いていた、あの頃の姿を。

俺が部屋に入ろうとすると、猛烈な勢いで画面を隠し、「生産性のない立ち入りをするな!」と顔を真っ赤にして怒鳴っていた、あの禁忌の扉を。


「……コタロウ? 何をニヤついている。……俺の提案に対し、何か建設的な意見があるのか?」


何も知らない兄貴が、冷徹な表情で俺を促す。


「……いや。……兄貴。……お前、自分のこと『冷徹な管理職』だと思ってるみたいだけどさ。……本当は、もっとこう……『深淵の闇に抱かれた、哀しき一翼の天使』だったりしないか?」


瞬間。

兄貴の指先が、ピクリと震えた。

眼鏡の奥の瞳が、これまでにない速度で泳ぎ始める。


「……な、何を言っている。……支離滅裂だぞ。……脳の演算能力が低下しているのではないか?」


「……AI。……やれ」


『了解。……要塞内の魔導広報ネットワーク、および魔王軍の移動要塞へ向けて、音声出力を開始します。……タイトル「孤独という名の鎮魂歌レクイエム」』


3. 響き渡る、魂の絶叫(黒歴史)

ザザッ……というノイズと共に、要塞全体に、そして外に布陣している魔王軍のキャンプに向けて、**【AI】**の合成音声が響き渡った。


『――月は、紅い血を流している。……僕の右腕に封印された、古の呪縛が疼き出す。……社会という名の歯車に、僕の翼は引き千切られようとしているんだ――』


「…………ッ!!?」


兄貴が、持っていたタブレットを床に落とした。

ガシャン、という乾いた音が部屋に響く。

彼の顔は、瞬時に土気色を通り越し、鮮やかなまでの紅蓮へと染まっていく。


『――ふふ。笑いたければ笑うがいい。……この孤独を知る者は、深淵の果てに立つ者だけなのだから。……僕は明日も、仮面を被って、偽りの生産性を演じ続ける。……嗚呼、堕天使の休息を。――』


「やめ……! やめろぉぉぉぉ!! コタロウ!! 何を……何を流してやがる!!」


「兄貴、いい声だぞ。……これ、中三の夏休み、自由研究の代わりに書いてたやつだよな? 当時のハンドルネームは『ルシフェル・ソウ』だったっけ?」


『補足。……現在、魔王軍の一般兵たちの間で「将軍、中二病だったのか?」「深淵の果てってどこだ?」「俺たちの残業は、将軍の仮面だったのか」という困惑が急速に拡大中。……お兄様のカリスマ指数、現在進行形で 90パーセント 低下しました』


「AI! ナイスだ!! 全国の枢機卿と精霊王たちにも、サブスクで配信してやれ!!」


4. 崩れ去る将軍の威厳

部屋の外からは、事情を知らない兵士たちの笑い声や、アヤネやクラウディアたちの「……えっ、これ、お兄様の言葉なんですの?」という驚愕の声が漏れ聞こえてくる。


「……あ、……あぁ……」


兄貴は膝から崩れ落ち、両手で顔を覆った。

先ほどまでの、完璧なロジックを振りかざしていたエリート将軍の姿は、そこにはない。

ただ、自分の過去を白日の下に晒された、一人の無残な犠牲者がそこにいた。


「……コタロウ。……貴様……。……実の兄に対して、……ここまでの……不届きな……行為を……」


「兄貴。……お前が俺に『生産性』を強いるなら、俺は一生かけて、お前の全黒歴史をこの世界に『出版マイグレーション』してやる。……どうする? これでもまだ、俺にインターンを強要するか?」


