学園でのイベント1
35話
次の日、学園のイベント会場は異様な雰囲気に包まれていた。
過去に何回か行われているこの名物イベントではあるのだが、大体が似たり寄ったりなものが出てくることが多かった。
だが今回は、Dブロックで出てきたのは見たことのないものだった。
濃厚な食欲を刺激してくる圧倒的な匂い、スープは濁っているが一口飲めば病みつきになってしまう。
中に入っている麵というものはスープと絡んで口の中に満足感を運んでくる。
それだけでは物足りなさそうなところに、ボア肉と思われるが決してボア肉と思えない柔らかさと、臭みどころか少し甘い香りを漂わせているこのチャーシューと呼ばれるものがすべてを埋めてくれる。
さらにチャーシューをスープにつけるとまた違った味わいが生まれ結果手が止まらなくなる。
普段は一口食べてはコメントを出す審査員たちが無言ですすり続ける。
見ている生徒たちもそれを見て口の中に唾があふれてくる。
ただただ麵をすする音とスープを飲む音だけがそこにはあった。
司会者が気を遣って審査員にコメントを求めようとしても、審査員はその時間さえ惜しいと言わんばかりに食べ続けたのだった。
はっきり言って司会者は泣きそうだった。
審査員全員がスープまでのも干した後で発した一言は「お代わりはないのか。」だった。
よそのブースはそれなりに盛り上がっているのにここだけは唾を飲み込む音だけが響いたのだった。
そのあと委員会室では司会者たちが話し合っていた。
「今回もブル肉のステーキが優勝ですかね。」
「毎回圧倒的人気ですからね。」
「Aブロックではアヅチが干物って言うのを出してきたけど美味しかったみたいよ。」
って話してたらドアが開いてDブロック担当が戻ってきた。
「もう最悪だよ。」
「何があったのよ。」
「審査員が途中で料理を拒否しだして。」
「そんなひどいものがでたの。」
「違うの逆。逆なの2品目に出たエルウッドの品がすごすぎて、審査員がお代わりを要求してくれないなら残りの審査はしたくないって言いだしちゃって。」
「結局、審査してくれたんだけどコメントがひどいのよ。」
「それは大変だったね。」
「決勝は誰が司会だっけ?」
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そんなこんなで予選を余裕で突破できたわけだが、決勝の審査をする人でもめてるとかで予定を過ぎてもまだ開始されていない。
「義兄様予選すごかったですね。」
「あんな審査員の方々わたくしもはじめてみましたわ。」
「食べたらわかるさ。終わったら一足先に食べさせてあげよう。」
そんなこんなで30分遅れでイベントが再開された。
審査員席には学園長を加えた全20人が座っていた。
この異様な光景に会場はざわついている。
「え~皆様静粛に、静粛に。今回の決勝に関しては審査員の熱烈な希望により全審査員での審査になります。」
なんとなくの想像だがDブロックの審査員がもめた結果じゃなかろうかと思う。
「では皆様急遽ではありますが人数分の料理をお願いします。」
って司会者がアナウンスしたので調理を開始する。
うちは審査が最後なので時間ギリギリに完成させるように調整して盛り付けていく。
最初はローランディア王国のブルのステーキ、審査員もおおむね好評だ。
次はアヅチの魚の干物を炙ったもの、そしてノーランド王国のキノコ炒めと審査員が食してコメントをしていく。
そしてついにうちのラーメンの登場だ。
Dブロックの審査員と学園長はそわそわしている。
そして審査員の前にラーメンが運ばれた。
器の蓋を開けた瞬間学園長とDブロックの審査員はスープを飲んで麵をすすり始める。
「ボアを使った料理だそうですけどボアには独特な・・・・・・。」
ってうんちくを述べている審査員を除いて全員が集中している。
それを見て語るのをやめて食べ始める。
生徒がたちが見守る中、審査員は何も言わずに食べ続ける。
司会の生徒も困っている。
いち早く食べ終えた学園長が「お代わりを要求するって」叫びだした。
司会の子がびっくりして固まってしまっている。
審査員が一斉に「おかわり」って声をそろえた。
どうしたもんかと思って司会者を見たが固まって動かない。
そこで学園長が「おかわりが欲しくなるくらい美味しかったわ。今回の1位はラーメンでした。例年通り明日から学園のグラウンドにて屋台が出されるから是非食べてみてね。」ってしめた。
会場はその声に大歓声が巻き起こった。
さて夜になって宿でリリスとリリイ、アンジェリカさん、学園長にラーメンをふるまった。
「義兄様これはやばいやつです。」
「美味い。」
「初めての食感がたまりませんわ。」
「ねぇ、これのレシピも頂戴。」
って感想が出てくる。
明日からのための試食なんですけど。
「メリッサさん残念ながらラーメンのレシピはゼスト商会と契約してるから渡せません。ゼスト商会と契約したら支店を出してくれると思いますけど。」
「残念だわ。あの会長捕まえるのが難しいから困るのよね。」
「じゃあ今度伝えておきますよ。」
「さすがミナト君ね。」
「明日からはカティア、プリシアを主力として補佐を頼んだよ。」
「おーほっほっほっほ。お任せあれですわ。」
この笑いを聞くとお嬢様キャラって感じになるよね。
次の日から大忙しとなってしまった。
生徒の列が途切れないのは仕方ないとして学園長にほかの教師が何回も並ぶんじゃない。
おかげで休憩を回しながらでもカティア、プリシアだけでは手が足りないから、リーナにユカまで手伝いに入ってもらわないとならなくなっている。
「兄さんきついで。」
