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もう私、変態だよぅ… <point of view of Suzu>

 その日は、いつもと変わらぬ日常のはずだった。


 遅くまで勉強して、お風呂上りにダイエットのためストレッチをして、朝は妹に起こされて、いつもと同じように駅前で木庭君と四十万君を待つ。

 しばらく駅の前で電車を見逃し続けていると、今日も2人は仲良くやってきた。しかし、ここで顔を見せては、毎朝2人のことを待っているのがばれてしまう。そんなことは先輩としての威厳が許さない。

 お姉さんとしては、毎朝年下の男の子を待っていてはいけないし、ちょっとえっちな話題にも気の利いた台詞を1つくらい言えなければならないのだ。だから、2人が乗る電車を確認してから、私は先に電車に乗り込む。

 2人がどこの扉から乗り込むのかを知っている私は、いつもの場所に陣取って2人を待った。参考書を片手に、全然待ってませんよアピールをしながら。

「…あ、鈴先輩」

「おはよーございます」

 数分もしない内に2人がやってきた。私は参考書を閉じて、鞄を膝の上に乗せる。

「おはよう、2人とも。ここ座りなよ」

 私が奇遇だねーなんて言いながら隣を指し示すと、木庭君が隣に座る。四十万君は木庭君の向こう側に腰を下ろした。


 その日は、いつもと変わらぬ日常のはずだった。


 小さな振動が伝わる椅子に座って流れる景色を眺めていると、左の肩に温かな重みが伝わってきた。

 木庭君だ。彼は電車に乗って早々に寝てしまったらしい。今日もお喋りしようと思ってたのに、仕方ないなぁ。可愛い後輩に肩くらい貸してあげようじゃないか。だってお姉さんだもの。

 隣から聞こえる寝息を聞きながら、いつもと変わらぬ風景に私も段々と眠気が押し寄せてくる。あぁ、私ってば朝は弱いの…。

 気がつくと、私はまぶたを下ろしていた。

 …妹が目の前に立っている。何かご立腹のようだ。…あぁ、この前勉強を教える代わりにお菓子を要求したから怒っているのか。そのくらい許して欲しいものだ。あとそれ、不味かったよ。

 べーっと舌を出す妹の姿を見ながら、私は目を覚ました。

「…んぁ…?」

 景色が流れてゆくのが見える。

 …あぁ、そうか。電車の中で寝てしまったのだった。

 少し身体を動かして、ふと、左手が何か温かいものに触れていることに気付いた。


 その日は、いつもと変わらぬ日常のはずだった。


 視線をたどっていくと、左手が木庭君の太股あたり、スラックスの中の何かを鷲掴みにしているのが見えた。感触としては、熱くて、硬くて、大きい。

 …。

 ……。

 ………。

「…んにゃぁ!?」

 私は慌てて手を離す。

 驚いて声を上げてしまったが、周囲の状況など気にしていられない。え? え? 何で? 何で私、え??

 座っているのであまり目立たないが、木庭君の股間はよく見ると膨らんでいる。わ、私が触ってたから…? 触られて、その、気持ちよくなっちゃったってことだよね…?

 私は呆然として木庭君のそれと、さっきまでそこを触っていた左手を見比べる。な、なんであんな所を寝ている間に触っちゃったんだ、私…。妹の呪いか?

「…」

 …し、知らない。私は何も見ていないし、触ってない。

 幸い、四十万君も当の木庭君も寝ているので、私がとてつもなくはしたないことをしたと知っているのは私だけ…つまり、私さえ忘れればこの件は闇に葬られるのだ。

 …うぅ…手と顔が熱い…私、鼻血とか出てないよね…。


 その日は、いつもと変わらぬ日常のはずだった。


 何とか変な話題を避けて、通学路を走破した私は、大きく息を吐いて自分の席に着く。

 びっくりした。びっくりした。…びっくりした。

 初めてあんな…男の子の触っちゃったよ…無意識にあんな場所を手でこするなんて、私は絶対にはしたない子だぁ…こんなの私の考えるステキお姉さんじゃないよぉ…。

「どうしたのよ。あんたがそんなに落ち込むなんて珍しいわね」

 机に突っ伏しながら左手をじっと見つめていると、頭上から聞き慣れた声が響く。由美ちゃんだ。最近は私達の部活にかなりの頻度で参加していて、剣道部は完全に廃部になっている。そんな由美ちゃんと私は同じクラスに所属していた。

「私は今日、はしたない子なのです…」

「はぁ?」

 ぐすん。

 私は両手で涙を拭って、鞄に手を伸ばした。そこでとんでもないことに気付く。

 今、左手で顔触っちゃった。

「ぅぅ…もうだめだ私…」

 もう木庭君と結婚するしかない。別に特別好きってほどじゃないけど、それしか私が正しく生きる道は残されていないんだ。

 あきらめよう。もう私の人生終わっちゃったんだ。ごめんなさい木庭君。こんな変態が結婚相手で。でも木庭君も私の体だけは好きみたいだから、別にいいよね。許してね。いくらでも胸も脚も見せてあげるから。

「よく分からないけど、元気出しなさいよ。…ほら、一時間目はあんたの大好きな化学よ。有機化合物の暗唱でもしてたら?」

 由美ちゃんにそう言われて、私は鞄を開ける。そっか。一時間目化学か。今は有機化学の範囲じゃないけど、有機化合物の加水分解のページでも眺めて元気を出そう。

 そう思って化学の教科書を取り出そうと鞄を大きく開けた時、それは顔を見せた。


 その日は、いつもと変わらぬ日常のはずだった。


 ドンガラガッシャンドッカーン!!!!

