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059:海の大精霊ポンテサス②

 大精霊ポンテサス様の前に整列したのはいいのだが、側に寄ると巨大な足しか見えない。


 顔を上げても顎の下が見えるだけで表情が分からない。ご機嫌伺いしに来たわけではないから良いのだが、いきなり怒ったらプチッと潰されかねない。


「ふむ、其方等の姿がここからでは見えんな。もっと側に来るがよい」


 ズズっと衣摺れの音がすると、目の前に大きな手が現れる。


「我の手に乗るのだ」


 お姉様に続いて大精霊様の手によじ登り、手の平の中央に立った。この状況に毅然とした様子のお姉様。自分とシャーリーはヒシッとお姉様に抱きついて、安心感を得ようとした。


「キャッ!」


 大精霊様の手がズオオオっと上に上がり、三人とも態勢を崩す。


 ベチャ!


 っと、尻もちをつく自分に続いて、お姉様もシャーリーも大精霊様の手の中で座り込んでしまった。


「ははは、本当に小さいエルフであるな。その幼さでよくぞ参った。褒めてつかわす」


 大きな眼がギョロリと自分達を見ている。瞳の中には、怯えて身体を寄せあっている自分達の姿が見えた。


「ひっ」


 シャーリーが声にならない音を発し、掴まれた服をさらに固く握りしめる。自分も、あまりの迫力に押されお姉様の後ろに隠れるように後ずさりしてしまった。


「怯える必要はないぞ、幼き者よ。我は其方等を守護する者である。怖がられてしまうと、我も悲しいのだ」


 ギョロッとした目を伏せ、表情は読み取れないけど、悲しそうな雰囲気に見えた。大精霊様とはいえ、子供から拒絶されるは好ましくないようです。


「だいせいれさまは、こわくないです?」

「我は大樹の意思を継ぐ者には危害は加えぬ。其方等がおらねば、我等の存在危うくなるのだ。しかと使命を全うしてもらいたい」


 危害を加えられないことにひとまず安心を覚える。首を縦に振って、大精霊様に約束をした。とりあえず、座ったままで話を聞いているが、このままではいけないと思い身体を起こそうとする。腰が抜けてしまって、思うように身体を起こせない。どうにかして立ち上がろうと踏ん張ってみせた。


「ははは、そのまま座っておるが良い。これより我の加護を其方等に授けよう。懐かしい物を見せてもらったからな。少し多めに振舞ってやろう」


 大精霊様の手から水色の光の柱が天に向かって伸びていく。自分達が座っている場所からそう遠くなく、身体を起こせば届きそうな距離にある。


「見るがよい」


 その言葉と共に、水色の柱がパンッと弾け飛沫が降りかかる。頭上からもシャワーのように水が降り注ぎ、あっという間にずぶ濡れになった。


 下着もおむつもびしゃびしゃに濡れ、水が滴っている。お姉様とシャーリーもずぶ濡れだ。大精霊様の目と自分達を交互に見て、お笑いのコントみたいな状況に思わず笑ってしまった。


「おむつのなかまでびちゃびちゃです」

「私、汗も一緒に流れてしまったようですわ」

「みずあそびみたいですの」


 三者三様に、大精霊様の噴水シャワーの感想を口にし、笑顔を向け合う。さっきまでの緊張は水と一緒に流れてしまったようです。


「其方等は仲が良いのだな。ふむ、もう少し我の加護を授けよう」


 大精霊様のサービスで、噴水シャワーを再び浴びた。二回もシャワーを浴びて、ずぶ濡れの不快感を通り越し、清々しい気持ちになった。


「我の加護により、其方等の浄化の力を増幅させた。最高神様の力を合わせる事で、より多くの効果を生み出すであろう。その力を持って、これから起こり得る困難に立ち向かうがよい」


 びしょびしょな身体がホワッと温かくなり、水色のオーラが全身を包みだした。


「あたたかくてきもちいい……」


 この温かさは、まるでお母様に抱かれているような感じだ。光に包まれていると、ビタビタに濡れた身体が乾き始める。着ていた服やマントまで乾いてきて驚いてしまった。


 ついでに……おむつも乾いている。


「濡れたままでは其方等の幼き身体には良くなかろう」


 海の大精霊様に気遣ってもらったようです。巨大で怖そうに思ったけど、結構優しい精霊様だった。


「さて、エルステアとアリシア。其方等の使命、ユグドゥラシルの種に力を注ぐぬだ」


 大精霊様は、再び自分達を床に降ろし、人差し指をサンゴの台座に向けた。


「はい、大精霊様。アリシアちゃん、行きましょう。シャルロット王女様も、私達に付いて来てくださいね」

「わかりましたわ」


 台座の前でお姉様と手を握り、天板の中へ差し入れた。


 ズァァっと、身体の中に何かが入り込んでいく。特に身体に変化も無く、ただただ何を吸い取っているだけだ。


「もうその辺で良いぞ。神の力は十分に吸収したであろう」


 大精霊様の声を聞いて、天板の中から手を引き下げる。身体の中にあるユグドゥラシルの種が変化したのかが分からないけど、多分上手くいっているはず。


 チラリとお姉様の様子を伺ったが、自分と同じ気持ちのようで首を横に振って見せた。


「確かに育っておる。そう不安な顔をするではない。まだ力は足りないのは確かである。其方等がこれから出会う、百花、湖月、黒土、王土の大精霊達の力で種は芽吹き、この地に再び大樹の加護がもたらされるであろう」