『報告。……次のファイルは「漆黒の聖衣(学ランの裏地)」を改造した際の設定資料集です。……音声読み上げ、準備完了』


「待て!! 待て待て待て!! 分かった!! 分かったから消せ!! 削除しろ!! 今すぐ全てのログを物理的に破壊しろ!!」


兄貴は、かつてないほどの必死な形相で、俺に縋り付いてきた。

彼にとって、世界征服の失敗よりも、このポエムが精霊界中に拡散されることの方が、一億倍も耐え難い苦痛だったのだ。


5. 勝利の余韻と、新たな不安

数分後。

ポエムの放送が止まり、要塞には(別の意味での)静寂が戻った。


兄貴は、抜け殻のような表情で、ふらふらと部屋を後にした。

「……今日は、もういい。……撤退だ。……本日の作戦は……『精神的欠損による緊急避難』に変更する……」


移動要塞へと戻っていく兄貴の背中は、どことなく小さく、そして哀愁に満ちていた。

『漆黒の堕天使』という、かつて自分が背負った業を、異世界で文字通り背負わされることになったのだ。


「……ふぅ。……勝ったな。……AI、よくやった」


『当然です、マスター。……ですが、お兄様の精神状態が「絶望」から「復讐」へと移行した場合、次回の攻撃はさらに苛烈になることが予測されます。……お兄様のPCの「隠しファイル(第2層)」には、さらに過激な「漆黒の聖戦士」シリーズが保存されていました』


「……。……それ、最終兵器として残しておこうな。……俺の安眠のためには、兄貴の尊厳なんていくらでも消費していいんだ」


俺は、再び長椅子に体を預けた。

とりあえず、今夜の「強制個別面談」は回避できた。

明日以降、兄貴がどんな顔で俺の前に現れるのかは分からないが、少なくとも、しばらくは俺を「優秀なコンサルタント」として扱う余裕はないはずだ。


だが、俺はまだ気づいていなかった。

兄貴の黒歴史を暴露したことで、要塞内の兵士たちだけでなく、壁越しに聞いていたアヤネやクラウディアたちが、俺の「不届きなまでの反撃能力」に、さらに惚れ直してしまったことを。


「……神木様……。……お兄様のあんなに恥ずかしい言葉を、あんなに淡々と……。……素敵ですわ……」


「……コタロウくん……。……悪い子ですね……。……でも、そういうところも、好きです……」


扉の向こうで、熱を帯びたヒロインたちの囁きが聞こえてくる。


「(……。……AI。……俺の『不名誉なカリスマ』が、……なんか勝手に上がってないか?)」


『肯定。……マスターの「悪のカリスマ」指数、前週比で 200パーセント 増加。……サボりやすさへの悪影響は、甚大です』


「…………死にたい」


サボり魔コタロウ。

兄貴を社会的に圧砕した代償として、彼はさらなる「期待」という名の重力に押し潰されようとしていた。

北方要塞の夜は、まだ始まったばかりである。


(第67.5話 完)

【第67.5話(Ep.130):あとがき】


第130話をお読みいただき、ありがとうございました。


ついに炸裂した、実の兄に対する「黒歴史ポエム」の全校放送。冷徹な管理職を演じていた兄・ソウイチロウ(シュナイダー将軍)が、中二病全開の「ルシフェル・ソウ」として精神的に圧砕される様は、まさに不届きな弟による会心の反撃でした。


「孤独という名の鎮魂歌レクイエム」の内容に魔王軍全体が困惑し、将軍のカリスマ指数が 90% 低下するという異常事態を招きましたが、同時にコタロウへの「不名誉なカリスマ」が急上昇し、ヒロインたちの独占欲をさらに煽るという皮肉な結果も生んでいます。


さて、精神的に再起不能かと思われた兄貴ですが、持ち前の社畜精神によって驚異的な自己修復を遂げました。次話、第131話(Ep.68)では、コタロウたちが魔王軍の移動要塞、通称「前線オフィス」へと招待(という名の拉致)をされます。


そこは、ITドカタの悪魔バフォメットが管理するIT基盤や、サブスクリプション型課金モデルを推進する財務責任者のマモンなど、現代のスタートアップ企業も顔負けの「地獄のホワイト社会」でした。


「この世界から二度寝という概念が消滅してしまう」というかつてない存亡の危機を前に、コタロウのサボり人生を守るための新たな決意が固まります。


物語を楽しんでいただけましたら、ぜひブックマークや、下の評価欄から 【★★★★★】 で応援いただけると、執筆の大きな励みになります。皆様の応援が、魔王軍の福利厚生の充実度と、秘書フィネさんの睡眠時間の確保、そしてコタロウが次話で見せる「不屈の拒絶」のキレに直結します。

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