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058:海の大精霊ポンテサス①

「あぁ、本当に忌々しい! 僕は強い、強いのに! お前ら皆、しんじゃえよー!」

 黒いオーラを纏った男が苛立ちを言葉にして吐き捨てる。



 ――苛立つ男と出会う少し前、野営地に群がってきた魔獣を殲滅し、お父様達と合流するため祠の奥へ進んだ。あちこちに倒された魔獣が散見され、黒い煙を発していた。


 ロアーナ達が先陣を切って、七色に光る剣や斧で煙を払うと何処かへ消え去っていく。


 あれがお父様達の秘策……瘴気を断つ力。


 休憩する前より進軍速度が上がっていた。さっきまでぎゃんぎゃんと泣いてしまった自分だか、今は冷静に周囲を見渡す余裕がある。


 鬱蒼として暗い場所。飛び散っている魔獣の死体や血痕を見て、無意識にストレスを感じているのだろうか。


 以前よりまして感情の制御がままならい。


 おまけに、感情のまま泣いたせいで身につけた装備がテカテカ光を帯びているのだ。お母様とお姉様が自分の装備から魔力を吸い出しても、まだまだ光は衰えなかった。


 お父様の元に急ぐ理由は、自分のせいかもしれないです。


 足首で光るリングを見ながら考えていると、大きく開けた場所に辿り着いた。その奥では、黒いオーラを纏った男とお父様達の攻防が行われていた。


 お父様達に抜かりはない。こうなる事が想定の内だったかのように、誰一人慌てる事なく冷静に撃退。男が用意した魔獣達の残骸が広場を埋め尽くしていた。


「観念するのだな。お前の稚拙な策略など我等には通用せぬ」


 男に剣を向け、止めを刺そうとした瞬間、足下に魔法陣が浮かび上がった。


「黙れ! 黙れ! 黙れー! 僕は最強なんだ!」


 男が叫ぶと同時に、足元に巨大な魔法陣が光を発し、ブアッと黒い煙が天井に登る。


「我の願いに応え、冥界より現れん! カースオブキングヒュドラ!」


 呪文を唱えきると、黒い煙を掻き消しながら真っ黒な四つ首の竜が姿を現した。


「ふははは、どうだ僕の召喚魔法は! まだこれだけじゃない! お前らは絶対に生かして返さない! ここで魂ごと消滅させてやる! いくぞ! 召喚合体! リンクフォースチェンジ!」


