13 悲哀
〈こおりやま〉に戻ると、小夜がいた。
「あれっ、お客さんまだいたんですねっ。お酒でお悩みですか?」
「あなたを待ってた、って言ったらどうする?」
「えっ? 照れちゃうなあ。ホント?」
「酒で悩んでたんだ」
「ですよね! 俺のアドバイス役に立つかな。ぜーんぶ! おいしいですよ! 試飲させてもらったことあるんですけど、これなんて結構すっきりと通っていくような辛口のやつで、日本酒なんですけど洋食なんかにも合うんです。お魚料理? とかです! よね! オヤジさん」
「元気だなあ、お前」
「俺、それだけが取り柄なんで」
ぶいぶい、といつもの蟹のようなジェスチャー。
「君を見たら、なんだか安心してきたな。また来るよ。後日」
「はい、またあとで! まだお悩みのようでしたら一緒に悩みましょうね!」
「はは」
小夜は守道の肩をぽんぽんと叩いて帰っていってしまった。
小夜の乗る車が去っていくのを見送って、三郎が「お前モテるなあ」と言った。
「えっ、俺ですか? モテませんよ」
「嘘つけぇ。どうせ、高校生の時とかモテモテだったんだろ」
「いやあ〜〜。それないですね。あっ、でもなんか三年生の時に、バスケ部にいた後輩から聞いたんですけど、なんかちょっと自分の世界に入り込みすぎてる感じの子がいると、『大滝枠』って言われてたらしいです」
「そういう扱いなの? 可哀想……」
明子も彼と同じ高校に通っているのだが、「尾田空明」という同級生が大滝枠扱いされているらしい。
妹として複雑な気持ちなのだと言う。
「でも俺ってあんまりマイペースとかじゃないんで、そこら辺はちょっとムッとしますよね。という感じなんで、俺モテたとかはないですよ。彼女も彼氏もひとりもいませんでしたし」
「わかったわかった」
「いませんでした」
「悲しいなあ」
悲しいなあ。




