三話
瞼を開くと、ゲレンが地面でのびていた。
「成功したのね」
「そりゃーな。もういろいろ慣れたわ」
「頼もしくてなにより。さあ行きましょう、ここにはもう用事はないわ」
「だな。ほら、アンも行くぞ」
ブスッとふてくされるアンクレスカに手を差し出す。
「なに? 私がアンタの手を握るとでも? さっきは仕方なく挨拶として握手しただけなの。思い上がらないでもらえる?」
なんかまた面倒くさそうなヤツを引き入れてしまったのかもしれない。
「とにかく行くぞ。俺だって別に暇なわけじゃない」
無理矢理手を取って歩き出した。
正直なところ、手を払われたらどうしようかなんて考えていた。しかしそれも無駄な杞憂だったらしく、彼女はされるがままについてくる。もしかしたら根はすごくいいヤツなのかもしれない。
「ねえ」
「なんだよ」
暗い森の中、背後からアンクレスカがそう言った。歩き続けているため後ろは振り向かないが、俺と彼女の手は繋がれたままだ。
「メームルファーズとはそんなに仲がいいの? そうは見えないんだけど」
俺の右手とアンの左手が繋がれている。逆に、左手はメーメが握っている。理由はよくわからないが、少しだけ殺気立ったメーメが無理矢理手を握ってきたのだ。
「いや、こういうことはあまりない」
「あまりってことはたまにあるってことよね?」
「そうだな。基本的に部屋をとっても一緒の部屋がいいって言うし、よくベッドに潜り込んでくる」
そう言うと、メーメからの殺気が倍増した。
「やめなさいロウ。それ以上言うと折檻よ」
赤い瞳で見つめられ、いろんなところが縮み上がる。
「はいはい、わかりましたよ」
「よろしい。では一度宿に戻りましょうか。一人だけ待たせておくのも可哀想よ」
「お前が無理矢理留守番させたんだろ。貴女のようなドジは必要ない。今回は大人しく待ってなさいとか言って」
「言い過ぎた、とは思ってないわけでもないわね」
「帰ったら素直に謝れよな。ルルはお前と違って心が強くないんだ」
「私だって強くないわよ。花も恥じらう乙女だもの」
「実際俺より長生きしてるくせによく言うわ」
そこでなぜか、右手がキツく握られた。
もうなんなんだよコイツらはと、言いたいところではあるがやめておこう。
闇を纏うように、鳥たちが空を飛んでいく。魔獣たちの遠吠えに、両手の平が火照っていく。当然俺の体温ではない。
ため息をつきながら道を歩く。早く宿に帰って眠りたい。今はそれしか考えられなかった。