出会い・回想〜希良と瑞稀と輝
振り返ると眩しい時間でも、後味が苦くなることがある。けれど、その苦味は次の眩しい時間につながっていく。すべては人生を風味絶佳とするために。
※3人の出会いを、イケメン目線で振り返ります。
「あ、ごめんな、こんな時間に。大丈夫?今。」
輝と電話で話すなんて、中学を卒業してから、初めてかもしれない。
夏休みに入ったとはいえ、もう11時近くだったから、電話する前に一度、LINEで確認していた。『これから電話したいんだけど、大丈夫?』って。
「うん、大丈夫。オレも話したかった。きらと。」
「そか、良かった。でも、疲れてるだろ?ごめんな。今日、ちょっと色々あったし。わけわかってなくて、大丈夫だった?かがやから見て、オレ?」
何を言ってるか、ちょっと変な言い方になってしまったが、輝はちゃんとわかってくれる。
「いや、大丈夫だったよ。あの状況に後から混ざって、良く着いてきたと思う。ぜんぜん、問題なかったし、ていうか、みずきにあんなこと急に言われたのに、ちゃんとフォロー出来るなんて、さすがだよ。」
「あー、それは、店に入るまえに、たく兄に聞いてたから。みずきが今日、良い方向に様子がおかしいらしいって。あ、ってか、図書館のところで会ったってのも、偶然じゃなくて。」
「え、そうだったの?てか、良い方向におかしいって、何それ?」
輝の笑い声が耳に心地良い。
「うん。確かにな。
今日、模試終わってから、2人の試合の結果、気になって、オレの方から、たく兄に連絡したんだ。そしたら、これからみんなで集まるから、来いって言われて。」
輝や瑞稀と一緒に過ごすことが出来なくなってから、オレは瑞稀の従兄弟のいち兄とたく兄を頼って、支えられ、励まされてきた。
輝と違って、部活も、登下校も別だったから、2年になって、クラスが同じになるまで、瑞稀と顔を合わせることもほとんどなくなってしまって。
校舎の窓からたまたま見かけた、部活中の2人の仲良さそうな様子に、号泣しながら電話したことも、一度や二度とじゃない。
ひとりっ子のオレにとって、この2年で2人は本当の兄も同然の存在になっていた。
「きら…なんか、ごめんな。」
「え?なに。急に。」
謝られるようなことは何もないのに。
「部活が一緒だからって、オレはみずきといて。登下校も。お前は離れて見てるしかなかったのに。特に最近…。」
「それは、かがやのせいじゃないし。謝ることじゃないよ。この前は、ちょっと、絡んで、悪かった。」
「でも!」
「それなら、今までのこと、何もなかったようにみずきの側にいる方がつらかったんじゃないの?」
そう、いつもオレは自分にそう言い聞かせてきた。
オレだったら、自分のことを全部忘れた瑞稀と何事も無かったように一緒にいるなんて、辛過ぎて、部活をやめてるかもしれないけど、輝は瑞稀を見守ると決めて、ずっとそれを実行してきた。
「それは…。」
電話の向こうで、輝が黙った。多分、色々、我慢してるんだと思う。
輝は強い。オレなんかよりも、ずっと…でも。
「かがや、我慢するなよ。オレは、わかっているからさ。お前はすごい。」
ちょっとの間があって、しゃくり上げる声が聞こえてきた。
「きら…。」
「うん、大丈夫。」
しばらくの間、そのまま、輝が泣くのを聞いていた。何も言わず。
「今日、みずきが、この前オレたち2人でアイス食いに行ったって知って、『オレも一緒に行きたかった。』って言ったんだ。」
落ち着いたのか、輝が話しだした。
「そっか。それは嬉しかったな。」
「うん。それだけじゃなくて、『前は良く3人で寄り道したじゃん。』て。」
マジか。そんなこと、急に言われたら、オレは普通じゃいられない。
「かがや、それ言われて、大丈夫だったのか?」
「大丈夫じゃなかったけど、言ったみずきの方が動揺してたから。だから…。」
電話の向こうからまた、抑えた泣き声が聞こえてくる。
「かがや、泣いていいから。良く頑張ったな。」
そう言いながら、オレも泣きそうになる。
「今日は勝ちたかったんだ。みずきと一緒に出る、最初で最後の大会だったから。ホントに。だから、頑張った。」
「うん、わかる。で、負けなかったんだろ。お前はすごいよ。」
「ありがと。きらもな。すごいよ。」
何、褒め合ってんだよ、オレたち、と情け無い気もするけど、今はいい。多分、輝もそう思っていた。
「でも、これから予備校行くの、ちょっと気をつけないとだよな。」
一頻り泣いて、落ち着いた輝が冷静な声で言った。
そうだった。3人一緒に同じ予備校に通うことにほぼ決まって、オレはかなり浮かれていたけど、3人で行動するということは、前のようなことが起きる可能性があるんだ。
ゾクッと、背中が震えた。
「きら、大丈夫?」