 目の前の巨大な竜と男が再び黒い煙に包まれる。ちょっと厨二臭いセリフに、あの男が転生か転移した人かもしれない……と呆気に取られながら思った。


 黒い煙が晴れると、さっき見た四つ首の竜が立っている。


 側にいた男の姿が見当たらない。しかし、男の満足そうな笑い声だけは聞こえてくる。


「どうだ、驚いたか! これが僕の力だ! ひれ伏せ! クソエルフ共!」


 男の声は聞こえるけど、辺りを見渡しても人影が見当たらない。声がする方をジッと視線を向けると……。


 黒い影は、四つの竜の首を持ち、太った胴体に長い尻尾のある魔獣だ。胴体の所に人の下半身が埋っているように見える。なんとも気持ちの悪い光景。


 お父様達に翻弄されて、ものすごく苛立っているようで、さっきから必死にののしり声を上げている。


 まぁ、お父様強いですし。相手が悪かったですね。


 お父様の活躍を目の当たりにして、嬉しくなり「ふふっ」と笑ってしまった。


「そこのガキ! 僕を笑ったな! ゆるさねぇ! お前ゆるさねぇー!」


 合体魔獣の男がこっちを見て叫ぶと、四つの竜の頭が赤い眼で睨み見た。竜の口がガバッと開き、赤、青、緑、橙の魔法陣が現れ広場に漂っていた黒い煙が集まっていく。


「王妃様、風の障壁をお願いします! メリリア、レイチェルは水の障壁を! ロアーナ、リリアは火の障壁を!」


 お母様がそれぞれに指示を出し、四重のバリアが貼られた。


「サーシャは闇の刃を、エルステアは光の波動を放ちなさい」


 バリアが展開されると同時に、二人が攻撃魔法を合体魔獣に放つ。咄嗟の指示に素早く皆が反応し、攻防の体制が整ってしまった。


 お父様達に負けず劣らず、女性陣も戦い慣れているようだ。


「おかあさまたち、すごいですね」

「わたしたちもおおきくなったら、おかあさまのようになりたいですわ」


 大人達の勇姿に尊敬の念を抱く。シャーリーと身体を寄せ合いその様子をジッと見つめた。


 四重のバリアに、竜から放たれたブレスがぶつかる。


 殺意が込められたブレスがゴォォォォォっと音をたてバリアの向こうで浴びせられている。その光景に、シャーリーと自分は恐怖を感じ、地べたに座り込んでしまった。


 じわーっと股の下が湿りお尻が重くなる。


 情けない話だが、護られているとはいえ怖いものは怖い。殺意がここまで恐ろしいものなのかと、シャーリーに縋るように身体を寄せた。彼女も、この状況に恐怖を感じてしまったようで、頭を下げ小さくなっている。


 恐怖で身体の奥が熱くなっていく……この熱を吐き出してしまいたい。


 ナーグローア様から貰ったブレスレットが勝手に装備に変わり、腰に付けていたステッキも銀色の杖になり地面に落ちてしまった。


 あの杖にこの熱を取ってもらおう。


 咄嗟に、杖を握り奥底に溜まっている熱を注ぎ込んだ。


「こわいの! こわいの! シャーリーもこわがってるから!」


 バリアの外で降り注ぐブレスを払うように杖を振り回した。一向に止まないブレスに苛立つ。小さいシャーリーが、物凄く小さくなってるじゃないですか!


「もう! やめてっ!」


 バチッン!


 と、破裂する音と共に、ギャァァァァ! と、合体魔獣の断末魔が広場に響いた。ゴゥゴゥと降り注いでいたブレスが消え、バリアの向うが見える。


 助かった?


「あらあら、アリシアちゃんがお怒りですわ」

「ふふ、さすがアリシアちゃんですわ」


 お母様の言葉に続いて、お姉様も関心の声をあげ、笑顔でこちらを見つめていた。


 えっ、何が起こったの? 


 困惑する自分だが、周囲の目は優しい……。


 身体を寄せ合ってくっついていたシャーリーがギュッと自分の服を握りしめ、目に涙を溜めたまま見つめられてしまった。


「かっこいいですの」


 頬を紅潮させてキラキラした目のシャーリー。その顔を見て思わずドキッ! としてしまった。さっきまで怯えていた幼女は、恐怖が去った事で安心した見たいだけど、その手が自分から離れることはなかった。


 さっきより密着度が高くなっているよ……可愛いからこのままでもいいけど、ちょっと照れますね。


「ふざけるな! この俺が亜人の虫ケラどもに負けるわけが! 俺は最強なんだー!」


 殺意を向けた合体魔獣が、怒りの声を上げている。四重に貼られたバリアのおかげか、遥か遠くから聞こえてくるように感じ、威圧感を感じない。


 あまり直視したくないが、怒り狂う合体魔獣に視線を向けると、さっきまでギョロリと視線を向けていた四つの竜の頭が見えない。おまけに、首があった場所の根元から黒い煙が立ち上り、胴体から見える人間らしき上半身だけになっていた。


「我の娘に手を出したお前は許さぬ! ここで朽ち果てろ!」


 全身にオーラを纏ったお父様が、目にも留まらぬ速さで合体魔獣に駆け出すと、目の前に現れ七色に光る大剣を振り下ろした。


「クソガー! コンナ、コンナハズデハ! 虫ケラのエルフ共ガー! コレデオワルトオモウナァァァァー!」


 パキンッ!


