678話 役満
町長からの報告を聞いて教会に向かうと、辺りは既に騒然としていた。
多くの野次馬が通りから覗き込むように敷地の入り口を塞いでおり、宙を蹴って教会の敷地内に飛び込むと、総勢15名くらいか。
揃いの白い装束に特徴的な高さのある帽子。
その中でも装飾具の数や衣のような薄布の重ね具合から、少なくともこの場には3種の異なる階級に属する教会関係者がうちに乗り込んできたことが分かる。
相手の出方次第だが、さて、どうしたものか……
教会の入り口で対応に追われているトレイルさんの所に向かうとすぐ俺に気付いたようで、その表情から教会関係者も何人かがこちらを振り返った。
「見て分からないのか? 今は取り込み中だ。敷地の外に出ていろ」
「いやいや、それはないでしょう。ここ、僕が治める国ですよ?」
歩みを止めずに言いながら近づくと、男達は訝しげな眼差しを向けてくる。
「治めるだと……?」
「つまり奴隷か囚人のような身形をしたお前がこの国の王――異世界人ロキだとでも言うのか?」
「そうですが?」
「「「……」」」
パッと見は鎖で繋がれているわけだし、今は服を預けたせいでこんな格好だからなぁ……
疑われるのもしょうがないかと思っていると、最も身形の豪奢な男が前に出てきて、値踏みするように目を上下させながら口を開く。
「その者が現れた途端にこの神官やシスター達が安堵した様子を見せたのだから、俄かには信じがたいが本物なのだろう」
「ルクレール司教……」
「まあこの神官ではラチが明かなかったのだから丁度良い。ではロキ王、これはいったいどういうことか、説明してもらえますかな?」
そう言って教会を手で示す、ルクレール司教と呼ばれた男。
まったく偉ぶりたいわけではないが、久しぶりに俺が異世界人であり王の立場にあると理解してなお侮蔑の眼差しを向けてくる連中が現れたため、なんとも言えない嬉しさから思わず身体がブルリと震える。
「これとは?」
「私共が認可もしていない教会を勝手に運営しておいてその言い草はないでしょう? 神具はラグリース王国の戦争で壊滅した町々から回収してきたのでしょうが、敬虔な教徒から同じ神具が複数並べられている教会があると報告が上がった時には我が耳を疑いましたよ」
「……」
「さらに本部で定められたお布施とは異なる金額を預かっているというではありませんか。民が女神様と教会に対して納めたそのお布施を、我々本部も通さず懐に入れていたのですか? であるならば、ロキ王がやっていることは教会への侮辱であり神への冒涜に他なりませんが?」
尊大に両手を広げ、まるで周囲に対し、この悪行を聞いてくれと言わんばかりの声で、高らかに異を唱える偉そうな男。
強い言葉で侮辱や冒涜だと好き放題言ってくれているが、俺が知りたいのはこの男がここに来た本当の理由だ。
一部事実とは異なるものの、それはそれで都合が良いかと下手に出ながら言葉を返す。
「すみませんね。まだ新参者で、教会本部とやらのルールをよく分かっていなかったもので。ちなみにお布施は元々の料金が高過ぎると感じていたので、利用しやすいようにステータス鑑定は無料に、職業選択は一律10万ビーケに下げて、この教会で働く人達の生活を支えられるようにしただけですけど、それは良くないことなのですか?」
「当然でしょう。それが最古の歴史を持つとされる教会の習わしであり規則なのですから」
「では、神具の移設の問題点は? あなた方が卸す神具は貸し出しではなく、販売という形態をとっているはずですが?」
以前にラグリースのヘディン王から、ファンメル教皇国との間でどのようなやり取りを交わして教会の設営や神具の提供が行われるのか、費用含めて詳しく聞いていたからな。
少なくともラグリース王国では、間違いなく神具は国が買い上げている。
だったら――
「神具の所有権はラグリース王国側にあるのです。そのラグリースのヘディン王が打ち捨てられた神具の移設を了承し、宗主国であるアースガルドへ運び込むことになんの問題があるのですか?」
同様に理屈で問うも、ルクレール司教と呼ばれた男は少し苛立った様子ですぐに答えを返す。