「おぉ、うん、まぁ。確かにそうだな。でも、オレたちも、あの頃とは違うから。きっと、大丈夫だよ。」
少し強がりだったけど、そう思うこともあるから、いや、思いたいから、オレはそう言った。
中学時代、オレと輝の間にはいつも瑞稀がいた。
瑞稀は純粋で、愛嬌があって、癒し系の可愛い小動物みたいだった。
兄弟のいないオレにとっては、同い年だけど、弟みたいだったし、オレがひとりっ子特有のわがままを言う時は、兄貴のようにたしなめられることもあった。
そして、何よりも、オレと輝の外見に対して、ストレートに憧れるとか、カッコいいとか、可愛いとか言ってくる、変なヤツだった。
オレは外見のことを言われると、その時点で言った相手にシャッターを下ろすクセがある。
そのきっかけは幼稚園時代。
いつも仲良く遊んでた、りす組のこう君が、ある日突然、こう言ったのだ。
「きらちゃんは可愛いから、仲良くしなさいって、ままに言われたから、仲良くするの。」と。
こう君は本当はきりん組のたかちゃんの方が好きだったらしい。
無邪気な子どもの罪のないひと言。
でも、オレの子ども心はそれなりに傷ついたし、そこから母親に連れられて「仲良く」しにくる子には、心を許せなくなっていった。
そんなオレと瑞稀は中学1年になってすぐに席が隣同士になった。輝は同じクラスだったけど、ちょっと離れた席だったと思う。
ある日シャーペンの芯が切れてるのを忘れてたオレが、筆箱を漁りながら、カチカチと音を立てていると、隣から、スッと音もなく、シャーペンの芯がケースごと差し出された。
「オレ、いつもBなんだけど、良かったら、使って。」
「あ、ありがと。オレも2B使ってるから、平気。悪い、もらうね。」
お礼を言いながら、何にも考えずにオレは笑って。そしたら、それを見た瑞稀は。
「田宮君ってほんと、可愛いよね。笑うとなおさら。」
そう言われてオレは思わず、シャッター下ろしそうになったんだけど。
「一緒に話してて、楽しいし、意外にヲタクで、面白いし。そこにその笑顔が来るんだもんな。オレ、めっちゃ好きだわ。」
そう言って、ケラケラと笑ったんだ。
オレはその時、なんか、下ろしかけたシャッターをこじ開けられたみたいな、変な気分になったけど、顔も性格もひっくるめて好きって言われたと勝手に思って、瑞稀のことが大好きになった。
「田宮君、じゃなくて、きら、でいいから。」
「あ、いいの?じゃあ、オレもみずきで。」
オレたちの付き合いはこうして始まった。
舞台が2人一緒のソフトテニス部だったという違いはあっても、輝の方も、似たようなものだった。
歴史好きの輝が、ふとした時に話したことに食いついた瑞稀が同じように言ったらしい。
「保里君って、オレの知らないことたくさん知ってて、その上、そんなカッコいいなんて、すげぇな。オレ、好きだわ。」
と言って、やっぱりケラケラと笑ったらしく、輝はその時、心臓を撃ち抜かれた、と言っていた。
後で聞いたら、従兄弟にすごいイケメンがいるから、イケメンには耐性があるんだとか、訳のわからないことを言っていた。
確かに、その後紹介されたいち兄とたく兄は話の通り、いや、それ以上のイケメン兄弟だった。
それから、オレのことも、輝のことも、ちょいちょい「カッコいい」とか「可愛い」とか、たまに「顔面偏差値がヤバい」とか言ってくるのに、瑞稀が言うとそれが大したことじゃないって気持ちにされるのが、オレも輝も不思議で仕方なく、そして心地よかった。
「ちょっとやそっとのイケメンには、驚かないんだけどさー。正直、きらとかがやには流石にやられたんだよね。」
そう白状したのは、2年になってから、修学旅行の夜だった。
「やられたって、なに?」
瑞稀と小学校からの友だち、郡司がつっこんだ。
「えー?まぁ、好きになった?ってこと?」
「え、そうなの?」
もう1人の班のメンバー、松本がわかんないなぁという感じで言った。
「え、じゃあ、結局、顔?」と、再び、郡司。
「違うよ、そういうんじゃなくて。」
なんていうのかなぁ…と瑞稀が枕に顔を埋めて、ジタバタしてた。
瑞稀の言葉、本当の意味はわからなかったし、今もわからないけど、輝もオレも、ただ嬉しかったことを覚えてる。
そこから、オレたちの瑞稀に対する愛情というか、執着というか、なんかそういう色々がどんどん増していって。
そのせいで、色んなトラブル、瑞稀が嫌な思いをすることもあったけれど。
でもまさか、それが、あんなことになるなんて、あの頃はオレたちは、想像もしてなかったんだ。
修学旅行ってBLの世界観では、萌えポイント高いですよね。今回、中学の修学旅行が少しだけ出てきましたが、そのうち、高校の修学旅行も書きたいと思っています。
多分、まだまだ先になりそうですが。