 と、ガラス細工が壊れる音がすると、合体魔獣の大きな巨体が割れ、裂けた身体から黒い煙が立ち上る。その煙は、天井の隙間に吸い込まれるように消え、薄気味悪い魔獣の死骸だけ残った。


 広場にいた魔獣達からも黒い煙が失せ、本来の姿に戻っていく。


 もう襲ってくる魔獣はいない。


 お母様達はバリアを解除し、負傷した騎士達を回復して回った。お父様は相変わらず無敵みたいです。目立った傷も無くノシッノシッと歩いて、自分達の側に来てくれた。


「アリシア、お手柄であった。我もアリシアの魔力を沢山貰えたおかげで、傷ひとつ負わなかったぞ。よくやったな」


 ガシガシと頭を撫で、両腕に自分とシャーリーを乗せニコニコ笑顔のお父様。さっきまでの荒々しいオーラは無く、娘大好きなお父さんです。


 どうやら、自分は魔力タンクとして役に立ったのかもしれない。あえて理由は聞かなかったけど、お父様が褒めてくれたから良いのだ。


「シャルロット王女も無事でなにより。あの扉に大精霊ポンテサスがおるのだ。エルステアとアリシアと共に加護を受けられると良い。」

「わたくしもですか?」

「うむ。王族であれば問題ないはずだ。十賢者の証である、その胸のメダルを持参すれば大精霊に歓迎されるであろう」


 胸に付けている外套のメダルに視線を向けたシャーリー。


「これが……ですの……」

「王女の将来も楽しみであるな。我が娘達と仲良く行くが良い」

「はい、ディオスさま。わたくし、だいせいれいさまにおあいしてきますわ」



 ――戦いの事後処理、魔獣の解体や、負傷兵の回復が終わり広場の奥に聳え立つ金色の扉の前に整列する。

 お姉様とシャーリー、そして自分はその列の最前列に手を取り合って並んだ。この奥に、自分達を呼んだ海の大精霊がいる。


 森の大精霊の時とは違って、今回は激しい戦いを経て辿り着いた。前回は訳も分からない恐怖だったが、今回は死が一瞬過ぎる怖い目にあった。


 まだ、あと三人の大精霊と合わないといけない……海の大精霊と会う直前なのに、気が滅入りそうです。


「扉に手をかざし、魔力を注ぐがよい」


 お父様の言葉に従い、扉に手をつける。あ、魔力ってどうやって流すのだろう……と考えていたら、勝手に身体の奥から何かが生まれ、扉にスイーっと吸い込まれていった。魔力が注げたと思っておこう!


 手をかざした直後に、金色の扉の中央に光の筋が走る。


 ガゴンッ!


 と、大きな音がすると金色の扉が開き、三人が並んで通れる隙間ができた。その隙間を抜けると、薄暗い祠と違い、白い柱がいくつも並んだ明るい回廊になっている。


 柱と柱の間からは、外の景色、海中の様子が伺えた。まるで水族館にいるようです。小さい魚が群れをなして泳いでいたり、ちょっと強そうな大きい魚、エイや、タコ、カニみたいな生物が目に映る。


 海の生物を実際に見るのは初めてなので、きょろきょろと眺め見た。


「おさかなさんいっぱいです」

「エルステアさま、あのおさかなはなんですか?」


 シャーリーも自分と同じく、この光景に興味津々だ。二人で泳いでいる魚達を指差しながらはしゃいでしまった。


「よく参った、大樹の意思を受け継ぎし幼きエルフよ。恐れる必要はない。そのまま進がよい」


 海の中を散策しているような出来事に浮かれていた自分達に、突如、脳裏に野太い男の人の声が響く。この声の主は大精霊様だろう。一瞬にして、浮かれ気分は正され、ピリッと張り詰めた空気に変わった。


 グッとお姉様の手を握りしめ、緊張からジワっと手汗が出る。


「行きますわよ。貴女達はお姉ちゃんが守りますから、側から離れてはいけませんよ」

「はい、おねえさま!」

「エルステアさま、わかりましたわ」


 頼もしい言葉に勇気付けられ、お姉様の歩幅に合わせて海中回廊の奥へと進んだ。


 途中、人魚やリザードマン、人面魚のような生物が、海中から自分達を見て笑っている。そんな笑顔に気を取られていると、凶暴そうな大きなサメが自分達目掛けて襲いかかってきたが、回廊の見えない壁に弾かれて海の底に沈んでいった。