 音を立てて椅子と机が倒れて、教室中の音という音が止まる。

 そのクラスメイト達の視線の中心は、鞄を抱いている私。

 いつもなら耐えられない状況だが、今は周囲の視線を気にするほどの余裕はまったくなかった。

 何で!? どうしてこれが鞄に入ってるの!?

「どっ、どうしたの? 大丈夫? 顔色凄いわよ?」

「わっ、わたっ、ちがっ…」

 …隠さなきゃ!!

「ちょっと行ってくる!」

 私は無我夢中で教室を駆け出した。


 その日は、おそらく人生で一番変な日だった。


 我武者羅に全力疾走していた私がたどり着いたのは、いつもの部室だった。…そうか。ここなら小道具入れにでも入れておけば、1日くらい誰にも気付かれないかもしれない。幸い、誰も使わない小道具などいくらでもある。

 私はカラカラと音を立てて扉を開いて、しっかりと扉を閉める。鍵もきちんとかけておいた。

 キョロキョロと部室を見回す。小道具、どれが一番使用頻度が少ないだろうか。…あのロッカーの上のダンボールは誰も使ってないな。

 適当な箱に目星をつけると、急いで行動を開始する。

 靴を脱いでパイプ椅子に足をかけてダンボールを下ろす。意外なほどに軽いそれは、何だかよく分からないガラクタばかりが入っていた。丁度いい。全部入りそうだ。

 私は鞄に入っていた、棒状のそれを取り出す。

 うわぁ…えっちな形してるなぁ…まぁ全部自分で買ったんだけどね。こんなに恥ずかしい思いをしたのは妹に診られて以来だ。…そうか。これ妹の嫌がらせだ。お菓子を食べたのを怒っているのだ。

「…まさか、こんなことするなんて…」

「…え? バイブ?」

 ドンガラガッシャンドッカーン!!!!!

 ダンボールと鞄、そしてパイプ椅子をなぎ倒しながら、私は地面を転がる。だっ、誰!?

「うぉ…しかもこれまた大量な…」

 鞄の中身がすべて露になり、地面を転がる。

 …。

「ぅ…」

「う?」

「…ぅわぁぁああん! もうヤダぁ! うぇぇえん!!」

「わっ、ちょ、泣くなって」




 ハルちゃんの小さな手に頭を撫でられながら、涙を拭う。

「まさかお前がこんなもの持ってるとはなぁ」

「私がっ、鞄、入れてない、もんっ…」

「おーよしよし。いきなり部室に入ってきた時は何事かと思ったけど、これを隠しに来たのか…」

 ハルちゃんは私が部室を訪れた時には、すでにいつものように部室で寝ていたらしい。そう言われれば、部室の鍵は私が来た時には開いていた気がする。

 ハルちゃんが私を抱き締めながら、鞄から覗いている私の(擬似)彼氏をまじまじと見る。

「はるっ、ちゃんも、私、変態だって…」

「あ、いや、まぁ、ぶっちゃけ地味に引いてるけど…」

 もう私、変態だよぅ…。無意識に後輩のおちんちん握っちゃうし、独りえっちするときオモチャ使うし、妹にばれちゃうし…。

「…しかし、実物初めて見たな。フィクションにしか存在しないのかと思ってた…」

「ぐすっ…そう、だよね…普通、使ったことないよね…私、変態だよね…もうずっと、この先、変態として後ろ指さされながら生きていくんだ…」

「…あー、これって気持ちいいもんなの?」

 ハルちゃんがダンボールに私のオモチャを仕舞いながらそんなことを言う。そんな、変態がぐっちょぐちょの卑猥な所で咥えたオモチャなんて汚いからその辺に捨ててもいいよ。ついでに私もその辺に捨ててくれないかな…。

「…最初は、中に入れても、痛いだけだったけど…その…外、弄るより、好きになっちゃって…」

「へぇ…まぁ、ウチはお前のこと、変態なんて言えないよ。その…えっと、ウチは中になんて、指しか入れたことないし…その…そういう気持ち良さ全然知らないわけだからな。もしかすると、ウチもその内こういうのに手を出すかもな」

「…でも、引いたでしょ?」

「それはまぁな。これほどの衝撃を受けたのは、父親のAV見つけた時以来だな」

「やっぱり…」

「でもさ、ウチ、今でも親父と仲良いぜ? 当たり前だけどさ、別に親父が1人の時にAV見てようが、ウチに近親相姦とかそういうのするわけじゃないし。お前もこういうのを1人でする時に使ってるだけで、別にウチに何かするわけじゃないんだろ? だったらお前が変態だろうとなかろうと、何も問題ないさ」

「でもぉ…」

「ま、あれだ。何か気になるんだったらいつでも言って来いよ。部長として適宜指導してやるさ」

 ハルちゃんはにこっと笑って、ダンボールを元の場所へと戻したのだった。


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