4 死勝
守道は何度も立ち向かった。
その度に、蛸男は触手でそれを跳ね除ける。何度転がされても何度でも立ち上がって殴りつける。
ついには鬱陶しくなって、蛸男は少女を手放し、「先にお前から殺してやる」という面持ちで守道の腹に触手を突き刺した。
蛸男の触手は筋肉でできていた。
とても硬く、しなり、刺さる。
守道は腹に力を込めもう一歩を踏み出して、頭をアスファルトの破片で殴りつけた。「グエ」という悲鳴をあげて、蛸男は守道を突き放そうとするが、しがみつく。
何度も、何度も頭を殴った。地面に叩きつけられても、それでも殴りつける。何度も何度も。動かなくなるまで全力でやれば、こんな蛸もどき殺してしまえるはずだ──と。
力が欲しい。けれど、力というものは欲しがったところで、才能や機会がなければ、どれだけ努力しようと手にはいらない。
だったら、そうならば、蓄積された怒りの全部で人の頭をしているこの化け物を殺すくらいわけないはずだ。
だから、殴る。殴る。殴る。
地面に叩きつけられても……殴る。殴る。殴る。
腹の中を抉られようとも……殴る。殴る。殴る。
頭を潰されようと……殴る。
内臓が破裂しても……殴る。
右の眼球が外にはみ出そうとも……殴る。
そうして返り血で上半身が真っ赤に染まりきったころ、ようやく蛸男の命が消えた。このま触手が刺さってくれていれば止血に放ったろうが、そうはならなかった。
なんと、死んだ蛸男は塵になって消えてしまったのだ。次の瞬間、腹のなかに溜まっていた「もの」が外に全部でた。
まるで、袋にためていたミンチの肉があふれかえるように。
内臓だとか、砕けた骨だとか、血管だとか、潰れた肉だとか……そういうものが全てドバッと外に溢れ出た。
頭も潰れて脳みそがたれていたので、もちろん死ぬ。
しかし、どうやら死までの時間はゆっくりらしい。痛みすら冷たくなっていく長い時間。「あの少女はちゃんと逃げられたろうか」「あの少女はちゃんと家に帰られたろうか」と考える。
もし、どこかで迷って泣いていたら、助けに行きたい。
……。
『たすけて』
声がした。
『たすけて』
助けを呼ぶ声がした。
守道は動こうとしたが、動けない。なぜか動く腕を動かして、立ち上がろうとするも、できない。腹のあたりを触ってみると、ドロっとしたものと、それを吐き出すペラペラの革袋があるばかり。
『たすけて』
その声はすぐ近くで聞こえた。
左の眼球がぼやける視界でかろうじて見たのは、赤く大きな瞳をひとつだけを持つ、白い怪人。その怪人はその赤い瞳からボロボロと涙を流している。
感覚が消えていく。妙な温もりが頬に宿る。
『死なないで』
おそらく、その怪人が自分の頬を撫でているのだろうと感覚で理解。守道は「死にたくないけどさ」と思った。
『なら、わたしがあなたの命になる』
命に?
『生きて』