 この時、自分はビビらなかったけどシャーリーは……ブルっと身を震わせたので、たぶん漏らしたと思う。お互いあと一回で、おむつのリミットが限界を迎えそうです。


 そんな危機感を感じていると、また脳裏に大精霊様の声が聞こえてきた。


「その足取りでは日が暮れてしまうな」


 大精霊様の言葉が途切れると同時に、ポワンと水色の膜に包まれて身体が浮き上がった。


 こっ、これはまずい……また、転がったらおむつに溜まったおしっこが漏れる! 必死に水の膜の中で姿勢を整えようと試みた。だけど、膜がぐにぐにして踏ん張りがきかない。お尻の方からジワっと湿り気を感じる。


 これ以上、無駄あがきをすると大惨事になると悟り、大人しくぐにぐにの膜に身を任せた。


 スイーっと自分達を包んだ水色の膜が回廊を進んでいく。


 自分達が向かう先は、強い光を発していて先が全く見えなかった。光の先に突入すると、これまでより広い場所に到着。広間の奥に、お父様を巨大にしたような人影が映る。


 多分この巨大なお父様が、大精霊様だ。この大きさでくしゃみされたら、吹き飛ばされて入口まで戻されてしまいそうですよ。


「ほう、懐かしい物を身につけておるな。」


 大精霊様が、目を細めてふわふわと浮いている自分達を眺めている。


「うむ、あまり猶予はない。手短に済まそうではないか。我の名はポンテサス。この世界の大海を護りし精霊である」


 ぐあっと、胸を張って自己紹介を始める大精霊様。


 胸を張っただけなのに、ビリビリっと衝撃がはしり膜の中でくるんと回転してしまった。ひっくり返った態勢では挨拶も返せず、なんとか戻ろうと足掻く。


「おぉ、すまんすまん」


 水色の膜がゆっくりと降り床に着いた。


 パチン!


 と、膜が弾け、ベチャッとお尻から落ちた。あー、前回の二の舞ですよ……悲しい気持ちになり、目に涙が溜まる。


「海の大精霊ポンデサス様、お招き頂きありがとう存じます。私、エルステアと申します。こちらは、私達の国の王女シャルロット様でございます。そして、私の妹アリシアです」

 お姉様が直ぐに姿勢を正して挨拶を始めたので、慌てて立ち上がる。


「ポンデサスさま、おはつにおめにかかります。サントブリュッセルのこくおうのむすめシャルロットともうします」

「はじめましてだいせいれいさま。きょうはおまねきいただきありがとうございます」


 もうお尻の事にかまう余裕はない。スカートの裾をちょっと上げて、上品に見えるように会釈した。


「なるほど、よく教育されているようであるな。良い、良い。先ほども申したように、我らにも其方達にも時間がない。ユグドゥラシルの種に力を注ぐのだ」


 ポンデサス様が中指をスッと上げる。


 ゴゴゴっと、床から何かが迫り上がる音がする。


 目の間には、赤いサンゴで出来た台座が現れた。台座の真ん中がくり抜かれていて、水が張られている。


「その中に龍脈の核がある。幼き者よ、手を差し入れ力を受け取るが良い。王の娘よ、其方は我の元へ来るが良い。加護を授けよう」


 シャーリーひとりで大精霊の側に行けるのだろうか。ちょっと不安に思い、彼女を見ると、少し顔が青ざめていた。


「シャーリー、いっしょにいこう」

「ポンデサス様、私達も加護を頂けますでしょうか」


 お姉様もすかさずフォローしてくれる。流石に、あの巨大な大精霊様とサシで対面するのは怖い。純粋な幼児のシャーリーでは、無理に決まっている。


「よかろう。其方等は数々の精霊の加護を得ておる。我の加護を受け取るに相応しい」


 お姉様も、圧倒的存在の前に緊張を隠せない。


 ぎこちない動きで、三人固く手を繋いで大精霊様の前に並んだ。

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