「神具の運搬、設置は女神様に認められた教会の者だけで行うという規則があるからです。だというのに部外者が勝手に運び込み、これほどの数の神像を1つの教会に並べるなど前代未聞……だから私はロキ王を強く非難しているのです。このままでは、この国に神の加護を与えてはならないのではないかと思ってしまうほどに」
「……」
はぁ……
出方次第では建設的に話が進む可能性も考えていたのに、何に対しても規則規則と一辺倒の回答ばかりでまともな議論にもなりやしない。
しかし、神の加護を与えてはならないか……
まるで自分が与奪の権利を握っているかのような言い方だな。
そう感じていると、こちらを真っ直ぐに見つめていた司教の男は、急にわざとらしく笑顔を作る。
「だが、私は慈悲深い。アースガルド王国に住まう民を路頭に迷わせるわけにもいきませんし、ロキ王が自らの非を認め、改善を約束されるというのなら、私も共に教皇様と女神様への許しを請いましょう」
そう言うと、司教の下の立場だと思われる、金の刺繍が多めにあしらわれた装束を纏う男が、手に持つ木板を差し出してくる。
受け取り眺めると、そこには金銭感覚がバカになっているという自覚がある俺でも目を剥くような金額が並んでいた。
「これは……」
「教会を正常な状態に戻すための費用です。ここに置かれた神具は一度こちらで全て撤収し、新たに正規の神具を卸さねばなりませんし、今まで教徒から預かってきたお布施も一度こちらで回収せねばなりませんからね」
「いや、だからと言って8000億ビーケ……?」
「これほど杜撰で身勝手な運営をされてきたのです。そちらがつけた帳簿を信用することはできないので、少し多めに見繕っていますが……まあその中には数々の違反に対する罰金も含まれていると思ってください」
いやいやいや。
確かに信用はないのだろうけど、それでも8000億ビーケって、こいつらどんな金銭感覚してるんだよ。
ステータス画面に表示された俺の総所持金額とほぼ同額くらいだぞ?
こんな金額、はいそうですかって払うやつがどこに……ん?
驚愕していると、先ほど俺に木板を渡してきた不愛想な男が、人差し指を立ててクルクルと回している。
なんだ、俺の頭がパーとでも言いたいのか?
「裏を」
「え?」
男に言われて木板をひっくり返すと、あらビックリ。
どうやら続きがあったらしく、目に入った瞬間、驚愕を通り越してふつふつと怒りの感情が込み上げてくる。
「お金だけでなく、宝物を献上……? いったい誰に、ですか?」
「もちろん教皇様と女神様に対してです。これまでの蛮行をお許しいただかねば共に歩むことも、十分な加護を得ることも難しいでしょうからね。1等級品が複数あれば望ましいですが、3等級以上であればあとは数とその内容次第で調整いたしましょう」
「……この、神子か教皇からの指示があった場合、ファンメル教皇国への召致を命じるというのは?」
「言葉の通りです。我々は女神様に代わって世界の成長を促し、均衡を保つ使命がある。なのでもしそれらを崩すような存在が現れれば協力を要請し、共に戦っていただきたいという、ただそれだけのことです」
大したことではないと。
事もなげに語る司教の表情を見て、尚更に苛立ちが強くなる。
要は俺をファンメル教皇国にとって都合の良い兵隊にしたいだけだろう?
曖昧に言葉を濁しちゃいるが、神の加護を失うという脅し文句で法外な金を要求するだけでなく、希少な宝を奪い、さらには命令一つで動かせる手駒に……
十分過ぎるほどこの男達が乗り込んできた理由を理解し、もう見切りをつけてもいいかと。
そう思っていたところで、苛立ちの元凶にしかなっていない司教の声を再び耳が拾った。
「ああそれと、ここにいくつかある"転移陣"も我々の方で回収させてもらうので、他にまだあるなら教えていただきたい」
「は?」
「神の産物とまで言われる転移陣は、我々教会本部で管理するのが望ましいでしょうからね。生み出したのがロキ王ならば製造に関する情報の提供を。別の者が生み出したのならその者は教会本部が預かるので、以後転移陣を勝手に生み出さないよう注意いただきたい」
そして、俺の中で我慢の限界が訪れる。
「へえ……作った者を、預かるんですか……?」