 ズシンと大精霊様の言葉が頭にのし掛かる。まるで脳みそに大精霊達の名前を刻まれたような感じがして、頭がクラっとしてしまった。咄嗟に、お姉様が自分の身体を支えるように腕を回してくれたので、その場に倒れずに済んだ。


 なかなか重い言葉でしたよ、大精霊様。


 ヘラっと笑う自分に、お姉様とシャーリーは不思議そうな顔をしていた。


「アリシアちゃん、大丈夫ですの? 頭におかしいところはありませんか?」

「アリシア! きをたしかにしてくださいまし!」


 あっ、えーと、二人ともちょっと心配し過ぎですよ……。


「だっ、だいじょうぶです!」

「むむ、其の方、怪我でもしたか? 我の目からは何ともないように映っておるぞ?」

「だいせいれいさま、ごしんぱいおかけしました。なんともございません、ははは」

「そうか、其方等は運命の子だ。身体に気をつけるが良い」


 お姉様とシャーリーだけじゃなく、大精霊様にも心配をかけてしまい居場所が無くなってしまった。


「其方等ともう少し話をしたいところであるが、奴等が来たようだ。其方等の行方末に、最高神ハルヴェスマールの加護があらんことを。さらばだ、幼きエルフの娘達よ」

「ありがとう存じます、大精霊様。この身に代えても使命を果たします!」


 大精霊様の言葉に、お姉様が力強く返事を返す。自分は返す言葉が咄嗟に出ずに、黙って頷いた。中身はお姉様より年齢が高いはずなのに……ぐぬぬっ。


 自身のお粗末さを嘆いていると、視界がぐにゃりと歪んだ。


 次の瞬間、大精霊様の姿が消え、海中から降り注いでいた光も無くなり、薄暗い部屋に変わってしまった。ここはどこだろうと思い周囲を見渡すと、お母様と王妃様の姿が視界に映る。


「おかえりなさい。無事に戻ってきてくれて安心しましたわ」


 お母様にギュッと抱きしめられ、いつもの優しい匂いがした。この匂いと温かさは本物だ。帰ってきた事を実感し、お母様に抱きつき返した。


「ただいま戻りました、お母様」

「ただいま!」

「立派にお役目が果たせましたのね。大精霊様に失礼はありませんでしたか?」


 大精霊様とのやり取りや、巨大な姿だった事、加護をちゃんと頂けた事を、三人で矢継ぎ早にお母様と王妃様に伝える。


「まあ、そんなに大きな精霊様でしたのね。もっと話を聞かせてくださいな」


 お母様は目を輝かせながら自分達の話を頷きながら聞いてくれる。


「あのね、あのね、このむこうのろうかのかべがとうめいで、うみのなかがみえました」

「おさかながいっぱいこっちをみてましたの」


 お母様も王妃様も「うんうん、すごいわねー」と相槌を打って聞いてくれているので、自分もシャーリーも得意げになり、大精霊様との出来事のネタがつきたあたりで、巨大な広場や回廊の話まで思いつく限り喋った。


 思いつく限りの事を話した時には、全身が汗でじっとりしていた。


「はーっ」


 話すのに夢中でちょっと興奮していたようです。お母様達が聞き上手過ぎて、頑張り過ぎました! 話しきった満足感と、ちょっとした冒険を終えた事に安心を覚え、心地よい疲労感を感じる。


 そのまま、火照った身体でお母様に抱き着いて眠ってしまった。



 ――目が覚めると、やわらかい布団の中にいた。目の前にお母様の鎖骨ラインが見え、ちょっと視線を下げると胸の谷間がある。そのまま、なんの感情も抱かずにお母様の襟を乳房が見えるまで下げた。


 パクッっと突起を口で覆い、吸いやすい姿勢を整える。この就寝時のお乳を頂く流れは、目を瞑っていても可能だ。ゲーム風に例えるならば「授乳(攻)スキル」をマスターしたといっても過言ではない。くだらない妄想をしながら、しばしお乳を吸いながら惰眠を貪った。


 いま何時かな。


 天蓋付きのベッドで寝ているから、たぶん軍艦の中だと思う。お乳を吸っていてもお母様は起きてこないし、夜更けか明け方? ベッドの上から垂れている薄い布の向こうには、間接照明の灯りしか見えず薄暗い。


