修学旅行〜3日目ノ参・思いの欠片
思いは人それぞれ。楽しいことも、悲しいことも、人それぞれの思いがある。
そして、人を想う時も同じ。大切な人を想う時、それは自分のことより、強くなる。
「樺沢、ほら、これ。田宮も。」
席に座ると、前にいる宮﨑から、美味しそうな焼き菓子が渡された。
「あ、サンキュ。何これ?誰から?」
「おーい、これ、誰から?」
オレの代わりに、宮﨑がバス中に響く声で叫んだ。
「あ、それはクラス費から買ったお菓子!みんな、今日は疲れたでしょ?ご飯の前だけど〜。」
と、返してきたのは、澤田さんだった。
「なんだよ、今日は澤田が母ちゃんか?ご飯前とか?」
田内が笑うと、澤田さんが、
「は?何かしら?はい、田内くん、没収〜!」
そう言って、田内の手から、お菓子を取り上げてしまって、田内は慌てて謝って…。
数分のやり取りあと、なんとかお菓子を貰うことが出来た。
「くー、女子、強えよ。」
「だな。逆らわない方が、身のためだぞ。」
石川が小声で言うと、オレたちみんなで笑った。
この時食べた焼き菓子は、クラス全員の優しさや、そこからくる温かさのようで、バターの風味が口いっぱいに広がった。
「樺沢、今日は1日、どうもなかったのか?疲れてない?大丈夫か?」
あっという間に自分の分を食べ終わった宮﨑が、もったいなくて、まだ、モソモソと頬張っていたオレを振り返って、聞いてきた。
「あ、うん。大丈夫。ありがとな、宮﨑。ずっと、気にしててくれたよな。」
そう、今日一日、宮﨑は、ちょいちょい、オレを振り返ったり、フードを覗き混んだりしてきてた。
でも、それで、何か言うわけでではなくて、希良や輝、石川や佐野、他の誰かが一緒にいれば、そこに入ってくる事は無いし、オレが「何?」って感じに、笑いかけると、安心したように、すぐに離れて行っていた。
「いや、別に…。フードとか、暑かったんじゃないかと思って…。なら、良かった。」
照れたようにそう言って、ふいっと前を向いてしまった。
その様子を見ていた希良が、誰にもわからないように、オレの背中に手を回して、ギュッと、掴んできて…。
何も言わない、希良の気持ちを感じて、オレは、希良の肩に頭を乗せた。
それから、その日の宿に向かうバスの中で、希良が昨日の夜の、たく兄とのやり取りを、話してくれた。
「SNSにどんな風に上がってるのか、オレ、どうしても、気になって。
でも、自分が見に行って、足あと、残ったら、嫌だし、どうしたらいいのか、たく兄に相談したんだ。」
希良が気になったっていうのは、よくわかった。
でも、そうか、希良はその時、たく兄に相談したいって、そう思ったのか…と、やっぱり少し、複雑な気持ちがした。
もちろん、そんなことは言わずにいたけれど。
「そうだったんだ。それで?」
「ほら、今日のこと。パーカー着るとか、先生たち、親に許可取ったって、言ってただろ?それ、みずきんちから、いち兄たちにも、もう伝わってたみたいで。メッセ送ったら、すぐに電話かかってきて。大丈夫なのかって。」
多分、オレの母親が、学校から話が来て、すぐに叔母さんに相談したんだと思う。
ウチの父親は、帰りが遅くて、仕事中、連絡が取れないことも多いから、それは良くあることだった。
そして。きっと、その後、叔母さんも心配になって、いち兄とたく兄に話したんだろう。
オレには、なんの連絡もなかったのは、逆に心配して、圧になるといけないから、下手に連絡するのはやめよう、ってことになっていたのかもしれない。
「なんか、ごめんな。オレたち、そういうの、疎くて…。」
そうなのだ。
オレと輝は、SNSとか、ぜんぜんで。
それでも、輝はアカウントを持っていて、たまに覗きに行くことはあるみたいだけど、オレに関しては、アカウントさえ持っていないから、希良の相談相手には、あまりにも足りないのだった。
「いいんだよ。みずきは、それで。
でな、たく兄、いち兄にも相談してくれて、捨てアカっていうの?作って、探してくれたんだ。」
そして、見つけた、オレたちを晒した投稿を写メって、送ってくれたそうで。
「見なくていいよ。大したことない、ホント、ただの隠し撮り。
確かにバスとナンバープレートが写っていて、オレらも3人で、バスの前にいたところを取られてたけどな。正面からじゃなかったし。
まぁ、ちょっとだけ、動画があったのがな…。でも…。」
気にしなくて、大丈夫、と、もう一度、まるで自分に言い聞かせるみたいに言って。
「だから、さっきの動画?送ったんだ。
3人とも、元気で楽しく、やってるからって。」
「そか。ありがとな。」
「いや、逆に、勝手に、悪かったな。でも、たく兄たち、安心したって。あ、まち姉も。」
「悪いなんてこと、ないだろ。
オレ、そういうの、気が回らないから。
家族に、何枚か、写真は送ってたけど。」
そう言いながら、自分のスマホを取り出すと、画面いっぱいにメッセージの着信を知らせる通知が出ていた。
「え、何これ?あ、そうだった!