「頑張ってくれ。無理になったら後ろの誰かと変わってくれ。」
レインは回収した容器を食堂の洗い場に運んでくれている。
ミレイヌが洗っている。
追加の食器が持ってこられるがどんどんなくなっていく。
チヨには無理だから彼女は休憩中の水分補給係だ。
「すまんが誰か洗い場に行って二人で洗ってくれ。」
「私が行きますわ。」
アンジェリカさんが行ってくれた。
そこからはセバスさんも加わってもらってスピードアップだ。
俺は麵をゆでながら、チャーシューを切り、スープを作る。
盛り付けは双子に任せた。
夕方には落ち着いたが、明後日からが大変だ。
生徒に加えて街の人もやってくるからだ。
そうなったら教師と学園長は禁止だ、そう伝えたら一般入場は今年は無しにしようかなとか言い出した。
そんなことでいいのか学園長さん。
まあ素材はたくさんあるし、スープも大量に作ってあるから大丈夫だと思うけどしっかり休憩は取らさないと倒れてもらっても困るからな。
こんなことなら城の誰か連れてきたらよかったって思っていたら双子が学園生で手伝ってくれる子を何人か連れてきてくれた。
もちろん給金を奮発しますよ。
次の日は応援で来てくれた子たちのおかげで助かった。
これなら何とかなるかなって思っていた。
3日目からは一般の人も入ってくる。
朝からどんどん注文が入りどんどんこなしていく。
順調に進んでいるところで邪魔が入った。
「おい。アンジェリカ婚約者である余をほっておいてこんなところで何をしている。」
「あっ、申し訳ございません。でもこれも学園生の仕事ですので。」
「そんなものは知ったことか。重要なのは学園より俺様だろう。こんなもの。」
そういってアンジェリカさんの持っていたラーメンごと彼女を蹴りつけた。
「きゃっ。」
熱いスープが彼女にかかったのに彼女を踏みつけている。
「やめろ。彼女の邪魔をするな。」
そう言って王子を引っ張ってどける。
「下郎が余に触れるでないわ。」
俺の手を払いのけるとアンジェリカの髪をつかんで連れて行こうとする。
「痛い、痛いです。殿下。」
それを見ていられず王子の腕をつかむ。
「やめろって言ってるんだ。わからないのか。」
「余の所有物に何をしようが貴様に関係あるのか。」
「今は俺の雇う従業員だ。彼女の安全を確保するのは俺の仕事だ。」
「ならば力づくで止めてみせるがいい。俺に何かすれば国際問題だぞ。」
殴ってやろうと思ったがグッとこらえる。
手を放そうと思ったらリーナとリオンと目が合った。
うなづいてくれたので離すのをやめて殴り飛ばす。
「き、貴様。余に手を出しおったな。これは大問」
うるさいのでもう一発なぐってから蹴り落とす。
王子は泡を吹いて気を失っていた。
すぐにアンジェリカさんを抱き起して屋台の後ろに連れていく。
中級ポーションを取り出して彼女にかける。
双子に頼んで医務室へ連れていってもらった。
並んでいたお客様に謝罪して急いで作業に戻る。
みんな並んでいた人は大丈夫ですって笑ってくれた。
その後は滞りなく捌ききった。
気を失っていた王子はそのまま放置されていた。
営業が終わってからリーナとリオンに謝った。
「すいません。俺のせいで面倒なことになるかもしれません。」
「気にしなくていい。ミナトが殴らなければ俺が殴っていたさ。」
「ミナトが殴ってくれてすっきりしました。」
「あとミナトは自分を低く見すぎだ。あんなくずを殴って国際問題だと騒がれようがエルウッド王国はミナトを全力で守るために動くさ。」
「そうです。ミナトはもう家族同然ですから。」
こんなふうに言ってくれる2人の気持ちが嬉しい、だからこそ迷惑をかけたくはないんだけど
「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。」
「さ。ミナトは彼女のところへ行ってあげてください。従業員のケアも仕事のうちでしょう。片づけはやっておきますから。」
そういうリーナに感謝して彼女を見舞いに行く。
医務室のドアを開けると下着姿のアンジェリカさんがいた。
「きゃあ。」
「ごめんなさい。」
そう言ってドアを閉める。
「もういいですわ。」
許可が出たので中に入る。
「義兄様のエッチ。」
「にい。狙ってた。」
双子の言葉が胸に刺さる、ミナトは痛恨の一撃をくらった。
「誠に申し訳ございませんでした。」
「大丈夫ですわ。こんなところで着替えていた私も悪いですし。」
「義兄様、もう少し早かったら裸のアンジェリカがみれた。」
「にい。惜しい。」
この双子は俺をどうしたいんだろうか。
「それよりも大丈夫ですか。スープ熱かったと思うのですが。」
「はい。それはあのポーションのおかげか何ともなっていません。それよりもまた助けてくださってありがとうございました。」
「それはいいんだ。君を働かせていたのは俺だ。だから俺が責任を持って君を守るのは当然のことだ。むしろ遅くなってすまない。」
「いえいいんです。それよりも我が国の馬鹿が誠に申し訳ありませんでした。」
「それこそ、アンジェリカさんは悪くないだろ。次にあいつがきたら今度は問答無用で殴るから。今度はアンジェリカさんに危害を加えさせたりしないよ。だから安心してくれ。」
「・・・・・・。はい。」
「姉さまが惚れた理由がわかる気がする。」
「にい。それは・・・・・・。」
とりあえず帰ろうか。
アンジェリカさんはここにいても危ないかもしれないから宿に連れて行こう。
双子も来るだろうか?
明日からはもっと気合を入れていこう。
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