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時は流れ放課後。
その日最後の授業が終わり、下校時間になると真っ先に祐美は藤四郎の教室へとやって来た。
「先輩、お待たせしましたぁ~! さっそく行きましょ?」
「あー……。それなんだけどな――」
気が重い藤四郎とは対照的に、その腕に抱きついた祐美のテンションは高い。
抱きつかれた腕からは、彼女の女性らしい感触が伝わってくる。
「待ちなさい。風紀の乱れる行動は慎むようにと言ったはずですが、貴女も懲りませんね」
そうこうしていると楓も教室へとやって来た。
朝と同様、藤四郎にべったりくっつく祐美の姿を見ると、眉をひそめながら声を掛ける。
「楓を入れて三人で行こうと思うんだが、大丈夫か?」
楓も合流したところで、藤四郎は祐美に楓も連れて行く主を伝えた。
「祐美は、それでも良いですよぉ~。楓先輩とは、一度お話したいと思ってたんでぇ」
揉めることを覚悟していた藤四郎の予想に反して、祐美はその提案を快諾した。
何はともあれ、話がスムーズに進んだことは上々と三人は目的の喫茶店へと向かった。
前回、楓と来たとき同様に店内は女性客で賑わっている。
思い思いのトッピングで注文したパンケーキを頬張る彼女達の表情は、とても幸せそうであった。
心なしか祐美と楓の表情も浮き足立っているようだ。
「わぁ……どれも美味しそうですね! 先輩達は、どれにしますかぁ?」
テーブル席へ案内され、真っ先にメニュー表を広げる祐美は楽しげに言った。
「俺は、珈琲だけでいいよ」
暴力的な甘味の数々に、前回の経験を活かして藤四郎は大人しく珈琲を選んだ。
「……私も珈琲をお願いします」
藤四郎が珈琲を選んだことで、楓も同調するように注文を決める。
だが、その硬い表情を見ていた藤四郎は疑問を抱いた。
「楓も何か甘い物頼まなくて良いのか? この前来たときだって美味しそうに食べてたろ」
「いえ……それは……」
ばつが悪そうに顔を伏せ、楓は言葉を濁した。
彼女が美味しそうにパンケーキをぺろりとたいらげていた姿は、藤四郎の記憶に新しい。
彼女も内心は、目の前に広がる色とりどりなメニューに目移りしていた。
一度来たことがあるとはいえ、その時は変装をしていたこともあり、そこまで体裁を気にせずとも良かった。
だが、今日は“宝来楓”として来ている。
この街で一番と言える家格を持つ宝来家の娘として此処に居る。
学園の後輩だけでなく、様々な人が居る街中、何処で誰に見られているか分からない。
スイーツに現を抜かして緩んでいる姿など晒すことは出来ないのだ。
「楓先輩って甘い物とか食べるんですねっ! なら季節限定のコレとかどうですかぁ?」
「普段は、食べないのですが……そ、そうですね。では、それをいただきます」
楓は祐美の指差したメニューを一瞥すると、メニュー表に期間限定と書かれたスイーツが載っていた。
期間限定。
その魔性のワードに心惹かれ、食べないと誓った心が折れる。
滅多に口に出来ない洋菓子。しかも、贅を凝らした限定メニュー。
祐美から勧められたという体裁もあり、その期間限定パンケーキを注文した。
「なんだ、遠慮してたのか?」
楓の葛藤などつゆ知らず、藤四郎がそんな言葉を投げかけると楓は恨めしげな視線を送った。
「先輩、女の子には色々あるんですっ! そんなこと言っちゃメッですよぉ~!」
「あ、あぁ。すまん、悪かった」
楓よりも先に祐美が頬をリスのように膨らませ、人差し指を立てて藤四郎を注意する。
祐美から怒られるとは思っていなかった藤四郎は、若干狼狽えながら謝罪を口にした。
「というか、先輩達って仲良いですよねぇ~……もしかして、楓先輩って彼女さんだったりします?」
「か、彼女……? 学生の身で、そのような浮ついたことに興じるなどありえません。何を言っているのですか……」
楓は祐美の質問に対して否定の言葉を述べる。
如何にも興味無いといった素振りをしつつも、慣れない話題に落ち着かない様子が窺える。
「良かったぁ……。もし楓先輩が彼女さんだったら、祐美すごい嫌な子じゃないですか? ちょっと安心しましたっ」
安堵したように祐美が笑う。
その様子を当事者として何とも言えない顔で藤四郎は眺めながら、店員が運んできた珈琲に口をつけた。