目黒さんとの写真、送ったら、なんだか大騒ぎになってたの、面倒だから、放っておいたんだ。すっかり忘れてた。」
オレは、慌てて、アプリを開いた。
「は?何それ?目黒との写真って?どういうこと?」
希良が尖った声を出して、オレのスマホを取り上げようとした。
「いや、だからさ。」
「だからって?何?そんなの、いつ撮ったんだよ。見せろよ。」
「もー、ちょっと、落ち着いて、見せるから、きら!」
その様子を、気まずそうに振り返って、目黒さんが見ていた。
希良からは見えない角度で、オレは「気にしないで」という意味で、にっこり笑いかけた。
「なんだよ〜これ?カップルかよ?ラブラブじゃん!」
オレが撮った、目黒さんとのツーショットの写真は、希良のお気に召さなかったらしく、ふくれっつらが治らない。
「かがやに送ってやる!」
何の腹いせなのか、そんなことまで言い出す始末だった。
「もー、やめろって。そんな、わざわざ送らなくても、後で見せるし。返せよ。姉ちゃんたちにも返信しないとだから。」
そう言って、何とかスマホを取り戻すと、やっと、まち姉、ちい姉からのメッセージを見た。
でも、そこに書かれた言葉の数々を見て、さらに、というか、ますます、というか…とにかく、ぐったり、してしまった。
「どうした?みずき?」
希良がさすがに心配そうに顔を見てくる。
「いや、別に…なんでもない。」
「なんでもないって顔じゃ、ないだろ?何?怒った?」
「そうじゃない。もーいい。疲れた。寝る。」
そう言うと、脱いで、ヒザの上に抱えていたパーカーのフードを逆向きに被って、寝たフリをした。
心配になったのか、希良の手が肩に回ってきて、引き寄せられると、希良の肩に頭を乗せられて…小さい声で「ありがと。」とだけ言ったけど、希良は何も言わなかった。
姉ちゃんたちからのメッセージは、2人とも、言い方は違えど、まったく同じ内容で。
だいたい「目黒さんを、ちゃんと見たい!」との、あまりに強い2人からの要望があったから、さっき、海辺でツーショットを撮った時に、本人に許可を得て、送ったのだけど。
返ってきた言葉は、「文化祭のコスプレしてる時より、ずっと可愛い。」に、始まって。
「お似合いだよ。」とか、「ラブラブが過ぎて、尊い。」とか、「もう、告白したの?」とか、「告白するなら、今日がチャンスだよ!」とか。
最後には、「ちゃんとウチに連れてきて、お母さんに紹介しなさい。」とまで、書いてあって…。
写真を送る時に、オレが付けたメッセージは、『目黒さんだよ。』の、一言で。
何の情報も与えてないのに、よくぞここまで、勝手に盛り上がれるものだと、感心を通り越して、疲労困憊してしまったのだ。
しかし…その波紋は、また別の方向から返ってきた。
「あれ?かがやだ。」
希良とオレのスマホが同時にブルって、先に見た希良が、言った。
「なに?」
希良の肩にもたれたまま、パーカーを少しずらして、希良を見た。
「いや、あー、これは…。ヤバいな。」
「え?どういうこと?」
「うーん、かがやにスイッチが入ったっぽい。」
そう言われて、オレも、自分のスマホが取り出して見た。
「え?うわぁ、マジかよ。なんで?なんで、こんな話になってんだよ?」
希良の肩から起き上がったオレは、思わず、希良を問い詰めてしまった。
『今、兄ちゃんから、メッセきて、みーくんの彼女の写真、見たって?可愛いなって?!