 もうちょっと大人しく寝ていた方がいいかな。


 お母様も疲れているだろうからね。ちょっと涎とお乳で寝間着を湿らせてしまったけど……ごめんなさいと心の中で念じて、目を閉じた。


 二度寝から覚めるとお母様は起きていたようで、頭を撫でてくれている。


「おはよう、アリシアちゃん」


 心地良すぎて三度寝しそうになったが、お母様に声を掛けられて起きる事にした。ここ数日のちょっとした冒険での寝泊りと変わって、日常の朝である。


 着替えを終え、お母様と一緒に朝食をとるために食堂へ向かった。食堂には既にお姉様と王妃様、シャーリーも席についている。ちょっとシャーリーが眠そうな顔をしている。慣れない冒険のせいで、体力が回復しきれなかったのかもしれない。


 何度か長旅を経験している自分と比べてはいけない。シャーリーが普通なのだ。いつも気の強そうな雰囲気と違う、ぽやっとした表情の彼女を優しく見守った。


 朝食の席にお父様の姿はない。メリリアに様子を伺うと、昨晩から近衛騎士団とこの船の艦長達と一緒にいるそうだ。王族区画とは別の軍事区画でお仕事をしているらしい。


 行きと様子が違うな。お父様が出張るという事は、何らかのトラブルが起きていると考えていいだろう。今起きている事をお母様に聞いてもいいのだが、勘が良すぎる子供というのは不気味で可愛げない。


 大人たちが教えてくれるまで知らない振りをするのが良いのだ。



 ――大精霊様と別れてから二日。心配していたトラブルは杞憂に終わったのか、今のところ自分達の船旅は順調だ。同じ船に乗っているはずなのに、お父様には一度も会えていない事を除けば……。


 プールサイドから水を足で蹴飛ばしながら、ボケっと頭上を眺める。


「きょうもいいてんきです」

「おひさまがきもちいいですわ」


 一緒に水遊びをしていたシャーリーも隣に座って、自分を真似るように水面をぱしゃぱしゃとさせた。仰け反って空を見ていたが、だんだん姿勢が辛くなってきたので、プールに脚を入れたまま寝そべる。お貴族様的にこの姿勢は許されるのかは知らないが……涼しくて気持ちが良いので、指摘されるまで堪能することにした。


 雲ひとつない青い空を眺めていると、空高い場所で黒い点が幾つも横切っていった。


 あれは鳥かな? 


 目を凝らしてみたが、太陽の下ではシルエットしか判別できなかった。


「シャーリー、あのくろいのなんだろう」

「なんでしょう。くろいのがこうさしながらとんでるようにみえますわね」


 シャーリーの目からでも、空飛ぶ黒い何かは分からないようだ。お母様に聞いてみようと思い、身体を起こす。


「あっ、くろいのがこっちにきてますの」


 顔を上げ、シャーリーの指す方へ視線を向けると、黒い何かが錐揉み回転して落ちてきているようだ。


「おかあさま! とりがおちてきました!」


 プールサイドで王妃様とお姉様とお茶をしているお母様に知らせた。鳥が落ちてくるぐらいで伝えるのもどうかと思うけど、何となく知らせた方が良い気がしたので。


「二人ともこちらへいらっしゃい」


 頭上を気にしながら、お母様の下へ駆け寄る。


 落ちてくる何かは相当大きい……さっきまで指先くらいにしか見えてなかったのに、今見ると、温室の天井を覆うくらいの大きさになっていた。


 あれ? このまま落ちてきたらやばくない?


 そう思った瞬間、黒い何かが反転して再び空高く上がっていった。太陽の光のせいではっきりは見えなかったけど、鳥のような何かに人が背中に乗っていた気がする。


「ひと? ひとがいました。とりのせなかに!」

「ほんとうですの? わたくしみえませんでした」


 ビシッと天井を指さし、お母様達に声を上げる自分。たぶん、鳥型の魔獣に乗っている騎士だと思うんだけど。


「ええ、アリシアちゃんの言うとおりですわ。この船に配備されているワイヴァーン兵ですの。詳しい話はお部屋でゆっくり教えてあげますわ。お二人とも、遊びに夢中でしたものね。身体が冷たくなってしまう前に、お着替えしに行きましょう」


 あの鳥はワイヴァーンなんだ。一瞬だけしか捉えられなかったけど、翼がボロボロだったように見えた。少し心配に思い、「きれない翼に戻れ」と手を重ねて願いを込めて両手を掲げた。


 ぽわっと、手から光が現れ吸い込まれるように空高く上がり消えていった。


 魔法が使える訳じゃないけど、何となく思いは届いたらいいな……。太陽の光を手で翳しながら黒い点のワイヴァーン達に視線を送った。

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