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元々、宝来の治安は良い。
犯罪件数も年間で数えるほどで、ニュースに載るような事件も起こらない。
大都会ほど栄えているわけではないが、退屈しない程度には娯楽施設だってある。
住むのならこういった場所が良い。
そう思わせるほど、平和な町だ。
この町から陰の功労者達が消え、その平和に陰りが見え始めた。
平和に見える町の裏側では、着実に悪の種が根付き始めていた。
「ちょっと俺ら金に困っててさぁ。貸してくんね?」
「あ、その、今お金持ってないので……」
人目につかない場所で、気弱そうな男が、ガラの悪い男達に囲まれている。
男達の関係は、とても友好的には見えない。
「もう、そう言うのいいから。さっさと服全部脱げよ。こっちで探すわ」
「ついでに全裸の写真撮っちゃう? ばらまかれたくなかったら~ってヤツ? ギャハハ」
「うぅ……」
恐喝。
おどして金品を揺すり取り、骨までしゃぶり尽くす。
それは、決して許される行為ではない。
「そこまでにしておけよ」
「あぁ?」
男達が声のした方へ振り返ると、そこには異様な格好の人間が立っていた。
まるで漫画から出てきたかのような姿。
「なんだぁ、こいつ……」
「通りすがりのヒーローだ」
謎のヒーローの登場に皆困惑していた。
「ウゼェ。コスプレ野郎は引っ込んでろっての。こっちは忙しンだよ」
「――そこのアンタ、こいつらは知り合いか?」
ガラの悪い男達の言葉を無視して、詰められていた男に話しかける。
「ち、違います……」
「なら、俺がこいつらをのしちまって構わねぇな?」
その言葉に縋るように小さく頷くのが見えた。
「てめぇ、無視してんじゃねぇよ!」
「そんなに焦らなくても相手してやるっての」
男の一人が、叫びながら殴りかかってくる。
顔面を狙うように放たれた右ストレート。
それを、腕で絡め取るように掴み、ねじ曲げるように力を加えることで相手の身体を地面に押し倒した。
「夢の中で、自分の行いを反省しとけ」
「ア゛ア゛ァ゛!!」
倒れた男の身体に拳を当てる。
すると、スパーク音が響き、男の身体に電気が走った。
「……ちょっと、これ威力強すぎるわ。帰ったら言っとかねぇと」
「なっ……!?」
もう一人の男が驚き、慌てて逃げようとしている。
「あ、悪魔……!!」
だが、そんなことを許すほど甘くはない。
一瞬にして追いつき、仲間と同じように意識を意識を狩り取る。
傷一つ負うことなく、その場に治めた男。
白銀の外装に包まれた、謎のヒーロー。
「あのっ! 助けていただきありがとうございました!!」
感謝の気持ちを述べ、何度も頭を下げる。
「おう。アンタも気をつけろよ」
「どうか助けていただいたお礼をさせて――」
「気にしなくていいから。もう行くわ」
立ち去ろうとする彼に、男は急いで問いかけた。
「いや、あっ! お名前だけでもお願いします!」
謎のヒーローは、軽く手を上げて答えると颯爽と去って行った。
その後、何度かヒーロースーツを身に纏う機会に見舞われた藤四郎。
その活動は、ネットを中心に宝来に現れた謎のヒーローとして着実に知名度が上がっていった。
「いや、これ恥ずかしすぎんだろ」
藤四郎が机に頬杖をつき、スマートフォンを手に取りながら呟く。
画面には、謎のヒーローについて書かれたページが表示されている。
「えぇ~。そうかな? 僕は、格好良いと思うよ」
「ヒーローオタクめ……実際に人前でやってみろ。羞恥で死ねるわ」
藤四郎とは裏腹に、知名度が上がり嬉しそうにしている春彦。
彼にとって、このヒーロースーツは自分が作り上げた作品。
それが、世間の注目を浴び活躍していることが嬉しいのだろう。
「でも、当初の予定通りだよ。このまま存在を周知していけば、いつかは犯罪の抑止力になるんじゃないかな」
「だと、良いんだがな……」
藤四郎は、嫌な予感がしていた。
立て続けに起こる不良達による騒動。
こんなにも問題が起こることが、まず異常なのだ。
彼らの与り知らぬ場所で、今まさに悪の華が咲こうとしていた。