お前、フラれたんだろ?って、そう言われたんだけど!どういうことだよ!』
輝からのメッセージは、間違いなく、VS慧さんのスイッチが入ったことを示していた。
希良とオレと輝のグループに送ってきたってことは、多分、その彼女が目黒さんだって、見当はついてるはずなのに。
「もー、ヤバすぎるだろ、これは。何、流出させてんだよ、姉ちゃん。マジで、勘弁して。」
「どうするよ。これ、簡単に治らないぜ。クールビューティーかがや、崩壊だ。」
慧さんはここにいないから、誤解を解くことも、輝が言い返すことも出来ない。それが厄介だった。
「ちょっと、何か、考える。かがやが慧さんに、言い返して、スッキリすること、てか、ネタ。まち姉の。」
オレは何とかして、それを考えようと、頭を捻りはじめた。
「頼むよ、みずき、考えて!」
そこから、ホテルに着くまでの間、眠るどころじゃなくなった。
修学旅行、最後の宿、長崎のホテルに着いた。
いつもより、遅い夕食を食べて、風呂に入って、寝るまでのルーティン。
昨日までは、その時間も大騒ぎだったけど、さすがに今日は遊び疲れて、みんな、なんだか静かだった。
輝は、宿に到着するなり、オレたちのところに詰め寄ってきたけど、目黒さんとの写真を見せて、ワケを話すと、その場では、分かったと言って、それ以上は、周りの目を気にしたのか、何も言わなかった。
「そうだ!お土産!」
食事をしている時に、松尾が、家族に買ったお土産のことを話しているのを聞いて、思いついた。
「きら、そういえば、昨日、絵付け体験したところで、オレの分のお土産も買ってくれたって、かがやと、そう言ってたよな?」
「お、そうそう。忘れてた。あれから、色々あったから。」
希良も言われて、思い出したようだった。
「今日、この後、風呂の後に、選ぶ?かがやに声かけて。どっか、あるかな?良い場所。」
希良がそう言いながら、輝の方を伺っている。
「まち姉の好きなお土産、かがやが買ったってのは、どう?」
オレの言葉に、振り返って、希良が笑う。
「ちょっと弱いかもしれないけど、いいと思う。」
オレも、笑って、頷いた。
「ヨッシャ!言ってやった!」
輝が満足そうに、スマホを見ながら、ガッツポーズをしてる。
『言ってろよ。オレは、まち姉が好きだっていうお土産、みずきと一緒に選んで、買ったからさ。きっと、喜んでくれるな。』
そう書いた輝のメッセージに、慧さんから、
『なんだよ、それ?』と、返ってきて、輝は、それを既読スルーにした。
オレと希良は、その様子を見て、やれやれと、顔を見合わせた。
「で、ホントはどれがいいの?」
やっと、いつもの輝に戻って、並べたお土産を差してくる。
「あー、これ。なんか、ジャムが挟んであるヤツだよな?まち姉、こういうの、ホントに好きだからさ。
あと、明日、長崎で、リクエストされてるびわジャム、買うから。それで、コンプリート。」
そう言って、オレと輝がハイタッチした。
「ホントにー、兄弟喧嘩は2人だけでやれよな〜。」
希良が呆れてそう言うけれど、一人っ子の希良は、ホントはこういうの、少し羨ましいと思っているって、よく分かっているので、輝は「ごめんな。」と、言うだけで、それ以上は何も言わなかった。
「あ、あとさ、これはちょっと、お土産じゃなくて。」と輝が、目の前にあった巾着袋を手に取った。
「吉野ヶ里遺跡で買ったんだ。3人で持ちたいなって。」
色違いで、柄も違うけど、ちゃんとお揃いって感じがするそれは、少し大きめで、お弁当を入れたりするのにちょうどいい大きさに思えた。
「えー、いいじゃん!これ。よく見つけたな。いくら?」
希良が巾着を手に取りながら、はしゃいだ声を上げる。
「良いよ、オレから、2人に。」
「なんで?払うよ。そんな。」
オレがそう言うと、今度は希良が、
「あ、じゃあ、これは、オレから。」
そう言うと、持っていた袋の中から、タオルハンカチを3枚、出して、並べた。
「昨日、博物館で買ったんだ。色違いで持ちたいなって思って。輝の方がセンス良いけどな。」
「えー、なに?今って、そういうときなの?なんだよ、オレ、帰ってからって、思ってたのに。」
希良の後を受けて、オレもそこに、太宰府で買ったシャーペンを3本並べた。
「学業御守だって言うから…。3人で持ちたいなって。まぁ2人は、お守りなんていらないけどな。必要なのは、オレだけだけど。
それに、なんか、オレが一番、センスねー!色違いでも、なんでもないし。」
そう言って、2人を見ると、何故か2人が目を潤ませていた。
「え?どうした?」
「いや、ちょっと、嬉しくて。」
輝が何か、噛み締めるように言った。
「そう、だな。みずきは忘れたかもしれないけど、前にもあったんだ。みずきがシャーペン、お揃いで買ってくれたこと。」
希良にそう言われて、オレは驚いて。
「そんなこと、あった?いつ頃?」
「中三になって、すぐくらいかなぁ。みずきが家族で京都に行って、北野天満宮で、やっぱり学業御守だって、買ってきてくれたんだ。
あの時も、今と同じ、『お守り、必要なのはオレだけ、だけど。』って、言って。」
希良はそんな風に話して笑っていたけど、輝は何故か、黙ったまま、ジッと、巾着とハンカチと一緒に並んでるシャーペンを見ていた。
楽しい一日を過ごした後には、色々な意味で、色々な思いが溢れてくるものです。
ここまで、ちょっと平和でしたが、次回は、輝くん、ツラい回になっちゃいます。みんな、頑張れ!(え?)




